S&P500や全世界株式インデックスといった株式指数が歴史的に右肩上がりの成長を示してきたという事実は、多くの投資家や制度の間で広く共有され、当然の前提として認識されている。しかし、冷静に考えてみると、この「歴史的に上昇しているから将来も上昇するだろう」という仮定は、確固たる理論的根拠に基づいた予測というよりも、過去の経験に基づいた一種の信念に近いものであると言わざるを得ない。
元来、未来の予測に完全な理論的根拠を持つことが困難な状況では、私たちは往々にして過去の経験を頼りに判断を下すことになる。実際、人間社会には、このような「経験的に妥当とされる前提」に基づいて運用されている制度が数多く存在している。全身麻酔がその典型例である。麻酔が意識を消失させるメカニズムは、未だ完全には解明されていないにもかかわらず、医学の現場ではその効果が経験的に確認されているため日常的に利用されている。また、経済政策におけるインフレ目標の2%という数値についても、明確な理論的根拠があるわけではない。しかし、実際にその設定が大きな不都合なく機能しているという経験的事実から、多くの国の中央銀行が採用し続けている。
つまり、人間社会においては理論的な完全性よりも、むしろ「うまく機能しているかどうか」という経験的な妥当性が重視されることが少なくない。S&P500や全世界株式への投資の前提も、究極的にはそうした経験的な妥当性を根拠に受け入れられているものなのである。したがって、投資家にとってはこの経験的前提を絶対視することなく、それを可能にしている条件が将来にわたって続くかどうかを冷静に検証し続ける姿勢が重要である。
コメント