日本の所得税法における生命保険の「保険金」と「給付金」の違い

生命保険契約に基づく保険金とは

保険金とは、生命保険契約で支払われる代表的な金銭給付のことです。典型的には被保険者が死亡したときや高度障害状態になったときに支払われる大きな一時金であり、支払われた時点でその保険契約は消滅します。また、死亡や障害に至らなくても契約満期まで生存した場合に受け取れる満期金や、途中解約で受け取る解約返戻金も広い意味で保険金に含まれます。これら保険金は主に死亡時の遺族の生活保障(葬儀費用や遺族の生活費・教育費など)や、生存時の資金(老後資金など)に充てられることが想定されています。

支払要件(支払いの条件)としては、契約で定められた所定の事由(死亡、高度障害、満期到来、解約など)が発生した場合に一回限り支払われるのが特徴です。保険金が支払われると契約は終了し、同じ契約から繰り返し保険金が支払われることはありません。

生命保険契約に基づく給付金とは

給付金とは、生命保険契約の中で所定の条件に該当したときに支給されるお金ですが、支払後も契約が継続するタイプのものを指します。主に入院や手術など医療上の所定の事由に対して支払われる保険金のことで、保険金(死亡保険金等)とはニュアンスや性質が異なります。給付金は契約期間中に複数回受け取ることも可能であり、一度受け取っても契約は消滅せず、再び条件を満たせば繰り返し支給されます。例えば、入院給付金であれば被保険者が入院するたびに所定の日額が支給される可能性があります。給付金の種類には、入院給付金手術給付金通院給付金特定疾病(がんなど)診断給付金先進医療給付金など多数あり、それぞれ支払い条件や回数制限が契約ごとに定められています。

支払要件としては、契約で定められた特定の事故や疾病による支出(医療費や療養による収入減少等)に対して、その都度支払われるのが特徴です。給付金を受け取っても契約は終了せず、保障期間中であれば再度条件を満たした際に給付金請求が可能です。

保険金の税務上の取扱い(課税関係と所得区分)

生命保険の保険金を受け取った場合、その課税関係は「誰が保険料を負担し、誰が受取人か」という契約者・被保険者・受取人の関係によって大きく異なります。特に死亡保険金や満期保険金では、契約形態に応じて所得税(住民税)相続税贈与税のいずれかが課税される仕組みです。以下に代表的なケースを示します:

  • ① 保険料負担者=保険金受取人の場合(例:夫が自身を被保険者とする保険に自分で保険料を払い、自らが受取人になっている)
    所得税の課税対象になります。この場合の死亡保険金や満期保険金は受取方法に応じて一時所得または雑所得として所得税が課税されます。
    • 一括で受け取った場合:一時所得として扱われます。一時所得の計算上、受け取った保険金総額からそれまで払い込んだ保険料総額を差引き、さらに特別控除50万円を差し引いた残額の1/2が課税対象になります。例えば満期保険金を一時金で受領した場合も同様に一時所得となります。
    • 年金形式で受け取った場合:雑所得(公的年金等以外の雑所得)として扱われ、毎年受け取る年金額からその年金に対応する払込保険料相当額を差し引いた残額がその年の雑所得の収入になります。受取時には所得税が源泉徴収される仕組みです。
  • ② 被保険者=保険料負担者で、保険金受取人が別人(通常はご家族)の場合(例:夫が自分を被保険者として保険料を払い、妻を死亡保険金の受取人に指定)
    相続税の課税対象になります。被保険者本人が保険料を負担していた生命保険金を、死亡により相続人が取得した場合、それは**「みなし相続財産」とされ相続税がかかります。この場合、相続税法上「500万円 × 法定相続人の数」**までの保険金は非課税枠(死亡保険金の非課税限度額)として控除され、その超過部分に相続税が課されます。例えば法定相続人が2人なら合計1,000万円までの死亡保険金は相続税非課税、それを超える部分のみ課税対象となります。なお受取人が相続人以外の場合、この非課税枠は適用されません。
  • ③ 保険料負担者・被保険者・受取人がすべて異なる場合(例:子が父を被保険者として保険料を負担し、死亡保険金の受取人を母としたケース)
    贈与税の課税対象になります。被保険者の死亡により保険料負担者から受取人へ財産が移転したとみなされるためです。この契約形態では、受取人が受け取った保険金額全額が贈与額とされ、他の年間贈与と合算して基礎控除110万円を超える部分に贈与税が課税されます。贈与税率は高めなので、このケースにならないよう契約時に注意が必要です。

以上のように、保険金は契約者・被保険者・受取人の関係次第で課税方法が変わります。所得税の課税となる場合は、その保険金は課税所得として「一時所得」あるいは「雑所得」に分類されます(一時金受取なら一時所得、年金受取なら雑所得)。一方、相続税や贈与税の課税対象となる場合には所得税は課されず、代わりに相続税・贈与税として課税されるため所得税上は非課税扱い(課税所得に算入しない)です。

補足: 一時払養老保険などで契約期間が5年以下の場合や、5年超の契約でも契約後5年以内に解約返戻金を受け取った場合には、原則上記と異なり源泉分離課税(預貯金の利子に類する扱い)が適用され、所得税15%等が源泉徴収されて課税関係が完結します。これは短期契約による一時所得の特例的な扱いです。

給付金の税務上の取扱い(課税対象か非課税か)

生命保険契約にもとづく給付金については、その多くが税法上非課税所得とされています。所得税法上、「身体の傷害に起因して支払を受けるもの」については非課税扱いとする規定があり(所得税法第9条第1項十八号、施行令第30条第1号)、生命保険契約や医療保険契約に基づき病気やケガ等により受け取る給付金・保険金は課税されません。具体的には、以下のような給付金や一時金は所得税・住民税の課税対象とならず非課税です:

  • 入院給付金(病気・ケガで入院した場合の給付金)
  • 手術給付金(所定の手術を受けた場合の給付金)
  • 通院給付金(所定の病気治療のため通院した場合の給付金)
  • 特定疾病保険金・がん診断一時金(がんなど特定の疾病と診断された場合の一時金)
  • 就業不能給付金(病気・ケガで所定の就労不能状態になった場合の給付金)
  • 高度障害保険金(高度障害状態になった場合に受け取る保険金)
  • 介護保険金(要介護状態になった場合の保険金)
  • 先進医療給付金(先進医療を受けた際に支給される給付金)

これらはいずれも被保険者の身体に生じた傷病や障害に直接起因して支払われる給付であるため、保険金額・給付金額の大小に関わらず非課税扱いとなります。そのため、一回あたり数百万円の高度障害保険金であっても課税されませんし、日額給付の入院給付金を長期にわたり受け取った場合でも税金はかかりません。ただし、非課税所得とはいえ医療費控除を確定申告で受ける際には注意が必要です。医療費控除計算時には、「支払った医療費」から「受け取った入院給付金などの金額」を差し引く必要があります(保険で補填された医療費部分は自己負担ではないため)。なお、給付金が非課税であることから、これらを受け取っても通常は確定申告の必要もありません。

契約関係上の注意: 給付金は通常、被保険者本人(保障対象者)が給付金受取人となるよう契約されています。例えば医療保険では、入院や手術を受けた本人が給付金を受け取る形です。しかし契約によっては被保険者と受取人を別に設定できる場合もあります。その場合でも、上記の非課税の条件は「身体の傷害に基因して支払われること」であり、受取人が誰かに関係なく非課税所得として扱われます。一方で、被保険者が亡くなられた後に支払われるべき給付金(例:入院中に亡くなり未請求だった入院給付金等)を相続人が後から請求して受け取るケースでは、それは被保険者の死亡後に取得した財産として相続税の課税対象となり得ます。このように給付金自体は非課税でも、被保険者死亡により受取人が相続人となる場合には相続財産として扱われる点に注意が必要です。

以上のように、「保険金」と「給付金」は生命保険における支払条件や契約後の継続性といった定義上の違いがあります。また税務上も、保険金は契約者・被保険者・受取人の関係に応じて課税方法が分かれ、所得税の課税対象となる場合は一時所得や雑所得に区分されます。一方で給付金は原則として非課税所得扱いとなり、税金の心配なく受け取れる点が大きな違いです。ただし保険金・給付金とも、契約形態次第で相続税や贈与税の問題が生じる場合がありますので、契約時に受取人の指定関係には十分留意することが重要です。

参考文献・情報源: 国税庁タックスアンサー、生命保険文化センター、所得税法施行令第30条第1号など公式解説を基に作成しています。各種給付金・保険金の非課税条件や課税区分については、国税庁や金融庁等の公的機関の解説を優先的に参照しています。

日本の所得税法における「生命保険に基づく保険金」と「給付金」の違いの要約は以下のとおりです。

①「生命保険に基づく保険金」

  • 定義・特徴
    • 死亡、高度障害、満期到来などにより、一時的に支払われるまとまった金銭。
    • 一度支払われると契約は終了する。
  • 税務上の扱い
    • 契約者・被保険者・受取人の関係で課税方法が変わる。
      • 所得税課税:保険料負担者と受取人が同一人物の場合、一時金なら一時所得、年金形式なら雑所得として課税。
      • 相続税課課税:被保険者が保険料負担し、死亡後に別人(相続人)が受取る場合は、一定限度まで非課税、超過分に相続税が課税。
      • 贈与税課税:保険料負担者・被保険者・受取人がすべて異なる場合は贈与税が課税。

②「生命保険に基づく給付金」

  • 定義・特徴
    • 入院や手術など医療上の事由に基づいて支払われるお金。
    • 繰り返し受取可能で、支払い後も契約は継続する。
  • 税務上の扱い
    • 原則として所得税は非課税。
    • 入院給付金、手術給付金、がん診断一時金、先進医療給付金など、身体の傷病に起因するものはすべて非課税。
    • ただし被保険者死亡後に遺族が未請求の給付金を受け取った場合、相続税の対象となることがある。

要点整理

  • 保険金は課税対象になることがあるが、給付金は原則非課税。
  • 課税の有無や所得の種類は「契約者・被保険者・受取人の関係性」と「支払いの理由(死亡か医療か)」で決定される。

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