世界各国では、GoogleやAmazon、Meta(Facebook)など米国の大手デジタル企業に対して、デジタルサービス税(DST)や類似の課税措置を導入する動きがあります。2025年時点でそのような課税・関税措置を講じている主な国は以下の通りです。
対象国一覧
- フランス
- イギリス(英国)
- イタリア
- スペイン
- オーストリア
- トルコ
- インド
- カナダ(導入予定)
※このほかケニアなど一部の国でもデジタルサービス税が導入されています。
各国の課税制度概要
フランス
- 税率・対象サービス: 3%のデジタルサービス税を導入。オンライン広告収入、デジタルプラットフォーム(仲介サービス)による手数料収入、利用者データの販売などが主な課税対象です。
- 導入時期: 2019年に「デジタルサービス税法」を制定し、2019年度以降の売上に適用しました。
- 現在の適用状況: 現在も課税を継続しています(国際的な合意が成立した際には将来的に撤廃する方針を表明)。導入当初、OECDでの国際課税ルール協議の間は徴収を一時見合わせましたが、その後協議の長期化に伴い徴収を再開しました。
- 米国の対応: 米国政府はフランスのDSTに強く反発し、フランス産ワインやチーズなどに対する高関税(報復関税)を検討・発表しました。ただし、OECD主導の解決策を模索するため制裁関税措置は現在まで実際には適用を猶予されています。
イギリス(英国)
- 税率・対象サービス: 2%の「デジタルサービス税」を導入。対象は検索エンジン、ソーシャルメディア(SNS)、オンラインマーケットプレイスなど英国ユーザーから収益を得るデジタルサービスです。
- 導入時期: 2020年4月より施行されました(2019年の予算案で公表され、2020年「財務法」で制定)。
- 現在の適用状況: 現在も施行中です。英国政府はOECDの国際課税枠組み(いわゆる「Pillar 1」)が実現した場合には本税を廃止する意向を示していますが、2025年時点でも国際合意未実施のためDSTを継続しています。
- 米国の対応: 米国は英国DSTを差別的措置とみなし、報復関税(約25%)を英国からの輸入品に課す方針を一時検討しました。しかし、国際的な解決策に向けた協議継続を理由に米国側の関税発動は保留されています。
イタリア
- 税率・対象サービス: 3%のデジタルサービス税を導入。オンライン広告やデジタルプラットフォーム(インターネット上の仲介サービスなど)による収入が課税対象です。
- 導入時期: 2020年1月から適用開始(2019年末の予算法に盛り込まれて成立)。
- 現在の適用状況: 現在も適用中です。イタリアもOECDの合意成立まではDSTを維持する方針で、国際合意後には撤廃するとしています。
- 米国の対応: 米国はイタリアのDSTに対し報復関税を検討し、イタリア製のバッグや食品などへの25%関税案を公表しましたが、実際の発動は国際協議を見据えて見送られています。
スペイン
- 税率・対象サービス: 3%のデジタルサービス税(通称「グーグル税」)を導入。オンライン広告、インターネット仲介プラットフォーム(マーケットプレイスなど)、ユーザーデータの売買からの収入が課税対象です。
- 導入時期: 2021年1月から施行(2020年に関連法が成立し準備期間を経て開始)。
- 現在の適用状況: 現在も課税を実施中です。国際的な解決策が実現すれば将来的に撤廃予定ですが、2025年時点では継続されています。
- 米国の対応: 米国はスペインのDSTに対し約25%の報復関税リスト(スペイン産オリーブオイルや海産物など対象)を用意しました。しかし、他国同様に現在まで関税措置は保留され、引き続き協議が続いています。
オーストリア
- 税率・対象サービス: 5%のデジタル広告税を導入。グローバルな大手IT企業がオーストリア国内向けに提供するオンライン広告収入が対象となります(従来からの広告税をデジタル広告にも拡大した形)。
- 導入時期: 2020年1月から施行(2019年のデジタル課税パッケージ法により導入)。
- 現在の適用状況: 現在も継続適用中です。将来的にはOECD合意に沿って見直す方針ですが、2025年現在も徴収が続いています。
- 米国の対応: 米国はオーストリアのデジタル広告税も不公正と判断し、報復関税措置を検討しました(オーストリア製品に対する25%関税案の提示など)。ただし、国際合意の見通しを踏まえ実際の報復関税は発動されていません。
トルコ
- 税率・対象サービス: 7.5%という高率のデジタルサービス税を導入。検索エンジン、ソーシャルメディア、オンライン広告、プラットフォーム経由のサービス提供など広範なデジタルサービス収入が課税対象です。
- 導入時期: 2020年3月より施行されました(2019年末に法成立)。
- 現在の適用状況: 現在も適用されています。他国同様、国際課税ルールが整えば将来見直す可能性がありますが、現時点で変更はありません。
- 米国の対応: 米国はトルコのDSTに対し、報復関税リスト(トルコの絨毯や衣料品などへの関税案)を公表しました。しかしこちらも実際には発動せず、適用保留の状態で、国際的な解決策への協議が続いています。
インド
- 税率・対象サービス: インドはDSTに類似する「均衡税(イコライゼーション・レビー)」を段階的に導入しています。具体的にはオンライン広告サービスに対する6%課税(2016年開始)と、海外事業者による電子商取引サービスに対する2%課税(2020年開始)です。後者の2%税はオンラインプラットフォーム経由の商品の販売やサービス提供など幅広く適用されます。
- 導入時期: オンライン広告に対する6%課徴金は2016年導入、2%の電子取引課税は2020年4月より導入されました。
- 現在の適用状況: 現在も継続適用中です。インド政府はOECDの合意後も当面この課税を維持する姿勢を示唆しており、国際課税枠組みへの参加条件や代替措置について引き続き協議中です。
- 米国の対応: 米国はインドの課税措置にも反発し、貿易法301条調査の対象としました。報復関税としてインド産の特定品目に25%関税を課す案が公表されましたが、実際には他国同様に適用は猶予されています。今後も両国間で協議が続行される見通しです。
カナダ(導入予定)
- 税率・対象サービス: 3%のデジタルサービス税を導入予定。主に巨大ソーシャルメディア企業やオンラインプラットフォーム事業者など、グローバル収益が一定規模を超えるデジタルサービス提供企業が対象とされています。
- 導入時期: カナダ政府は2021年にDST導入計画を発表し、2024年から適用開始を目指しています(OECDの国際合意が大幅に遅れた場合に備えた措置で、2022年以降の売上にも遡及適用する可能性が示唆されています)。
- 現在の適用状況: 2025年時点では法整備は進めつつある段階です。OECDの合意状況を見守りつつ、必要に応じて課税を開始する方針で、現時点で実際の徴収はまだ行われていません(国際合意が成立すれば導入を見送る可能性あり)。
- 米国の対応: カナダのDST計画に対しても米国は強く懸念を表明しています。とくに売上への遡及課税の方針に対し「不公正な貿易措置」として批判しており、導入された場合には米国が報復関税などの対抗措置を取る可能性も指摘されています。
米国との貿易摩擦の総括
上記のように、多くの国が米国の大手IT企業に対するデジタルサービス税を導入した結果、米国との間で貿易摩擦が生じました。米国政府(通商代表部USTR)はこれらの措置を「米国企業を名指しした不公平な課税」と位置づけ、相手国に対する報復関税を準備・発表しました。ただし、2021年以降、OECD主導でグローバルなデジタル課税ルール(Pillar 1)の合意に向けた協議が進んだことを受け、米国は報復関税の発動をいずれも一時停止しています。各国のDSTは2025年現在も適用中ですが、最終的な国際合意が実現し新たな課税ルールが施行されれば、各国ともこれらの措置を撤回・廃止する見込みです。
EU加盟国は個別に関税を自由に設定することはできず、関税政策はEU全体で統一されています。具体的には以下のようになっています。
EUにおける関税政策の仕組み
EUは加盟国間で単一の市場を形成しており、その一環として共通の対外的な関税(「共通関税率」または「共通関税表」)を適用しています。
- EU加盟国間は関税がゼロ。
- EU域外の第三国からの輸入品には、**EU統一の関税率(共通関税)**が適用される。
EU加盟国の個別関税設定の可否
- 原則的に不可です。
- 各国が個別に異なる関税を課すと、単一市場の統一性が崩れるためです。
- 通商政策、関税設定は、EUの専属権限(EU委員会主導)とされています。
- EUの関税はEU委員会(欧州委員会)が定め、各国はそれを執行します。
例外:デジタルサービス税(DST)について
ただし、デジタルサービス税(DST)は**「関税」ではなく、間接税やサービスに対する課税(法人税の特殊形態)**として扱われるため、以下の特徴があります。
- DSTは、関税ではなく法人課税や間接税として各国が独自に設定できます。
- DSTは「税務政策」の分野に入り、EU共通政策ではなく、加盟各国の主権の範囲内で独自に設定可能です。
- 実際にEU加盟国(フランス、イタリア、スペイン、オーストリアなど)は各自異なる税率や対象範囲でDSTを導入しています。
まとめ(整理すると)
税の種類 | 設定権限 | 具体例 |
---|---|---|
関税 | EU全体(共通) | 域外製品に共通関税率(例:米国からの輸入品) |
法人税・間接税(DST含む) | 各加盟国(個別) | フランス、イタリアなどが独自にDSTを設定 |
- 関税 → EU統一
- DSTや法人課税 → 各国で独自設定可能
そのため、EU加盟国は個別に関税を設定できませんが、デジタルサービス税などの「法人課税・間接課税」は個別に設定できるため、各国で税率や制度内容が異なります。
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