全体の業績サマリー
マイクロソフトが発表した2025年1~3月期(同社2025年度第3四半期)の決算は、クラウドとAI需要の高まりを追い風に主要指標が市場予想を上回る好調な内容となりました。売上高は701億ドル(約9.3兆円)と前年同期比+13%増加し、四半期ベースで過去最高を更新しました。純利益は258億ドル(約3.4兆円)で同+18%と大幅増益、1株当たり利益(EPS)は3.46ドル(前年同期比+18%)となり、いずれも2桁成長を達成しました。クラウド事業やコスト最適化の効果で利益率も改善し、これらの結果は事前予想(売上高約685億ドル、EPS約3.23ドル)を上回るサプライズとなりました。
事業セグメント別の業績
主要な事業セグメントの内訳をみると、クラウド関連事業が全体を牽引しつつ、Officeを中心とした生産性ソフトやWindows・デバイス分野も堅調でした。それぞれのセグメントの詳細は以下のとおりです。
クラウド事業(インテリジェントクラウド部門)
クラウドを主軸とする「インテリジェントクラウド」部門の売上高は268億ドルとなり、前年同期比**+21%増(為替一定ベースでは+22%)と力強い成長を示しました。中核であるAzureクラウドサービスの売上が前年同期比+33%と加速しており、この高成長がクラウド部門全体を押し上げています。Azureの成長率33%の内訳では生成AI関連の需要が約16ポイント分を押し上げたとされ、チャットGPTをはじめとする生成AIを活用する企業のクラウド利用が急拡大したことが伺えます。またマイクロソフト全社のクラウド関連売上高(Microsoft Cloud全体)は424億ドル(約5.6兆円)に達し、前年から+20%(為替影響調整後+22%)**増加しました。クラウドインフラからAIプラットフォームまで「差別化されたサービスへの需要が継続して強い」(後述のCFO発言)ことが、このセグメントの好調を支えています。
Office・LinkedIn・Dynamicsなど生産性向上関連(プロダクティビティ&ビジネスプロセス部門)
OfficeスイートやLinkedIn、人事・業務アプリなどを含む「プロダクティビティ&ビジネスプロセス」部門の売上高は299億ドルで、前年同期比**+10%増(為替一定ベース+13%)と堅調な伸びを示しました。主力のMicrosoft 365 (Office)が引き続き成長しており、企業向けMicrosoft 365製品・クラウドサービス売上は前年同期比+11%(うちクラウド部分は+12%)、消費者向けOffice売上も+10%増加しました。これはユーザー数の拡大とサブスクリプション収入の増強(※前年に実施した値上げ効果など)によるものです。LinkedIn(企業向けSNS・採用プラットフォーム)も+7%と増収を維持し、Dynamics(業務アプリ)は+11%増、そのクラウド版であるDynamics 365は+16%**と高い伸びを記録しました。企業が従来型のCRM/ERPからDynamics 365へ乗り換える動きが続いており、市場シェア拡大が数字に現れています。なお生成AIの波はこのセグメントにも及んでおり、Office製品への「Copilot」導入準備やDynamicsへのAI統合が進むことで、今後さらなる付加価値向上が期待されています。
Windows・デバイス・検索広告など(モアパーソナルコンピューティング部門)
PC向けWindowsやSurfaceデバイス、Bing検索などを含む「モアパーソナルコンピューティング」部門の売上高は134億ドルで、前年同期比**+6%増(為替一定ベース+7%)と増収に転じました。Windows OEM(PCメーカー向けのWindowsライセンス)および自社製デバイスの売上は合計で+3%とわずかながらプラス成長を記録しています。長引いていたPC需要の低迷が底打ちし始めたことに加え、四半期を通じて米中関税の不透明感からPCメーカー各社が在庫を積み増す動きが見られ、Windows OEM出荷が底堅く推移したことが一因とみられます。ハード部門単独ではSurfaceなどデバイス製品の低迷が続きましたが、Windowsの収益改善で相殺されました。Xboxゲーム事業も健闘し、ゲームコンテンツおよびサービス売上が+8%増と順調に拡大しました。また検索(Bing)やニュース配信の広告収入は前年同期比+21%**増と大きく伸びています。これはデジタル広告需要の持ち直しに加え、AIチャット機能を搭載した新しいBingの投入によるユーザーエンゲージメント向上が寄与した結果と考えられます。以上のように、個人向けコンピューティング分野は低調だったPC・デバイス市場が下げ止まったことで全体としてプラス成長に持ち直しました。
成長を牽引した要因
今回の成長を牽引した最大の要因は「生成AI」の導入による新たな需要創出です。ChatGPTの爆発的な普及以降、企業は生成AIモデルを活用したアプリケーション開発や業務効率化を競うようになっており、その実行基盤としてAzureなどクラウドサービスの利用が急増しました。実際、Azureの33%という売上成長率のうち約半分(16ポイント)はAI関連ワークロードの増加によるものです。マイクロソフトはOpenAI社への戦略的出資を通じて最先端のGPTモデルを自社クラウドに取り込み、早期からAzure OpenAIサービスとして提供してきました。この先行投資が功を奏し、生成AIブームに乗ったAzureの利用拡大を直接取り込めています。さらにマイクロソフト自身もOfficeやGitHub、Windowsといった主要プロダクトにGPT-4などを組み込んだ**「Copilot」機能を開発し始めており、プレビュー版ながら数十万社のMicrosoft 365利用企業がCopilotをテスト導入しています。例えば開発者向けのGitHub Copilot利用者数は1,500万人超と前年の4倍に急増しており、こうしたAI機能が自社エコシステムへの関心を高めソフトウェア利用の拡大につながっています。生成AIによる付加価値向上は今期中はまだ始まったばかりですが、クラウド契約や製品エンゲージメントの向上という形で間接的な成長ドライバー**となりました。
また、その他の要因として経済環境の追い風も挙げられます。米国の景気減速やIT予算抑制への懸念がありましたが、実際には企業のデジタル投資意欲は堅調で、マイクロソフトの商業向け受注(Bookings)は前年同期比+18%と高い伸びを示しました(※ChatGPT開発元のOpenAIとの新規大型Azure契約が含まれます)。デジタル広告市場も回復基調にあり、前述のとおり検索広告収入が二桁成長を遂げています。さらにPC業界では需要低迷に歯止めがかかり、WindowsやOEMビジネスへの下押し圧力が緩和されました。加えて、前年度に実施した人員削減などコスト最適化策の効果で営業費用の伸びが抑制され、利益率が改善したことも純利益の大幅増加に寄与しています。このように、新規需要の創出(生成AI)と既存事業の回復、コスト効率化という複数の要因が重なり、マイクロソフトは四半期を通じて強い成長軌道を維持しました。
経営陣の主要発言と戦略的方向性
決算説明会において経営陣は、業績の好調要因であるクラウドとAIに今後も注力する方針を明確に打ち出しました。CEOのサティア・ナデラ氏は「クラウドとAIは、あらゆる企業が生産性を拡大しコストを削減して成長を加速するための不可欠な入力(リソース)である」と述べ、インフラ(AI向けデータセンター)からアプリケーション(OfficeやGitHubのCopilot機能など)に至るまで技術スタック全体でイノベーションを継続し顧客に価値を提供していく戦略を強調しました。また同氏は、自社が生成AI時代のリーダーシップを取るとの自信を示し、Microsoft 365やWindows、Bing検索、GitHub、セキュリティ製品、さらにはXboxゲームに至るまでAI機能(Copilot)を広範に展開していることに言及しました。これらクロスプラットフォームのAI戦略によって「ユーザーのエンゲージメント(利用価値と頻度)を飛躍的に高め、顧客企業の業務変革に貢献していく」としています。実際、企業向けWindows 11の導入台数は前年比+75%と急増しており、BingとEdgeの検索シェアもAI統合により拡大するなど、ナデラ氏の言う「AIによるユーザー体験強化」が各分野で成果を上げ始めています。経営トップとしてナデラ氏は**「AI時代におけるプラットフォーム企業」としての地位確立**を目指し、攻めの製品戦略を打ち出していると言えます。
CFO(最高財務責任者)のエイミー・フッド氏も「当四半期はMicrosoft Cloudの売上が前年同期比+20%と大きく伸び、当社の差別化されたクラウド製品群への需要が続いている」と強調しました。その上で、足元で逼迫しているAI対応のクラウド容量を拡充するため引き続きデータセンター設備への投資を拡大する方針を示しています。ただし投資の中身については効率化にも言及し、「2025年度下期には設備投資の伸び率を今期より抑制しつつ、半導体チップなど短期で収益に直結する資産への投資比率を高めていく」と述べました。これは巨額のAI関連投資による資本効率悪化への市場の不安に配慮しつつ、必要な投資は惜しまない姿勢を示したものです。またフッドCFOは、当四半期に配当と自社株買いで計97億ドルを株主還元したことにも触れ、安定したキャッシュ創出と株主への利益還元を両立させる財務戦略をアピールしました。さらに経営陣は、長期的な成長機会にも目を向けており、「Majorana One」と呼ばれる次世代の量子コンピューティング研究イニシアチブなど先端分野への投資も継続していると述べています。総じてマイクロソフトは、現在進行中の生成AIブームを成長のエンジンとしつつ、その先を見据えた技術開発と持続的な事業強化に経営資源を振り向けている状況です。
2025年第2四半期以降のガイダンスと市場の反応
マイクロソフトは次四半期(2025年4~6月期)以降の業績見通しについても強気のガイダンスを示しました。特にクラウド事業の伸びが続く見通しで、インテリジェントクラウド部門の2025年4~6月期売上高は287.5億~290.5億ドル(前年同期比+20~22%)と予測されています。これは市場予想を上回る水準であり、同部門の中心であるAzureの成長率は約34~35%(為替一定ベース)と今期からさらに加速する見込みです。一方、PC・デバイスを含む個人向けコンピューティング部門については、前期に膨らんだOEM在庫の調整が進む影響で一桁台後半の減収を見込むなど慎重な予測を立てています。OfficeやLinkedInを含む生産性向上部門は引き続き堅調で**+11~12%前後の増収を計画しており、全社合計では次四半期も2桁台の増収増益が継続する見通し**です。マクロ経済の不透明感が続く中でも、マイクロソフト経営陣はクラウドとAIを中心に力強い成長が続くとの見方を示しており、このガイダンスは市場コンセンサスをやや上回るポジティブな内容となりました。
決算発表を受けた市場の反応も非常に良好でした。発表翌日の時間外取引でマイクロソフト株価は7~8%前後の急騰を見せ、時価総額にして約2,000億ドル(約26兆円)もの価値が一夜で上積みされました。これは、四半期業績が売上・利益ともに予想を上回ったことや、特に示されたクラウド部門の強いガイダンスにより「生成AI需要の減速懸念が後退した」と市場が判断したためです。実際、決算前には一部アナリストから「データセンター設備過剰や需要減速」を懸念する声もありましたが、蓋を開けてみればAzureの成長加速と好調な受注が確認され、こうした不安は払拭されました。投資家・アナリストはマイクロソフトが引き続きAI時代の最大の勝者の一社として高い業績成長を遂げると期待を寄せており、同社の戦略に対する信頼感が株価上昇という形で表れたと言えます。今後も生成AI関連の需要動向やマイクロソフトのそれに対する取り組みがマーケットの注目を集めるでしょうが、2025年に入って最初の四半期はその期待にしっかり応える結果となりました。
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