2025年にドナルド・トランプ氏が再び大統領に就任した場合、半導体に関する関税政策は以下のような方向性とスケジュールで進むことが明らかになっています。
トランプ氏の公約と基本方針
トランプ氏は選挙キャンペーンや政策発表において、大規模な関税措置を予告していました。その中で半導体分野も重要な対象となっています。
- 全品目への一律関税公約: トランプ氏は「全ての国からの輸入品に一律10%の関税」を課すと表明しました (Fact Sheet: President Donald J. Trump Declares National Emergency to Increase our Competitive Edge, Protect our Sovereignty, and Strengthen our National and Economic Security – The White House)。さらに、中国に対しては最大60%もの高関税を課す考えも示しており、2024年の選挙公約として明言しています (What’s in Trump’s sweeping new reciprocal tariff regime | Reuters)。これらは米国の貿易赤字是正と製造業回帰を目的とした「アメリカ第一」の貿易政策の一環です。
- 半導体への関税示唆: トランプ氏は重要物資の国内回帰策として半導体(コンピュータチップ)に対する関税にも言及しました。 (Trump proposed tariffs on Taiwan-made computer chips – AsAmNews)によれば、彼は「近いうちに外国で生産されたコンピュータチップや半導体、医薬品に関税を課し、それら必需財の生産を米国に取り戻す」と述べています。この発言は台湾のTSMC(台湾積体電路製造)などに依存する現状への危機感に基づくもので、「半導体産業を米国に取り戻す」ことが狙いです (Trump To Tariff Chips Made In Taiwan, Targeting TSMC | PCMag)。
- 高率関税による圧力: 半導体関税の具体的な税率について、トランプ氏は25%、50%、さらには100%もの関税を示唆しています (Trump To Tariff Chips Made In Taiwan, Targeting TSMC | PCMag)。巨額の補助金を出す代わりに「外国でチップを作れば最大100%の税(金)を払う羽目になる」という強硬策で、企業に米国内への製造移転を促す考えです (Trump To Tariff Chips Made In Taiwan, Targeting TSMC | PCMag) (Trump To Tariff Chips Made In Taiwan, Targeting TSMC | PCMag)。彼は「唯一の回避策はアメリカに工場を建てることだ」と述べており、この発言からTSMCやサムスンなど海外の半導体メーカーに対する圧力を鮮明にしています (Trump To Tariff Chips Made In Taiwan, Targeting TSMC | PCMag)。
関税措置のスケジュール
2025年初頭から、トランプ政権は大幅な関税措置を段階的に実施しています。 現時点で判明している主なスケジュールは以下のとおりです。
- 2025年4月5日: 一律関税の発動開始日です。この日以降、国別の例外を除き全ての輸入品に一律10%の関税が適用されました (Fact Sheet: President Donald J. Trump Declares National Emergency to Increase our Competitive Edge, Protect our Sovereignty, and Strengthen our National and Economic Security – The White House)。この措置は国家緊急権限(国際緊急経済権限法=IEEPA)に基づくもので、トランプ大統領は巨額の貿易赤字を「国家の非常事態」と宣言して強行しました (Fact Sheet: President Donald J. Trump Declares National Emergency to Increase our Competitive Edge, Protect our Sovereignty, and Strengthen our National and Economic Security – The White House) (What’s in Trump’s sweeping new reciprocal tariff regime | Reuters)。
- 2025年4月9日: 国別上乗せ関税の適用開始日です。4月5日の一律10%に加え、各国の貿易慣行や赤字額に応じて国別の追加関税がこの日から発動されました (Fact Sheet: President Donald J. Trump Declares National Emergency to Increase our Competitive Edge, Protect our Sovereignty, and Strengthen our National and Economic Security – The White House)。例えば、中国には**+34%、台湾には+32%、韓国には+25%、日本には+24%といった高率関税が課されています ( President Trump Orders Tariffs on Practically All Goods Imported Into the United States | Baker Donelson ) (What’s in Trump’s sweeping new reciprocal tariff regime | Reuters)。これにより主要貿易相手国には合計で数十%規模の関税がかかることになりました(※中国に対しては別途2月に課した20%関税と合わせ実質54%**に達する (What’s in Trump’s sweeping new reciprocal tariff regime | Reuters))。
- 半導体関税の時期: 半導体製品に対する関税措置自体は、上記の日程ではまだ発動されていません。 先述のようにトランプ氏自身「近いうちに」と述べていますが、具体的な発動日は未定です。ただし政権高官は既に「半導体や医薬品を対象とした別の関税を計画中」であると明言しており (トランプ氏が相互関税発表、日本は24% 全ての国に一律10% | ロイター)、現在その詳細を検討している段階です。実務的には、国家安全保障を名目にした調査(通商拡大法232条など)を経て数ヶ月以内に発動される可能性があります。商務長官に指名されたハワード・ラトニック氏も「半導体は現在精査中で、いずれ関税措置が取られる」と述べており (Lutnick: US Needs to Take Chip Production From Taiwan – Business Insider) (Lutnick: US Needs to Take Chip Production From Taiwan – Business Insider)、2025年中にも追加発表がある見通しです。
対象国・地域とその関税措置
今回のトランプ政権の関税政策では、多くの国が対象とされています。特に中国・台湾・韓国は半導体貿易で重要な国々であり、その扱いは以下の通りです。
- 中国: トランプ氏は中国との巨額な貿易赤字を問題視し、第二次政権で対中関税を一段と強化する方針です。選挙中から**「中国製品に60%の関税」を打ち出しており (What’s in Trump’s sweeping new reciprocal tariff regime | Reuters)、実際に現在は34%の相互関税(+既存20%)が課されています (What’s in Trump’s sweeping new reciprocal tariff regime | Reuters)。半導体については、米国の対中輸出規制(先端技術の輸出管理)も相まって、中国製チップの輸入自体が少ない状況ですが、新たな半導体関税が導入されれば中国からの成熟プロセス品なども含め対象**になると見られます。
- 台湾: 台湾は米国にとって先端半導体供給の要ですが、貿易黒字が大きいため国別関税32%が適用されました (Taiwan says US tariffs unreasonable, partly blames Trump policies for trade surplus | Reuters)。しかし「半導体(台湾の主要輸出品)にはこの関税は適用しない」とされており (Taiwan says US tariffs unreasonable, partly blames Trump policies for trade surplus | Reuters)、現時点で台湾製チップは一律関税・相互関税の対象外です。これはホワイトハウスの発表でも明記されており、半導体は銅・医薬品などとともに今回の相互関税から除外された品目です (トランプ氏が相互関税発表、日本は24% 全ての国に一律10% | ロイター)。その一方で、トランプ政権は台湾のTSMCに対し米国内生産を強く求める圧力策を準備中で、将来的には台湾製チップにも別途高関税(最大100%)を課す構想を示しています (Trump To Tariff Chips Made In Taiwan, Targeting TSMC | PCMag) (Trump To Tariff Chips Made In Taiwan, Targeting TSMC | PCMag)。台湾政府は「これらの措置は不合理であり、世界経済へ悪影響を懸念する」と表明し、米側と協議する意向です (Taiwan says US tariffs unreasonable, partly blames Trump policies for trade surplus | Reuters) (Taiwan says US tariffs unreasonable, partly blames Trump policies for trade surplus | Reuters)。
- 韓国: 韓国も米国に半導体を輸出する主要国(サムスン電子やSKハイニックスなど)であり、**国別関税25%**が設定されました ( President Trump Orders Tariffs on Practically All Goods Imported Into the United States | Baker Donelson )。現在、この追加関税は自動車や機械など幅広い製品に及びます。ただし台湾と同様、半導体製品自体は現行の関税リストから除外されています (トランプ氏が相互関税発表、日本は24% 全ての国に一律10% | ロイター)。今後導入される可能性のある半導体関税が発動すれば、韓国メーカーのメモリやロジックチップも対象となりうるため、韓国経済への影響も注目されています。
- その他の国・地域: 日本(24%)、欧州連合(20%)なども相互関税の対象となっています ( President Trump Orders Tariffs on Practically All Goods Imported Into the United States | Baker Donelson )。これらの国々は半導体製造装置や材料の供給国でもあります。ただし現時点で半導体製造装置や素材に特化した関税措置は発表されていません。米国は先端リソグラフィ装置等をオランダや日本から輸入しており、これらに関税を課すと米国内の製造拡大に支障が出るため、政策当局も慎重とみられます。実際、今回の発表では**「米国で入手できない特定の鉱物やエネルギー」**も関税適用除外リストに含まれており (トランプ氏が相互関税発表、日本は24% 全ての国に一律10% | ロイター)、半導体製造に不可欠なレアアースや素材・装置も同様に配慮される可能性があります。
対象となる製品分野
半導体関税政策の対象製品として想定されるのは、主に完成した半導体チップそのものです。現在判明している情報から、製品カテゴリごとのポイントを整理します。
- 先端半導体(ハイエンド・チップ): 米国のハイテク企業(Apple、NVIDIA、Qualcomm等)が台湾TSMCや韓国サムスンで生産している最先端プロセスのチップが焦点です。トランプ氏の発言「彼ら(米企業)は我々を去り台湾に行ってしまった」 (Trump To Tariff Chips Made In Taiwan, Targeting TSMC | PCMag)は、この先端ロジック半導体の海外依存を指しています。したがって、将来導入される半導体関税は5nmや3nmクラスなどの先端ノードのプロセッサやAIチップに強い影響を与えると考えられます。実際、トランプ政権は「iPhoneや高性能GPUがなぜ台湾・中国で作られるのか。ロボットでアメリカでも作れるはずだ」と問題提起しており (Lutnick: US Needs to Take Chip Production From Taiwan – Business Insider)、スマートフォン向けSoCやデータセンター向けGPUといった製品も念頭に置かれています。
- 成熟プロセスの半導体: 自動車や家電向けなど旧世代プロセス(例えば28nm以降)のチップについても、トランプ氏は特に線引きをしていません。**「外国で生産された半導体」**全般を対象にすると述べているため (Trump To Tariff Chips Made In Taiwan, Targeting TSMC | PCMag)、成熟ノードのロジックICやメモリ、アナログ半導体も一律に課税対象となる可能性があります。ただし、米国内にも既に生産拠点があるメモリ(マイクロン)や旧世代ファウンドリ(グローバルファウンドリーズなど)については、関税導入で相対的に国内製品が有利になる展開も予想されます。
- 半導体製造装置・部材: 先述の通り、具体的な対象とはされていません。関税措置よりも輸出規制など安全保障面からのアプローチが取られており、例えばEUV露光装置の対中輸出禁止などは既に別途実施されています。一方で、日本やオランダから輸入する装置に関税を課すという公式発表はなく、現行の相互関税でも装置類は除外されています (トランプ氏が相互関税発表、日本は24% 全ての国に一律10% | ロイター)。むしろ半導体関税が実施されれば、装置メーカーにとっては米国内の新工場建設が進む追い風ともなりうるため、装置そのものへの関税は検討されていないようです。
現時点で判明している状況と今後の見通し
現時点(2025年4月初旬)で明らかになっている第二次トランプ政権の半導体関税政策を総括すると、以下のようになります。
- 4月時点では未発動: 他の多くの輸入品と異なり、半導体についてはまだ追加関税が発動していません。4月5日から開始された一律10%関税および国別上乗せ関税に半導体は含まれず、当面は現行関税率(ゼロまたは従来の低関税)のまま据え置かれています (Taiwan says US tariffs unreasonable, partly blames Trump policies for trade surplus | Reuters) (トランプ氏が相互関税発表、日本は24% 全ての国に一律10% | ロイター)。これは米国内産業への即時影響を避けるための猶予とみられます。
- 別枠での関税導入が予定済み: ホワイトハウス当局者の発言やトランプ氏自身の声明から、半導体関税は「別途」用意されている政策カードであることが確認できます (トランプ氏が相互関税発表、日本は24% 全ての国に一律10% | ロイター)。今後数ヶ月以内に大統領令や追加の関税措置として表面化する可能性が高く、「Very near future(ごく近い将来)」というトランプ氏の言葉通りであれば2025年中頃までに具体案が発表・施行されることも十分考えられます (Trump proposed tariffs on Taiwan-made computer chips – AsAmNews)。
- 関連する動き: トランプ政権の圧力を見据えて、TSMCは米国への追加投資1000億ドル規模の計画を発表するなど(2025年3月)動きを見せています (Taiwan says US tariffs unreasonable, partly blames Trump policies for trade surplus | Reuters)。台湾当局も米国との協調を強調しつつ、自国企業への影響は限定的との見解(技術的優位性から見て影響は小さいだろう、等)を示しています (Trump proposed tariffs on Taiwan-made computer chips – AsAmNews) (Trump proposed tariffs on Taiwan-made computer chips – AsAmNews)。一方、米国内では関税がサプライチェーンに混乱を招き、半導体価格の高騰や供給逼迫を招く恐れも指摘されています (Trump, CHIPS, and Tariffs: How the 2024 U.S. Election Will Reshape the Semiconductor Industry | TechInsights) (Trump, CHIPS, and Tariffs: How the 2024 U.S. Election Will Reshape the Semiconductor Industry | TechInsights)。バイデン政権下で成立したCHIPS法による補助金路線と異なり、関税強化路線は業界に新たな不確実性をもたらしており、専門家は慎重なモニタリングを呼びかけています (Trump, CHIPS, and Tariffs: How the 2024 U.S. Election Will Reshape the Semiconductor Industry | TechInsights) (Trump, CHIPS, and Tariffs: How the 2024 U.S. Election Will Reshape the Semiconductor Industry | TechInsights)。
- まとめ: 第二次トランプ政権は「関税による半導体産業の底上げとサプライチェーン再編」を掲げており、その発動時期は近いと見られます。形式上はまず2025年4月に包括的関税枠組みを敷き、その後数ヶ月以内に半導体や医薬品といった特定戦略物資への高関税を追加する段取りです。 (トランプ氏が相互関税発表、日本は24% 全ての国に一律10% | ロイター)現段階で明らかになっている対象国は主に中国・台湾・韓国といった半導体供給源で、対象製品は先端チップを含む幅広い半導体となる見込みです。 (Trump To Tariff Chips Made In Taiwan, Targeting TSMC | PCMag) (Trump To Tariff Chips Made In Taiwan, Targeting TSMC | PCMag) トランプ陣営からの公式発表や演説内容にもとづけば、関税開始時期は早ければ2025年内、税率は25~100%の範囲で段階的に導入される可能性があります (Trump To Tariff Chips Made In Taiwan, Targeting TSMC | PCMag) (Trump proposed tariffs on Taiwan-made computer chips – AsAmNews)。今後の正式発表については、政権の追加声明や米商務省による調査結果の公表を待つ必要がありますが、以上が現時点で判明している半導体関税政策の情報です。
参考資料: 関連する報道として、ホワイトハウスの声明や主要メディアの記事を以下に挙げます(引用は本文中に示した箇所):
- ホワイトハウス「国家緊急事態宣言と相互関税に関するファクトシート」 (Fact Sheet: President Donald J. Trump Declares National Emergency to Increase our Competitive Edge, Protect our Sovereignty, and Strengthen our National and Economic Security – The White House) (トランプ氏が相互関税発表、日本は24% 全ての国に一律10% | ロイター)
- ロイター通信(英語版・日本語版)による関税発表と各国への影響の報道 (What’s in Trump’s sweeping new reciprocal tariff regime | Reuters) (Taiwan says US tariffs unreasonable, partly blames Trump policies for trade surplus | Reuters)
- トランプ氏や商務長官候補による発言(Business Insider・PCMag記事など) (Lutnick: US Needs to Take Chip Production From Taiwan – Business Insider) (Trump To Tariff Chips Made In Taiwan, Targeting TSMC | PCMag)
- その他、政策分析記事(TechInsights (Trump, CHIPS, and Tariffs: How the 2024 U.S. Election Will Reshape the Semiconductor Industry | TechInsights)等)や台湾当局の反応に関する報道 (Taiwan says US tariffs unreasonable, partly blames Trump policies for trade surplus | Reuters)など。
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