主要財務指標の概要(前年同期比)
- 売上高(収益):1,557億ドルとなり、前年同期比で約9%増加しました。為替の影響を除くと約10%の成長で、市場予想(約1,550億ドル)を僅かに上回りました。
- 営業利益:約184億ドルを計上し、前年同期からさらに増加しました(前年同期は約153億ドル)。コスト構造の改善などにより営業利益率も向上し、全体の収益性が改善しています。
- 純利益:約170億ドルとなり、前年同期(約104億ドル)から大幅増益となりました。1株当たり利益(EPS)は1.59ドルと市場予想(約1.37ドル)を上回っています。
セグメント別の業績
- クラウド(AWS):クラウドサービスの「Amazon Web Services(AWS)」売上高は292.7億ドルで、前年同期比+16.9%の成長でした。成長率はやや鈍化し過去5四半期で最低の伸びとなり、事前の市場予想(+17%台)を僅かに下回りました。ただし依然として堅調な二桁成長を維持しています。
- オンラインストア(直販EC):Amazon自身が販売するオンラインストア部門の売上高は、前年同期比で一桁台前半の緩やかな増加にとどまりました。パンデミック後の成長鈍化や消費者の節約志向もあり、前年より伸び率が低下したとみられますが、基調としては安定した需要が続いています。実店舗(ホールフーズなど)の売上も堅調でしたが小幅な伸びに留まっています。
- サードパーティーセラーサービス:マーケットプレイスでの第三者販売サービス収入は+7%(為替一定ベース)と増収しました。しかし、この伸び率はこれまでの成長ペース(前年までの二桁成長)から大きく減速し、半分以下の水準となりました。外部売り手向けサービス(手数料や物流サービス)の成長が鈍化しており、消費動向の変化や前年の反動が影響した可能性があります。
- 広告事業:オンライン広告の売上高は139.2億ドルとなり、前年同期比+19%の高い成長を示しました。広告は引き続きAmazonの成長エンジンの一つであり、市場予想をわずかに上回る好調さでした。Meta(Facebook)やAlphabet(Google)に次ぐ第三の広告プラットフォームとして存在感を強めており、この四半期も二桁成長を維持しました。
経営陣のコメントと今後の展望
アナリスト向けの決算説明会において、アンディ・ジャシーCEOは現在のビジネス環境について前向きな見解を示しました。特に、小売分野では「需要の減退はまだ見られない」と強調し、一部の商品カテゴリーで購入が増えているのは「今後予想される関税引き上げに備えた駆け込み需要の可能性がある」と述べました。ジャシー氏は米国への輸入関税強化に対する不確実性に言及しつつも、顧客にできるだけ低価格で提供することに注力していると説明しています。実際、値上げの兆候は限定的で「低価格帯の必需品の販売が堅調に伸びている」とし、消費者の節約志向にも対応できているとの認識を示しました。また、販売業者に対しては関税発効前に在庫を米国内に移すよう促すなど、価格維持と顧客確保のための施策を講じていることも明らかにしました。
クラウド事業(AWS)について経営陣は、成長率がやや鈍化したものの企業のIT需要は底堅く、クラウド利用の最適化(コスト削減)圧力は徐々に緩和に向かっていると見ています。生成AI(Generative AI)や機械学習分野への継続投資によって、今後のAWSの付加価値向上と需要拡大を図る戦略も示唆されました。ジャシーCEOは長期的に見ればクラウドとAI分野が引き続き大きな成長機会であり、競争力維持のための設備投資(データセンター増強や自社開発チップなど)を惜しまない考えを示しています。全社的にもコスト最適化と効率改善の取り組みが奏功しており、北米・国際の小売セグメントを含め現在すべての事業セグメントが営業黒字となっていることを経営陣は評価しました。今後については経済環境や貿易政策の不透明要因を注視しつつも、「より良いカスタマーエクスペリエンスの提供と長期的成長への投資を両立させる」方針が示されています。
ガイダンス(見通し)と市場予想との比較
2025年第2四半期(4~6月)の業績見通しについて、アマゾンは以下のガイダンスを発表しました。
- 売上高見通し(Q2 2025):1,590億~1,640億ドルのレンジを予測しています。このレンジの中間値は前年同期実績を二桁%上回る水準で、特に上限の1,640億ドルは市場コンセンサス(約1,609億ドル)を上回る強気な売上見通しと言えます。これは北米を中心とした小売ビジネスが関税措置など不確実性要因を抱えながらも堅調さを維持できるとの自信を示すものです。
- 営業利益見通し(Q2 2025):130億~175億ドルのレンジと示されました。レンジの上限でも市場予想の約177億ドルを下回っており、利益面ではやや慎重な見通しとなっています。中間値(約152.5億ドル)ベースで見ると前年同期からの増益は見込むものの、経営陣はコスト増要因や継続投資を考慮し保守的なガイダンスを設定したとみられます。特に、人件費やインフラ投資、AI関連分野への先行投資などが利益圧迫要因となる可能性を織り込んだ形です。
なお、通期の公式ガイダンスは示されていませんが、第1四半期の実績と第2四半期見通しを踏まえ、年間を通じて堅調な増収・増益基調が維持されるとの見方が強まっています。市場アナリストは今後の四半期でクラウド事業の成長ペース回復や消費動向の変化に注目しており、ガイダンスに対する解釈も「売上は強気だが利益は保守的」と総合的に評価されています。
初期反応と市場・アナリストの評価
決算発表直後の株式市場の反応はややネガティブでした。発表当日の時間外取引でアマゾン株は一時5%近く下落し、その後も前日比で数%程度の下落で推移しました。投資家が敏感に反応したのは、クラウド部門(AWS)の伸び悩みと次期利益見通しの慎重さです。AWSの成長率が競合他社(マイクロソフトのAzureなど)の好調さに比べ見劣りしたこと、そして営業利益ガイダンスが市場予想を下回ったことが失望感を誘いました。
アナリストや市場関係者からも様々な声が上がっています。Aptus Capital Advisorsのデイブ・ワグナー氏は「マイクロソフトが素晴らしいクラウド成長を示したことで期待値が上がっていた分、AWSの結果は物足りなく映った」と指摘しており、直前に好決算を発表したMicrosoft Azureとの対比でAWSのシェア動向に不安を示す見解も出ました。またD.A. Davidsonのギル・ルリア氏は「競合の好調さを受けて投資家はAWSに過度な期待を寄せていたが、その水準には届かなかった」と述べ、クラウド事業への期待先行に対する調整が株価下落につながったと分析しています。一方で、「広告事業など他部門は引き続き力強く成長しており、総じて業績自体は健闘」と評価する向きもあります。実際、売上高・EPSが予想超えであった点や、売上ガイダンスが強気なことから、今回の保守的な利益見通しは将来の投資余地を確保するためとの見方もあり、中長期的な成長余力に注目するアナリストも少なくありません。
総合すると、2025年Q1のアマゾンは増収増益で市場予想を上回る好決算を示しましたが、クラウド事業の減速傾向と慎重な利益ガイダンスが強気の投資家心理をやや冷やす結果となりました。とはいえ、広告や北米小売などの主要事業は順調で、経営陣も需要動向に自信を見せています。株式市場の初期反応は慎重姿勢が見られたものの、アマゾンの事業ポートフォリオ全体は堅調であり、今後の四半期でクラウド成長の再加速や経済環境の好転が確認できれば、再評価される可能性があるでしょう。以上のように、2025年第1四半期の決算とガイダンスは、強さと課題の両面が浮き彫りになる内容となりましたが、長期的な成長ストーリーは維持されているとの評価が大勢を占めています。
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