米国の対中国・対メキシコ・対カナダからの輸入品に対する関税率(2024~2025年時点)

中国からの輸入品に対する関税

米国は中国からの輸入品に対し、通常の最恵国待遇(MFN)関税に加えて大規模な追加関税(制裁関税)を課しています。2018年以降「通商法301条」に基づく制裁関税が段階的に導入され、多くの中国製品に7.5%~25%の追加関税が上乗せされてきました。さらに2024年には戦略的分野を対象に関税率の引き上げが発表・実施され、一部品目では異例の高関税が適用されています。以下、主要品目別に現在の関税率を整理します。

  • 半導体(集積回路など): 中国製半導体には関税率0%(MFN)が基本ですが、現在は50%の追加関税が課されています。これは従来25%であった制裁関税が2025年より引き上げられたものです。したがって、中国からの半導体や関連部品の実際の関税率は**合計50%**と非常に高率です(国家安全保障上の理由で引き上げ措置)。
  • 自動車(完成車): ガソリン車など通常の乗用車のMFN税率は2.5%(軽トラックは25%)ですが、中国からの完成車には制裁関税も適用されます。特に電気自動車(EV)については、従来25%だった追加関税が100%に大幅引き上げされました(2024年下期実施)。その結果、中国製EVの関税率は合計102.5%にも達し、事実上輸入が困難になる水準です。EV以外の乗用車についても中国からの輸入例は少ないものの、該当する場合は2.5%+制裁関税25%(計約27.5%)が適用されるとみられます。自動車部品については品目ごとに異なりますが、エンジンや電装品等多くの部品が追加関税の対象で**MFN数%+25%**の合計約30%前後の関税率となっています。
  • 農産品・食品: 品目によって基礎関税は様々ですが、米国のMFN関税率は生鮮野菜・果物・水産物など多くの品目で0~10%程度と低めです。中国産の農産物・食料品にも幅広く制裁関税が課されており、最大で25%の追加関税が上乗せされています。例えば、中国産のシーフード(魚介類)は本来関税が0%のものが多いですが、現在は25%の追加関税対象となっており実質25%の関税率となっています。また、中国茶や調味料、加工食品などもMFN税率は数%前後ですが追加25%が適用され、合計税率は数十%に達します(例:ある種の缶詰食品はMFN5%+追加25%で計30%)。農産品全般で中国からの輸入品は実行関税率が以前より大幅に上昇している状況です。
  • 機械類・電気機器: 工作機械、産業用機械、家電・電子機器などの多くは、米国のMFN税率自体は0~5%前後と比較的低い設定です。しかし中国からの機械・電気機器類の多くは制裁関税リストに含まれており追加25%が課されています。したがって現在適用されている関税率は概ね25~30%程度(例:MFN5%の機械なら合計30%)となります。例えば通信機器や電子部品を含む機械類全般、家庭用電化製品など広範囲にわたりこの25%上乗せが適用中です(一部戦略的機器については除外措置もありますが基本継続)。なお2024年に発表された見直しでは、米国が依存する大型港湾クレーンなど特定機械にも新たに**最大25%**の関税を課す方針が示されており、機械分野でも対中制裁関税が強化されています。
  • 繊維製品・アパレル: 繊維製品(衣類や履物等)は元々米国のMFN関税率が比較的高く、衣料品で平均10~20%前後(製品によっては30%近く)になります。中国製の繊維製品について、最終消費財である衣類や靴の多くは追加関税7.5%が適用されています(2019年9月に15%導入、2020年2月に一部7.5%へ減額された措置が継続)。その結果、例えば中国製アパレルの典型的な関税率はMFN約15%+追加7.5%=合計22.5%程度となっています。旅行用品・帽子など他の雑貨も同様に約7.5%の追加関税対象です。一方、繊維素材(糸や生地)や家庭用繊維製品の一部は25%のリストに含まれており、それらはMFN数%+25%で合計30%前後の関税率となります。総じて、中国からの繊維・アパレル製品は従来より大幅に引き上げられた関税率が適用されている状況です。
  • その他戦略物資(鉄鋼・アルミ・電池・太陽電池など): 上記以外にも、米国は国家安全保障や産業競争力の観点から中国からの重要物資に高関税を課しています。鉄鋼製品はMFN関税率自体は低い(0~2%程度)が、2018年から「232条措置」により25%の追加関税が課せられており、中国製鉄鋼の実質関税率は25%となっています(この措置は全世界対象ですが中国は適用除外なし)。アルミニウム製品も同様に当初10%の追加関税が課されていましたが、2024年後半より中国製アルミにも25%の関税が適用されるよう調整されました。さらに蓄電池(リチウムイオン電池)については、新たに25%の制裁関税が導入され(EV用バッテリーは2024年9月から適用)、中国産バッテリーの関税率はMFN(数%)込みで合計25%超となっています。太陽電池パネルやその材料であるシリコンウェハー等も戦略分野とされ、2024年以降**50%**の高関税が段階的に適用されています。これら戦略物資への高関税措置は、米国が中国依存を減らし自国産業を保護・育成する目的で強化されたもので、今後数年かけて実施・拡大される計画となっています。

メキシコからの輸入品に対する関税

米国とメキシコの間では2020年発効の米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA/旧NAFTA)により、原産品の大部分に関税撤廃が実現しています。そのため、メキシコ原産品については通常のMFN関税率自体が適用されず、協定に基づき**無税(関税0%)となるケースがほとんどです。現在、対メキシコで中国に対するような包括的制裁関税措置は発動されておらず、以下の主要品目はいずれも実際の適用関税率は0%**です。ただしUSMCAの原産地要件を満たさない場合や、特定のセーフガード・ダンピング措置がある場合には例外的にMFN関税が課されることがあります。

  • 半導体・電子部品: 半導体等の情報技術製品はWTOの情報技術協定によりMFN関税率が**0%ですが、メキシコからの輸入の場合はUSMCAにより原産品は無税となるため実質0%**です(原産地に関係なく無税の品目です)。追加関税もありません。
  • 自動車(完成車): USMCAの下、一定の域内調達比率など厳格な原産地規則を満たしたメキシコ製乗用車は**関税0%で米国に輸入できます(台数制限もなし)。通常MFN税率は乗用車2.5%(ピックアップ等軽トラック25%)ですが、協定適用によりそれらは免除されています。自動車部品も同様で、エンジン・変速機からワイヤーハーネスに至るまで原産要件を満たせば関税0%**です。※米国は2019年に不法移民対策を理由にメキシコからの全輸入品へ最大25%の追加関税を課すと示唆したことがありましたが、この措置は発動回避されました。現在、完成車・部品ともメキシコからの輸入に制裁関税はありません。
  • 農産品: 米墨間では農産品の貿易もほぼ自由化されています。牛肉・豚肉・野菜・果物・穀物など主要農産品は関税0%で取引されており、季節品目も含め追加関税なく輸入可能です。米国側のMFN関税率は品目により0~数%(例:アボカドやトマトは本来2~4%程度)ですが、USMCAによりメキシコ産であればそれらも実質0%となります。砂糖など一部品目は数量枠管理がありますが、基本的にメキシコ産農産物への関税は撤廃済みです。制裁関税や報復関税も現時点で科されていません。
  • 機械類・電気機器: 機械設備や電気製品についても、メキシコ製で協定原産なら**関税0%**です。例えばメキシコで組立・製造された機械部品、電子機器、家電製品などは無税で米国市場に入ります(多くは北米サプライチェーンで生産)。仮に原産要件を満たさない場合でも、米国のMFN税率が低い品目(産業用機器の多くは2%以下)ではありますが、通常は企業は原産資格を取得しており関税は発生しません。現時点で追加関税措置もなく、対メキシコ機械・電機製品は非課税となっています。
  • 繊維製品・アパレル: 繊維・衣料品は協定下で双方向に自由化されています。メキシコ製アパレルも「ヤーンフォワード」などUSMCAの繊維原産規則を満たせば関税0%です。米国の衣料品MFN税率は10~20%台と高いですが、原産要件を満たした製品には適用されません。実際、ジーンズやシャツなど多くの衣類がメキシコから無税で輸入されています(生地や糸も域内調達を満たせば無税)。非原産の場合は本来の高いMFN税率課税となりますが、大手メーカーは原産地規則を順守しているため実際には関税負担なく貿易されています。
  • 鉄鋼・アルミニウム: かつて2018年に米国は安全保障理由でメキシコ産鉄鋼に25%、アルミに10%の関税(232条措置)を課しましたが、2019年に米墨合意により撤廃されています。現在メキシコ産の鋼材やアルミニウム製品は**関税0%**です(輸入量のモニタリング体制はありますが追加関税なし)。またメキシコ産のそれら金属製品には中国向けのような制裁関税もありません。ただし、特定品目では反ダンピング関税が課される場合があります(例:メキシコ産の鉄鋼管やセメントに対する個別のAD措置)が、これは品目ごとの措置であり、一般的な追加関税ではありません。

カナダからの輸入品に対する関税

カナダもUSMCAのパートナーであり、米国との間で工業製品・農産品のほぼすべてに関税撤廃が実施されています。したがって**カナダ原産品の大半は関税0%**で米国に輸出入されています。追加的な制裁関税も現在存在せず、米国はカナダからの輸入に対して基本的にMFN税率すら課していません(協定優遇が適用されるため)。主要品目ごとの状況は以下の通りです。

  • 半導体・電子部品: カナダで生産された半導体や電子部品は僅かなものですが、原産であれば**関税0%です(もともとMFN税率0%品目です)。米国は対カナダで半導体に制裁関税等を課していないため、現行関税率は0%**です。
  • 自動車: カナダ製完成車・自動車部品もUSMCAにより**関税0%で米国に輸出できます。自動車産業は北米で統合されており、多数の乗用車・トラックがカナダから無税で米国市場に供給されています(原産地規則はメキシコ同様適用)。米国は以前、自動車(特に対日・対EU)に対し関税引き上げを検討したことがありますが、対カナダでは協定内で抑えられており、追加関税措置は取られていません。したがって、乗用車の関税率は0%(協定適用)**です(原産要件外であればMFN2.5%課税となりますが、該当ケースはほぼありません)。
  • 農産品: 米加間も農産物は概ね自由化されています。小麦、肉類、油菜種(カノーラ)、加工食品などほぼ全て無税です。米国の農産品MFN関税は低いものが多いですが、例えば乳製品やピーナッツなど一部品目には本来高関税・数量制限があります。しかしカナダはそうした品目の対米輸出が限定的で、主力の穀物・肉・野菜果物等はすべて関税0%で取引されています。報復関税やセーフガードも現在なく、カナダ産農産品への追加関税は存在しません(ごく一部例外的にソフトウッド製品が後述の措置対象なくらいです)。
  • 機械類・電気機器: カナダは米国に機械・設備、工業部品等を数多く輸出していますが、USMCAにより関税は0%です。例えば産業機械、電力設備、航空宇宙部品など高価値製品も無税で米国に供給されています。米国は対カナダ機械に制裁的な関税は課していません(むしろサプライチェーンを共有)。そのため通常関税は発生していない状況です(非原産の場合でも多くはMFN税率が低いか、そもそもカナダ経由で第三国品を入れるケースは稀です)。
  • 繊維製品・アパレル: カナダから米国への繊維製品輸出量は多くありませんが、協定上は関税0%となっています。カナダでも一部繊維製品が生産されており、原産要件(糸・生地の域内調達など)を満たせば衣料品でも無税です。MFN税率は衣料品で高率ですが、カナダ産製品には適用されません。従って、実務上カナダからの繊維製品輸入に関税負担はありません
  • 鉄鋼・アルミニウム: 2018年に発動された232条の鉄鋼25%・アルミ10%関税は、カナダに対しても一時適用されましたが、2019年に米加合意で撤回されました。現在、カナダ産の鉄鋼・アルミは追加関税なし(0%)で輸入されています(モニタリングは実施)。ただし、カナダ産の木材(製材)については長年にわたり米国が反ダンピング・相殺関税を課しており、ソフトウッド製材に平均約10~20%前後の追加関税が適用されています。これは通商協定外の二国間紛争による措置ですが、農工産品を通じて他に類似の包括的関税措置はありません。総じて、カナダからの輸入品に対して米国が適用する関税率はUSMCAによりゼロ%が基本であり、現在進行中の制裁関税の対象にもなっていません。

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