米国には、連邦レベルでの「付加価値税(Value-Added Tax, VAT)」は導入されていません。ただし、一部の州や地方政府レベルでは、小売売上税(Sales Tax)という、消費に対して課税する税制があり、VATに似た間接税の役割を果たしています。
以下では、米国における付加価値税の有無、付加価値税の議論、小売売上税との違いについて詳しく解説します。
① 米国における付加価値税(VAT)の現状
- 米国には連邦レベルの付加価値税は存在しない。
- 主な間接税として、小売売上税(Sales Tax)が州政府単位で課されています。
- 売上税率は州や地方自治体ごとに異なり、州・地方を合わせた税率は通常4%~10%前後です。
② なぜ米国にはVATがないのか?
米国ではVATが導入されていない理由として、以下のような政治的・経済的要因が挙げられます。
- 政治的抵抗:
米国では消費課税を「逆進的」とする反発が強く、所得の低い層により重い負担を課すとされるVATの導入には慎重論があります。 - 州政府の権限維持:
VATが連邦レベルで導入されると、州政府の重要な税収源である売上税との競合が懸念され、州権の弱体化を招くと考えられています。 - 制度変更の困難さ:
VAT導入には既存の税制を大きく変える必要があり、行政コストや制度変更への抵抗が大きいことも理由です。
③ 米国での付加価値税導入に関する議論
近年、米国ではVAT導入に関する議論が定期的に浮上しています。
主な導入推進の論点:
- 安定した税収源の確保:所得税に比べて景気に左右されにくく、安定した歳入確保が期待される。
- 財政赤字削減への寄与:増大する財政赤字を埋める手段としての検討。
- 税制の効率化:複雑な法人税制や所得税制をシンプルにする手段としてVAT導入を主張する論者も存在。
反対意見の主な論点:
- 低所得層への負担増加(逆進性):消費支出が所得に占める割合が高い低所得者ほど負担感が強くなる。
- インフレ圧力の高まり:導入直後に物価が上昇しやすい。
- 行政負担の増加:徴収や還付手続きが複雑で行政コストが増大する。
現時点では、こうした議論にもかかわらず、米国でのVAT導入に関する具体的な動きはまだ限定的です。
④ 米国のSales Tax(小売売上税)とVAT(付加価値税)の違い
項目 | 小売売上税(Sales Tax) | 付加価値税(VAT) |
---|---|---|
課税対象 | 最終消費段階でのみ課税 | 生産・流通の各段階で課税 |
徴収方法 | 小売業者が消費者から徴収し納付 | 各段階で付加された価値に対し業者が納税 |
累積課税 | 原則なし(最終段階のみ) | あり(ただし仕入れ税額控除により重複課税を排除) |
行政負担 | 比較的単純 | 比較的複雑 |
米国の消費税(売上税)は、VATと異なり、製造業者や卸売業者など中間段階では原則課税されず、最終小売段階のみで消費者が負担する仕組みです。
⑤ 今後の見通し
米国が財政赤字を拡大させる中で、長期的にはVAT導入議論がさらに活発化する可能性があります。ただし、現時点では連邦レベルでVATが短期的に導入される見込みは低く、州ごとの小売売上税が当面の間接税の中心になると見られます。
📌 まとめ(要点)
- 米国には現在、連邦レベルでの付加価値税は存在しない。
- **州単位の売上税(Sales Tax)**が間接税の主流。
- VAT導入には政治的な抵抗、州政府との関係、行政負担などの課題あり。
- 中長期的にはVAT導入議論が高まる可能性はあるが、短期的な導入の見込みは低い。
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