トリフィンのジレンマ(Triffin Dilemma)とは
トリフィンのジレンマ とは、基軸通貨国が直面する内的安定性と外的安定性の矛盾を指す概念で、アメリカ経済学者ロバート・トリフィン(Robert Triffin)によって提唱されました。この問題は、特にドルが基軸通貨である現代の国際経済システムにおいて重要視されています。
ジレンマの内容
基軸通貨国(主にアメリカ)は、次の2つの矛盾した要件を同時に満たさなければならない:
- 国際的な流動性の提供
- 世界中の貿易や投資のために十分な量の基軸通貨(ドル)を供給する必要がある。これには、ドルの世界的な流動性を維持するためにアメリカが経常収支赤字を継続的に抱えることが必要になる。
- 通貨価値の信認維持
- 基軸通貨として信頼されるためには、通貨の安定性と経済の健全性を維持する必要がある。しかし、赤字の拡大が続くと、ドルの価値やアメリカ経済の信頼性が損なわれるリスクがある。
具体例
- ドル供給と赤字の関係
世界経済が成長し、ドルの需要が増えると、アメリカは経常収支赤字を増やしてドルを供給せざるを得ない。しかし、赤字が膨らむとドルの価値が下落し、基軸通貨としての信頼が低下する。 - 過去の事例:ブレトンウッズ体制の崩壊
1971年、ドルが金と交換できる固定相場制(ブレトンウッズ体制)が維持できなくなったのは、トリフィンのジレンマが一因とされています。ドルが基軸通貨であり続けるためには、赤字が必要だったものの、それがドルの金への裏付けを弱め、制度の崩壊につながりました。
現代の状況
現在もアメリカは経常収支赤字を続けながらドルを供給しており、トリフィンのジレンマは解決されていません。さらに、次の要素が加わり状況が複雑化しています:
- 脱ドル化の進展: 中国やロシアを中心に、ドル以外の通貨での取引を模索する動きが加速している。
- デジタル通貨の台頭: 中央銀行デジタル通貨(CBDC)や暗号資産が、ドル依存を緩和する可能性を示している。
解決の道筋
トリフィンのジレンマを完全に解決することは難しいですが、以下のアプローチが議論されています:
- 複数基軸通貨体制の構築
- ドル以外の主要通貨(ユーロ、人民元など)を国際通貨として分担させることで、ドルへの過度な依存を減らす。
- グローバルな金融改革
- 国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)の活用を拡大し、ドル以外の通貨での国際流動性を補完する。
- アメリカの財政健全化
- アメリカが財政赤字を適切に管理し、基軸通貨としての信頼性を維持する努力が求められる。
結論
「トリフィンのジレンマ」は、基軸通貨の持つ矛盾を浮き彫りにする重要な概念であり、国際金融システムの根本的な課題です。このジレンマを克服するには、国際的な協調や新しい経済構造の模索が必要とされています。
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