外貨準備高としての金の役割は、自国通貨が暴落した際のドル調達手段以外にも、以下のような重要な側面があります。
① 信用力の維持と向上
- 金は各国共通で価値が認められている実物資産であり、政治的・経済的な混乱時においても価値がゼロになるリスクが低いため、国の信用力や経済的安定性を高める効果がある。
- 金の保有比率が高いほど、対外的な財政健全性や信用力が高いと評価される傾向にある。
② 地政学的リスクへのヘッジ
- 戦争、制裁、外交関係の悪化など地政学的リスクが高まった場合、通貨や債券は国際的な決済・取引に支障をきたす可能性がある。金はこうした状況でも決済や取引の手段として利用可能であり、経済的孤立を回避するための手段となる。
- 最近のロシアや中国が金保有量を増やしている背景には、ドル依存からの脱却を図り、経済制裁への耐性を高める狙いがある。
③ インフレへのヘッジ
- 世界的なインフレが加速すると、紙幣や債券などの金融資産は実質価値が目減りするリスクがある一方、金は実物資産としてインフレ耐性が高く、外貨準備資産の実質的価値を維持する役割を果たす。
- 特に、自国通貨の信用力が弱い新興国において、金が外貨準備資産に占める割合が大きい傾向がある。
④ 通貨多様化戦略の一環
- ドルやユーロなど特定通貨への過度な依存は、その通貨の価値変動リスクにさらされることを意味する。金を保有することで、準備資産の多様化を図り、通貨変動リスクを低減できる。
- BRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)がドルへの依存度を下げ、準備資産を多様化する一環として金購入を増やしているのもこのためである。
⑤ 通貨主権の強化と政治的独立性の維持
- 米ドル中心の金融システムに依存すると、米国の金融政策や政治的判断に影響されやすくなる。金を外貨準備として保有することで、自国通貨政策や金融政策の自主性を強化し、政治的独立性を維持できる。
以上のように、金は単に「危機時のドル調達手段」だけでなく、信用力維持、地政学的リスク対応、インフレヘッジ、通貨多様化、そして国家主権の強化という幅広い戦略的役割を担っています。
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