IAUMとGLDMの総合比較

IAUM(iShares Gold Trust Micro)とGLDM(SPDR Gold MiniShares Trust)は、いずれも米国上場の低コスト金ETFで、金現物価格への連動を目指しています。以下ではコスト流動性純資産総額(AUM)安全性税制上の違い、そしてその他の利便性の6つの観点から両者を比較し、最終的にどちらが総合的に優れているか評価します。

1. コスト(信託報酬等)

  • IAUMのコスト: 信託報酬(経費率)は年率**0.09%**と、現存する金ETFの中でも最も低い水準です。運用管理費用が極めて小さいため、長期保有時のコスト負担を最小限に抑えられます。
  • GLDMのコスト: 信託報酬は年率**0.10%**で、IAUMに次ぐ低コストです。当初は0.18%で開始しましたが、現在では引き下げられています。IAUMよりわずか0.01ポイント高いだけで、依然として非常に安価な水準です。

評価: コスト面ではIAUMが僅差で優れていると言えます。0.09%と0.10%の差はごくわずかであり、年間コスト差は0.01%(例えば100万円投資しても年間100円程度の差)に過ぎません。長期のリターンへの影響も極めて限定的ですが、純粋にコストだけを見ればIAUMが勝ります。

2. 流動性(取引量・スプレッド等)

  • IAUMの流動性: 2021年の設定以来、徐々に出来高を伸ばしていますが、1日あたりの平均取引量は約200万株前後と推定されます。株価が30ドル台と低廉なこともあり、1日の取引金額はおよそ数千万ドル規模です。買値と売値の差(スプレッド)は概ね1セント程度ですが、価格に対する割合では0.03~0.05%前後になる場面もあり、取引量が少ない時間帯では若干広がることがあります。
  • GLDMの流動性: 2018年の設定以来、多くの資金を集めており、平均取引量は1日数百万株(概ね400~500万株前後)と非常に活発です。1日の売買代金にして数億ドル規模と、金ETFの中でもトップクラスの出来高があります。スプレッドは狭く、通常**0.02%程度(数セント以内)**と極めて小さいため、大口の売買でも市場価格への影響が出にくい状況です。

評価: 流動性の面では圧倒的にGLDMが優れています。GLDMは出来高が多く板が厚いため売買しやすく、スプレッドも極めてタイトです。IAUMも一定の流動性は確保していますが、GLDMと比べると取引量が少なくスプレッドもやや広めで、大口取引や頻繁な売買にはGLDMほどの安定感はありません。したがって、流動性重視の投資家にはGLDMの方が適しています。

3. 純資産総額(AUM)

  • IAUMの規模: 純資産総額は**約26億ドル(≒0.35兆円)**程度と見られ、金ETFとしては中規模です。設定から数年で順調に資金流入が続き、着実に資産規模を拡大してきましたが、依然GLDMとの差は大きい状況です。
  • GLDMの規模: 純資産総額は**約146億ドル(≒1.9兆円)**に達しており、世界有数の金ETFです。これはIAUMの5倍以上に相当し、GLDやIAUといった老舗ETFに次ぐ規模となっています。規模が大きいことで運用の安定性が高く、繰上げ償還(ファンド閉鎖)のリスクも極めて低いと考えられます。

評価: 資産規模ではGLDMが大きく勝っています。GLDMは豊富な資金を集めており、マーケットでの存在感や信頼性も高いと言えます。IAUMも着実に成長していますが、GLDMほどの巨額資産ではないため、規模の安心感という点ではGLDMに軍配が上がります。

4. 安全性(信託構造・保管体制)

  • IAUMの安全性: iShares Gold Trust Microは現物の金を完全保有する信託です。信託財産である金地金はロンドン市場の認定バー(ロンドン・グッドデリバリー準拠の400オンス金延べ棒)で保有され、JPモルガン・チェース銀行のロンドン保管庫で厳重に管理されているとされています(親ファンドであるIAUと同様の体制)。信託構造はグラント型信託で、ファンド資産はスポンサーや運用会社の資産とは分別して保管され、常に監査と残高照合が行われています。また、ファンドの金は貸し出し等に供されず、全量が常に裏付け資産として保有されています。
  • GLDMの安全性: SPDR Gold MiniShares Trustも実物金を裏付け資産とするグラント型信託です。金地金はIAUM同様ロンドン市場の品質基準を満たすバーで保有され、ICBCスタンダード銀行(ロンドン)が主たる保管銀行を務めています(GLDと同様、HSBCなど複数の保管機関と契約)。信託財産は厳格に分別管理され、毎日残高確認が行われるほか、定期的に第三者監査も実施されています。GLDMも保有する金を貸出しせず、常に全額をトラスト内に保有する方針で、安全性の高い運用が維持されています。

評価: 安全性に関しては両ETFに大差はありません。いずれも実物の金を100%裏付けに持つ信託であり、信託構造上も投資家の資産は厳格に保護されています。主要な保管銀行(カストディアン)もJPモルガンやICBCスタンダード銀行といった国際的に信頼性の高い機関で、セキュリティ面や監査体制も万全です。運用会社についてもIAUMはブラックロック(iShares)、GLDMはステートストリートとワールドゴールドカウンシルの提携という形で、どちらも実績ある大手がスポンサーです。したがって、信託の構造的な安全性・信頼性は両者とも同等レベルであり、優劣を付けるポイントは特にありません。

5. 税制・課税面での違い

両ETFは共に米国籍の金ETF(商品信託)であり、税制上の扱いもほぼ同一です。主なポイントをまとめると以下の通りです:

  • 分配金と源泉徴収: IAUM・GLDMいずれも金現物を保有するだけで分配金は支払われません(金利や配当を生む資産ではないため)。したがって、配当課税や米国源泉徴収税の違いはありません。
  • 売却益の課税: 日本の個人投資家がこれらを売却して利益を得た場合、**譲渡所得として一律20.315%(所得税15.315%+住民税5%)**の申告分離課税が適用されます。外国株式扱いのETFですが、特定口座を利用すれば国内株式同様に源泉徴収ありの申告分離課税が可能です。IAUMとGLDMの間で売却益に対する日本の税率に差はありません。
  • 米国内での税扱い: 両ファンドとも米国ではグラントorトラスト型ETFで、米国税法上はコレクティブル(収集品)扱いとなり、米国投資家にとって長期譲渡益税率が最大28%と若干不利ですが、これは両者共通の性質です。日本居住者には直接関係ありません。
  • 米国遺産税: 米国籍資産である以上、日本の投資家が多額の資産を保有したまま亡くなった場合、米国の遺産税(エステートタックス)の課税対象となる可能性があります。しかしこのリスクはIAUMでもGLDMでも同じです(どちらも米国籍ETFのため)。生前に一定額以上を保有しない、あるいはNISA口座で保有する等の対策は両方に共通して有効です。

評価: 税制面では両ETFの間に実質的な差はありません。どちらも米国籍の金ETFであり、日本人投資家にとっての課税扱いは共通しています。強いて言えば、分配金がないため運用中の税金繰延べ効果は両者とも高く(年内の利益確定をしない限り課税されない)、この点も同じです。総じて税金面で有利・不利の差異はないと考えてよいでしょう。

6. その他の利便性(売買のしやすさ・最小取引単位など)

  • 売買のしやすさ: 取引市場はいずれもNYSE Arca(米国市場)で、日本から投資する場合は海外ETFを扱う証券会社経由でドル建て取引を行います。IAUM・GLDMとも主要ネット証券で取引可能であり、この点の差はありません。ただしGLDMは知名度や取引参加者が多く、板の厚みもあるため大口注文を出す際の約定しやすさで優れます。一方、IAUMも流動性は必要十分ですが、出来高が少ない時間帯などでは注文数量によっては価格への影響を考慮する必要があるでしょう。
  • 最小取引単位と価格: どちらのETFも1口(1株)から購入可能です。1株あたりの価格は、IAUMが約30ドル台、GLDMは約60ドル台(2025年時点)と、IAUMの方が1株あたりの価格が低く設定されています。したがって、少額からコツコツ積み立てたい投資家にとってはIAUMの方が少ない資金で購入単位を増やしやすい利点があります。ただしGLDMも1株数千円台相当ですので、多くの個人投資家にとって十分手頃な範囲であり、大きなハードルの差ではありません。
  • その他のポイント: 両ETFとも現物資産の受け取りは原則できません(機関投資家向けには大量の信託単位と引き換えに金地金を受け取る仕組みがありますが、個人には事実上無関係です)。また、GLDMは運用期間が2018年からと長く情報量も多い反面、IAUMもブラックロックから提供される資料やサポートが整っており、情報面の不便は感じにくいでしょう。総じて一般投資家が利用する上での利便性は両者とも高く、大差はないといえます。

評価: その他の利便性に関して大きな優劣はありません。強いて違いを挙げれば、IAUMは1口あたりの価格が低いため少額投資に適し、GLDMは取引参加者が多く大口取引に向くという点です。どちらも売買自体の手続きや保管の手間は変わらず、使い勝手はほぼ同様と考えて良いでしょう。

総合評価(結論)

以上の比較を踏まえると、総合的に見てGLDMの方が優れていると評価できます。コスト面ではIAUMがわずかに有利なものの、その差は極めて小さく無視できる水準です。一方でGLDMは圧倒的な資産規模と流動性を誇り、大量の資金を運用する場合でも安心感があります。売買時のスプレッドの狭さや市場参加者の多さからくる安定性は、長期投資はもちろん短期売買の観点でも魅力と言えます。また、両者の安全性や税制上の違いは実質的に同等であるため、流動性と規模のメリットを持つGLDMに軍配が上がるでしょう。

まとめると、極限までコストを重視し少額から積み立てたい場合にはIAUMも選択肢になり得ます。しかし、一般的な投資家にとっては取引のしやすさやファンドの安定性がより重要であり、そうした点でGLDMの方が総合的に優れたETFだと考えられます。GLDMは長期保有にも短期売買にも適したバランスの取れた金ETFであり、総合評価でIAUMを上回ると言えるでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました