1. 正(テーゼ):PERは将来のキャッシュフローの期待値を表す
PER(Price Earnings Ratio、株価収益率)は、企業の利益と株価の関係を示す指標であり、一般的には以下のように定義される。
PER=$\frac{\text{株価}}{\text{1株当たり利益 (EPS)}}$
この定義から、PERは 投資家が1単位の利益に対して何倍の価格を支払っているか を示している。
伝統的なファイナンス理論では、PERは 期待将来利益の割引現在価値の近似 であると考えられる。投資家は、企業の成長性、競争優位性、マクロ経済の状況を考慮して将来の利益を見積もり、それに基づいて現在の株価を形成する。そのため、PERが高い場合、「将来のキャッシュフローが増加する」と市場が期待していると解釈できる。
この理論を支持する具体例として、成長株(例:テクノロジー企業)は一般にPERが高く、市場が将来の高い利益成長を期待していることが分かる。一方で、成熟企業(例:公益企業)はPERが低く、将来の成長期待が低い。
2. 反(アンチテーゼ):PERは単なる市場の短期的な評価であり、将来のキャッシュフローを反映しない
PERが将来のキャッシュフローを正しく反映しているという考えには批判がある。具体的な反論をいくつか挙げる。
- 市場の短期的なセンチメントによる歪み
- 株価は短期的には投機的な要因(例:中央銀行の金融政策、地政学リスク、投資家心理)に大きく左右される。そのため、PERが高いからといって、必ずしも将来のキャッシュフローが高いとは限らない。バブル期のIT企業や仮想通貨市場の過剰評価が典型的な例である。
- 利益の会計的操作
- EPSは会計基準の影響を受けやすく、減価償却の方法や法人税の変動、企業の利益操作(例:自社株買い)によって変動する。したがって、PERが将来のキャッシュフローを正確に反映しているとは言い難い。
- 事業リスクの変化
- 企業の競争環境や技術革新の影響で、将来のキャッシュフローは大きく変動する。例えば、かつてPERが高かったノキアやコダックは技術革新に適応できず、利益が激減した。このようなケースでは、PERが過去の利益に基づいて計算されていたため、将来のキャッシュフロー予測としての信頼性が低かったことが明らかである。
3. 合(ジンテーゼ):PERは将来のキャッシュフローの期待値を表すが、不完全である
以上の議論を踏まえると、PERは 市場が期待する将来のキャッシュフローの一側面を捉えているが、完全な指標ではない という結論が導ける。
- 相対的な指標としての有効性
PER単体では将来のキャッシュフローを正確に予測するのは難しいが、同業他社や市場平均と比較することで、企業の評価の過熱感や割安度をある程度判断できる。 - 補完指標との併用
企業の将来キャッシュフローをより正確に把握するためには、PERだけでなく、PEGレシオ(成長率調整PER)、EV/EBITDA(企業価値/営業利益)、フリーキャッシュフロー(FCF)などを併用することが重要である。 - 市場のセンチメントを考慮した評価
PERが高い企業の中には、過剰な期待によって割高になっているものもあれば、本当に成長性が高い企業もある。したがって、PERを利用する際には、マクロ環境や企業の競争優位性、経営戦略などを考慮することが求められる。
結論
PERは 市場が期待する将来のキャッシュフローの一側面を捉えているが、完全な指標ではない。市場の短期的な動きや会計上の利益操作、業界環境の変化を考慮しなければ、PERだけで将来のキャッシュフローを正確に予測することは難しい。そのため、PERを活用する際には、他の財務指標やマクロ環境の分析と組み合わせて、より包括的な評価を行うことが必要である。
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