図は2024年第2四半期(Q2 24)から2025年第2四半期(Q2 25)までの中国国内における金ETFの週次資金フロー(トン単位)を示しています。棒グラフが上向きの場合はその週に金ETFへ資金が純流入したこと、下向きの場合は純流出したことを表します。2024年前半は流出傾向が見られましたが、2024年後半から流入へと転じ、その勢いは2025年に入ってさらに加速しました。特に2025年Q2には週当たり15~20トン規模という過去に例を見ない大幅な資金流入が連続して発生し、中国の金ETF市場への資金流入が急増していることがわかります。
資金流入出の時系列傾向
2024年(Q2~Q4)の傾向: 2024年の前半(Q2)には、金ETFからの資金純流出が顕著で、一部の週では数トン規模の流出が見られました。続くQ3 2024では、週によって流入と流出が交錯し、全体として小幅な変動に留まっています。ところがQ4 2024になると状況が変化し、秋頃に金ETFへの大規模な資金純流入(約10トン超に達する週も)が発生しました。このQ4後半の流入ピークにより、年末にかけて金ETF残高が再び積み上がる展開となりました。
2025年(Q1~Q2)の傾向: 2025年の第1四半期(Q1)には、週次ベースでは概ねプラスの流入が続き、金ETFへの資金は引き続き流入超過となりました。その流入規模はQ4 2024のピークほどではないものの安定しており、投資家の金への関心が維持されていることを示唆しています。そして第2四半期(Q2 2025)に入ると、流入額がさらに急増しました。複数の週で10トンを大きく上回る記録的な純流入が続き、チャートの終盤では20トン近い週次流入も見られます。これは調査期間を通じて最大の流入であり、2025年春時点で金ETFへの需要が飛躍的に高まっていることが読み取れます。
金ETFに対する国内投資家の関心や行動の変化
週次資金フローの推移から、中国国内の投資家による金ETFへの関心と行動が大きく変化してきたことがわかります。2024年前半に見られた資金流出は、当時投資家が金に対して消極的であったか、あるいは他の投資機会を選好していた可能性を示唆します。しかし2024年後半以降、金ETFへの資金流入が増加に転じたことは、投資家が再び金の魅力を見直し始めたことを意味します。特に、2025年に入ってからの継続的な流入は、国内の個人投資家・機関投資家を問わず、安全資産である金への需要と関心が高まっていることを表しています。従来は金現物(地金や宝飾品)での保有が多かった中国市場ですが、近年はETFという形で機動的に金に投資する動きが広がっており、投資行動がより洗練され多様化していると言えるでしょう。
背景となる経済要因
こうした資金フローの変化には、いくつかの経済的背景要因が影響している可能性があります。主な要因としては次のようなものが考えられます。
- 人民元安(通貨安): 人民元の対ドル為替レートが下落基調にあり、通貨価値の目減りに対する懸念が広がると、資産防衛の手段として金への投資が増える傾向があります。人民元安は国内での金価格を押し上げるため、投資家はそのヘッジと恩恵を得る目的で金ETFに資金を振り向けています。
- 地政学リスクの高まり: 米中間の貿易摩擦の激化や国際的な政治緊張(例えば地域紛争や制裁措置など)は、市場の不確実性を高めます。地政学リスクが高まる局面では、安全資産としての金の需要が世界的に増加しますが、中国国内の投資家も例外ではなく、リスクヘッジのため金ETFへの資金流入が促進されたと考えられます。
- 株式市場の不安定さ: 中国国内の株式市場や世界の株式相場が不安定な動きを見せ、先行きに不透明感が生じると、投資家はポートフォリオの一部をより安定的な資産に移そうとします。その際の代表的な受け皿が金です。株価の下落局面やボラティリティ上昇時に、リスク分散のため金ETFへ資金が流入する傾向が見られました。
加えて、国内経済の先行き不安やインフレ懸念といったその他の要因も投資家心理に影響を与え、金に資金を振り向ける背景となった可能性があります。
最近急増している資金流入の解釈と投資家心理の変化
2025年に入り特にQ2で金ETFへの資金流入が急増している事実は、投資家心理に大きな変化が生じていることを示唆します。最近の急激な流入は、投資家がこれまで以上にリスク回避志向を強めている表れと考えられます。例えば、人民元安の進行や新たな地政学リスクの顕在化といった出来事が先行き不透明感を増大させ、「今のうちに安全な資産である金を確保しておきたい」という心理が広がった可能性があります。
さらに、金価格が上昇基調にあり史上最高値圏に達していることも投資家マインドに影響を与えています。価格上昇に伴う利益機会を逃したくないという「乗り遅れまい」という心理も働き、多くの投資家がこぞって金ETFに資金を投入した結果、流入が一層加速した側面も考えられます。このように、投資家心理は従来の慎重姿勢から、「リスクから資産を守りたい」「金の上昇トレンドに乗りたい」という積極的な安全志向へと変化していると言えるでしょう。
金ETFへの関心の高まりが示す戦略的インサイト(個人・機関投資家の観点)
最後に、この金ETFへの関心急拡大が示唆する戦略的な意味合いを、個人投資家と機関投資家の視点から考察します。
- 個人投資家: 個人レベルでは、金ETFへの資金流入増加は投資家の資産運用行動が変化している兆候です。株式や不動産に偏りがちな資産配分から、リスクヘッジや分散投資の重要性を認識し、金をポートフォリオに組み込む動きが広がっています。ETFという手段を使うことで少額から容易に金に投資できるため、従来より幅広い層の個人投資家がインフレや通貨安への備えとして金を戦略的に活用し始めていると考えられます。
- 機関投資家: 機関投資家の観点では、金ETFへの巨額な流入はプロの資産運用者もリスク管理上金の保有比率を高めていることを示唆します。中国国内の金融機関やファンドも、金を戦略的資産(守りの資産)として位置付け、ETFを通じて迅速にポートフォリオ調整を行っている可能性があります。また、金ETF市場の流動性・規模が拡大したことで、機関投資家がまとまった資金を投入しやすくなり、結果としてさらなる資金流入を呼び込む好循環も生まれているでしょう。要するに、機関投資家にとって金はリスク分散と価値保存の手段として一段と重要視されており、その戦略に変化が生じていると言えます。

コメント