SOXLにおける「無限併合」の可能性と背景

過去の株式併合履歴と現在の価格水準

SOXL(Direxion デイリー半導体株ブル3倍ETF)は、これまで株価水準に応じて株式分割(株式分割=価格引き下げ)や株式併合(価格引き上げ)を実施してきました。たとえば、2021年3月には半導体セクターの急騰で価格が高騰したため15対1の株式分割(フォワード・スプリット)を行い、1株あたりの価格を1/15に引き下げています (Direxion Announces Forward and Reverse Splits of Five ETFs | Direxion)。逆に、大幅下落時には株式併合(リバース・スプリット)で価格を引き上げることが想定され、一般的に基準価格が5ドル程度を下回ると10対1程度の併合が行われるとされています (SOXLが一桁台に入りましたが、レバレッジのかかった商品は0ドル以下にも振… – Yahoo!知恵袋)。実際、Direxion社は2022年3月に、SOXLのベア型にあたるSOXS(半導体ベア3倍ETF)が低価格帯に落ち込んだ際に1対10の併合を実施しており、発行口数を1/10に圧縮し価格を10倍に調整しました (Direxion Announces Reverse Splits of Two ETFs: DRIP & SOXS | Direxion) (Direxion Announces Reverse Splits of Two ETFs: DRIP & SOXS | Direxion)。SOXL自身は過去に長期低迷した局面でも最安値が実質5ドル台程度で踏みとどまったため大幅な併合に至った事例はありませんが、これは半導体指数の長期的な上昇基調に支えられた側面があります。

現在のSOXLの価格水準は1桁ドル台には達しておらず、直近(2025年4月上旬)では15~16ドル前後で推移しています (High volatility in SOXL ETF price on Wednesday which ended trading at $16.26)。これは2022年10月の暴落時に付けた8~9ドル台 (Direxion Daily Semiconductor Bu price | Digrin)(半導体市況悪化に伴う安値)からは大きく回復した水準です。また、2023年から2024年前半にかけて半導体株価が急反発した影響で、SOXLは2024年6月に一時50ドル台半ばまで急騰しました (Direxion Daily Semiconductor Bu price | Digrin)。その後は半導体セクターの調整で再び下落していますが、それでも過去最安値圏(5ドル以下)からは距離がある状況です。従って、現時点で直ちに株式併合(リバース・スプリット)が迫っているわけではなく、「無限併合」のような極端な状況には達していません。

半導体セクターの市況と短期的見通し

半導体セクターは景気循環によるアップダウン(シリコンサイクル)が激しい業界です。2022年は需要調整や在庫調整で世界半導体売上が減少し、関連株価も大きく下落しました。しかし2023年後半からはAI需要やデータセンター向け需要を追い風に回復基調となり、2024年以降は再び成長局面に入るとの予測があります。実際、WSTS(世界半導体市場統計)の予測では2024年の半導体市場は前年比+16.0%、2025年も+12.5%の二桁成長が見込まれており (鬼は笑うかもしれないが…シリコンサイクルは2025年頭にはピーク …)、メモリを含む主要分野で需要回復が期待されています。こうした業界見通しが実現すれば、半導体株指数(SOX指数など)は中期的に持ち直し、SOXLの基盤となる指数も上昇が続く可能性が高まります。

もっとも、短期的には地政学リスクや景気減速懸念、金利動向によって大きな変動(ボラティリティ)が起こるリスクも残ります。仮に今後1年以内に半導体指数が急落するシナリオとしては、例えば世界景気の大幅悪化や主要メーカーの業績失速などが考えられます。しかしそれでも半導体指数が数ヶ月で50%以上暴落するような極端なケース(SOXLが1ドル割れするような事態)は「理論的にはあり得るが現実的には起きない」と指摘されています (SOXLは理論上1ドル以下になることはありますか?0ドルになったら何がど… – Yahoo!知恵袋)。万一そのような暴落が起きた場合、NY証券取引所のルール上株価1ドル未満が6ヶ月続くと上場廃止となるため、運用会社は期限内に価格を引き上げる措置を取る必要があります (SOXLは理論上1ドル以下になることはありますか?0ドルになったら何がど… – Yahoo!知恵袋)。具体的には株式併合による立て直しか、あるいはETF自体の繰上げ償還(清算)が検討されるでしょう。2022年4月のYahoo知恵袋の専門家回答でも「一定の時価総額を切ったら即償還、実質的に投資額が戻ってこない事態になる」と指摘されており (soxlの場合、償還期限とか償還条件(一定価格よち下がったり上… – Yahoo!知恵袋)、運用資産の著しい目減り時にはファンドを存続させず償還する判断もあり得ることが示唆されています。

総じて、直近1年間のセクター回復基調と業界見通しは明るく、よほどの急変がない限り短期的にSOXLが再度一桁ドル台に沈む可能性は高くないと言えます。従って「今後1年以内に“無限併合”が現実化するか」という問いに対しては、現実的なシナリオでは低いと考えられます。ただし半導体株は変動が激しいため、例えば短期的な急落で一時的に5ドル近辺まで下落した場合には運用会社が機動的に1度程度の併合を行う可能性は否定できません。その点は引き続き注意が必要です。

レバレッジETF特有の構造的リスク(日次リセットとボラティリティ・デカイ)

レバレッジ3倍ETFには構造上のリスクとして、日々の値動きを指数の3倍にするための再設定(リバランス)と複利効果による**ボラティリティ・デカイ(高い変動率による価値減衰)**があります (レバレッジ型・インバース型ETF等の投資リスク | みずほ証券)。これらは長期保有時に基準指数との乖離や元本棄損を招く要因です。

以上のようにレバレッジETF固有の構造的な下落圧力(手数料コストや先物ロールオーバーコストも含む)があるため、長期に保有すれば理論上いずれ価格が低下し続け、繰り返し併合が必要になる可能性があります。これが投資家の言う「無限併合」の背景にある現象です。ただし、実際の運用では極端な場合にはファンドを清算してしまうこともあり、無限に併合を繰り返す前に運用終了となるケースも多い点には注意が必要です(過去には原油3倍ETFなどが暴落時に繰上げ償還された例があります)。したがって、「無限併合」と言っても永遠に併合しながら存続し続ける保証はなく、投資家にとっては最終的に元本が大幅棄損するリスクであると理解すべきでしょう。

Direxion社による併合基準と最近の傾向

Direxion社は、自社のレバレッジETFの価格水準に応じて機械的に分割/併合を実施する傾向があります。一般には前述したように5ドル前後を一つの目安としており、それを下回る水準が続く場合には1対10程度の株式併合で対応し、価格を50ドル程度にテコ入れする (SOXLが一桁台に入りましたが、レバレッジのかかった商品は0ドル以下にも振… – Yahoo!知恵袋)――このルールは投資家間でも広く認識されています。実例として、2022年初頭に半導体株が高騰した際にはブル型のSOXLやTECLで大規模な株式分割(15対1や10対1)を行い (Direxion Announces Forward and Reverse Splits of Five ETFs | Direxion)、逆に同時期に低迷していたベア型のSOXSでは1対10の併合を実施しました (Direxion Announces Reverse Splits of Two ETFs: DRIP & SOXS | Direxion)。このように同じタイミングで複数のETFに対して分割と併合を組み合わせて実施していることからも、Direxion社が各ETFの価格レンジを適切に保つことを重視しているのが分かります。

近年の傾向を見ると、株式市場全体のボラティリティ増大に伴い分割・併合の頻度も増えているようです。例えば、2020~2022年にかけての相場では、コロナショック→急回復→インフレショックと目まぐるしく相場環境が変化したため、Direxionはその間に多数のETFで分割/併合を発表しました(特に2021年にはブル型ETFの大規模分割、2022年にはベア型ETFの大規模併合が相次ぎました)。SOXLについて言えば、前述の通り2021年に分割して以降、2022年の下落局面では併合を実施せずに乗り切った経緯があります。この背景には、2022年後半~2023年に半導体セクターが持ち直すとの見込みがあったことや、併合なしでも最低価格がぎりぎり一桁ドルに留まったことがあるでしょう。仮に2023年以降も下落が続いていれば、2023年中に1対10程度の併合が実施されていた可能性はあります。今後もDirexion社は各ETFの基準価額が極端に低迷すれば迅速に併合を実施する方針と考えられますが、逆に価格が上がり過ぎた場合には分割で流動性を高めるなど、柔軟に対応する姿勢を保っています (Direxion Announces Forward and Reverse Splits of Five ETFs | Direxion)。したがって、SOXLが今後1年で仮に大幅下落した場合も適切なタイミングで1度併合することで「無限」に至る前に対処する可能性が高く、投資家保護の観点からも管理されていくものとみられます。

他の3倍ETF(TECL、TQQQなど)との比較

SOXLと同様に高リスク高リターンの商品である3倍ブル型ETFとして、TECL(デイリー米国テクノロジー株ブル3倍)やTQQQ(NASDAQ100指数ブル3倍、ProShares社)があります。これらと値動きや分割履歴を比較すると、レバレッジETFの性質がより鮮明に浮かび上がります。

図:SOXL(半導体3x)、TECL(テクノロジー3x)、TQQQ(NASDAQ100 3x)の価格推移比較(2022年1月を100として相対値)|2022年以降の3年間で、TQQQ(緑)は概ね基準水準を維持しているのに対し、TECL(青)は一時150を超える上昇後に現在約50付近まで低下、SOXL(赤)は上昇と下落を繰り返しつつも現時点で約30~40程度と、基準から大きく下振れしている (High volatility in SOXL ETF price on Wednesday which ended trading at $16.26) (Direxion Daily Semiconductor Bu price | Digrin)。これは半導体セクターの変動率の高さを反映しており、同じ3倍ETFでも対象指数の性質によって長期リターンに差が出ていることを示す。

まずTQQQはNASDAQ-100指数の3倍型ですが、2010年の設定来一貫して指数自体が強い上昇トレンドに乗ったため、長期リターンは極めて高くなっています(設定来で+7700%以上 (TQQQ vs. SOXL — ETF Comparison Tool | PortfoliosLab))。その結果、ProShares社は2017年以降2022年までに計4回の株式分割(2対1や3対1)を実施しており (TQQQ ProShares UltraPro QQQ ETF Stock Split History)、常に価格を抑えて流動性を確保してきました。逆に言えば、TQQQは一度もリバース・スプリット(併合)を経験していません。2022年のハイテク株急落局面でも、TQQQは最高値から約80%下落しながらもなお二桁ドルを保ったため併合は不要で、その後2023年のハイテク回復で大部分の下落を取り戻しています (ProShares UltraPro QQQ price | Digrin) (ProShares UltraPro QQQ price | Digrin)。このように、基礎指数に長期上昇バイアスが強い場合、レバETFでも「無限併合」どころかむしろ分割を繰り返す成功パターンになり得ます。

一方、TECL(テクノロジーセレクトセクター指数の3倍)は半導体より広範なハイテク株全般を対象とし、ソフトウェアやハードウェア大手を多く含むためSOXLより値動きはマイルドです。その分、長期成績も良好で、設定来リターンはSOXLを上回ります(2008年設定~現在で+4344%、SOXLの+1348%より大きい (SOXL vs. TECL — ETF Comparison Tool | PortfoliosLab))。TECLも2021年に10対1の株式分割を行いました (Direxion Announces Forward and Reverse Splits of Five ETFs | Direxion)が、過去に併合をした記録は見当たりません。もっとも2022年の下落ではTECLも一時20ドル台前半まで落ち込み (Direxion Technology Bull 3X Sha price | Digrin)、SOXLほどではないにせよ基準指数の変動で大きく上下しています。図のように、2024年前半にはTECLがSOXL以上に高値(相対値150超)をつけた後、直近では急降下しており (image)、値動きの激しさではTECLも同様のリスクを孕んでいることが分かります。これは半導体株の比率が高いNASDAQ100やハイテク指数全般が2024年後半に調整した影響であり、特定セクターに集中する3倍ETFほど暴騰と暴落の振れ幅が大きいという傾向を裏付けています。

以上を踏まえると、SOXL固有のリスクというより、3倍レバレッジETF全般に共通する性質が「無限併合」に繋がり得ることがわかります。つまり、長期に保有すればいずれ大きな下落局面が訪れ、その度に併合が必要になる可能性がある点です。もっとも、前述のように半導体セクターには長期成長の期待もあり、市場環境次第ではSOXLも再び株式分割を要するほど値上がりする展開も十分あり得ます。実際、NVIDIAやTSMCなど半導体大手の株価が好調な時期にはSOXLはわずか数ヶ月で数倍に急騰することも珍しくありません(過去2年でも8ドル台→55ドル台への急反発を経験)。したがって、無限に下落し続けるか、無限に上昇し続けるかは市況次第であり、「無限併合」はあくまで下落局面が長期化した場合の最悪シナリオだと位置付けられます。

結論:今後1年で「無限併合」は現実的か?

結論として、今後1年程度の短期的視野でSOXLに“無限併合”が起こる現実性は低いと考えられます。現在の価格水準(15ドル前後)や業界見通し(二桁成長の予測 (鬼は笑うかもしれないが…シリコンサイクルは2025年頭にはピーク …))を踏まえると、直ちに繰り返し併合を要するほどの急降下シナリオは想定しにくいからです。半導体需要は底入れしつつあり、仮に相場が調整しても運用会社は1回程度の併合で対処し、ファンドを維持する余地があります。

ただし強調すべきは、レバレッジETFへの長期投資そのものが高リスクである点です。SOXLに限らず3倍ETFは短期売買向けの商品であり、長期間ホールドすればボラティリティ・デカイによる価値目減りや予期せぬ暴落による大幅希薄化(併合)を経験しやすい (レバレッジ型・インバース型ETF等の投資リスク | みずほ証券)。実際、他の投資家からも「SOXLを30年持ち続けるのは得策か?」といった質問に対し「こういった商品は短期売買すべき」との助言が寄せられている例があります (SOXLが一桁台に入りましたが、レバレッジのかかった商品は0ドル以下にも振… – Yahoo!知恵袋)。もし今後1年で半導体セクターが大暴落した場合には、一度は併合が行われる可能性がありますが、それでも運用会社はファンド価値維持のため手を打つため「無限」に併合を重ねる展開には至らないでしょう。また、万一の極端な暴落時には**繰上げ償還(ファンド終了)**の措置も考えられるため、その意味でも「無限に併合が続く」という状況は現実的には発生しにくいと言えます。

総括すると、SOXLの無限併合シナリオは短期的には現実味が薄いものの、これは商品固有のリスクが消滅したわけではありません。レバレッジETFに投資する際は常にボラティリティと時間の経過が敵になり得ることを念頭に置き、適切なリスク管理と投資期間のコントロールを行うことが重要です (レバレッジ型・インバース型ETF等の投資リスク | みずほ証券)。無限併合を心配するよりも、まずはレバETFを長期塩漬けにしないことが最大の防御策と言えるでしょう。

参考文献・出典: 半導体株指数・レバレッジETFの価格データ (Direxion Daily Semiconductor Bu price | Digrin) (High volatility in SOXL ETF price on Wednesday which ended trading at $16.26)、Direxion社プレスリリースおよびYahoo知恵袋の専門家回答 (SOXLが一桁台に入りましたが、レバレッジのかかった商品は0ドル以下にも振… – Yahoo!知恵袋) (Direxion Announces Reverse Splits of Two ETFs: DRIP & SOXS | Direxion) (SOXLは理論上1ドル以下になることはありますか?0ドルになったら何がど… – Yahoo!知恵袋) (soxlの場合、償還期限とか償還条件(一定価格よち下がったり上… – Yahoo!知恵袋)、証券会社によるレバレッジETFのリスク解説 (レバレッジ型・インバース型ETF等の投資リスク | みずほ証券)、他の3倍ETF(TECL・TQQQ)の実績比較 (SOXL vs. TECL — ETF Comparison Tool | PortfoliosLab) (TQQQ ProShares UltraPro QQQ ETF Stock Split History)などを総合して作成しました。

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