令和7年度所得税法 理論問題の出題予想と分析

1. 出題が予想される論点

  • 各種所得控除の改正(基礎控除・配偶者控除・扶養控除等) – 令和7年度税制改正で基礎控除額や給与所得控除の引上げ、扶養親族等の所得要件緩和(いわゆる「103万円の壁」の123万円化)など大幅な変更が行われました。この改正は注目度が高く、最新の知識を問う論点として出題可能性が極めて高いです。改正内容と適用要件について整理しておく必要があります。
  • 青色申告制度の要件と特典 – 青色申告特別控除(電子申告等で最大65万円)や専従者給与の控除、欠損金の繰越控除など、青色申告者のメリットは所得税実務の根幹です。毎年のように頻出する重要論点であり、近年も令和5年度試験で取消事例が出題されています。帳簿要件や承認手続、取消事由など実務的論点が問われる可能性があります。
  • 損益通算および純損失の繰越控除 – 複数所得間の赤字・黒字の相殺ルールや、控除しきれなかった損失の繰越し制度は、頻出論点の一つです。特に不動産所得の赤字と他の所得との通算制限、災害損失の繰越し制度など実務で問題になりやすい点は要注意です。近年の試験でも繰越控除の適用要件が取り上げられており、出題される可能性が高いでしょう。
  • 居住用財産の譲渡所得特例(3,000万円特別控除等) – 自宅売却時の譲渡益非課税枠(3,000万円控除)や軽減税率の適用は金額的影響が大きく、実務上も重要なテーマです。令和5年度試験でも取り上げられたばかりですが、受験生にとって重点分野であり続けています。適用要件(居住要件や適用回数制限など)や譲渡損失との関係など、引き続き出題される可能性があります。
  • 金融所得課税の仕組み(上場株式の譲渡・配当と申告分離課税、特定口座制度) – 株式や投資信託の譲渡益・配当所得に対する申告分離課税や、特定口座での源泉徴収制度は、投資増加に伴い実務的な重要性が高まっている論点です。過去には株式譲渡損失と他所得との損益通算可否や、上場株式等の配当選択課税(配当控除との比較)が問われたこともあります。NISA拡充など制度変更も背景に、応用的な論点として出題が予想されます。
  • 事業所得と雑所得の区分(いわゆる「副業問題」) – 副業収入が事業所得になるか雑所得と扱われるかは近年議論となり、通達で300万円基準など判定基準の明確化が図られました。令和4年以降の新しい実務論点であり、継続的な営利性や経営参加の有無による区分基準を説明させる問題が考えられます。誤った区分は税額や控除適用に影響するため、今後出題されてもおかしくない論点です。
  • 源泉徴収と確定申告の関係(申告義務者の判定) – 年末調整で課税関係が完結するケースと、自ら確定申告が必要となるケースの区別は、所得税実務の基本です。給与所得者でも二か所以上から収入がある場合や、高額所得者・医療費控除適用者など申告が必要なパターンの整理は重要です。令和3年度には申告制度全般が問われており、改めて適正申告の制度理解を問う論点として出題される可能性があります。

2. 過去の出題傾向の分析

  • 頻出論点の循環: 所得税法の理論問題では、毎年必ずと言っていいほど基礎的かつ実務重要な論点が登場します。例えば 青色申告制度損益通算繰越控除は過去10年で何度も出題されており(※令和元年・令和5年など頻出)、居住用財産譲渡の特例も数年おきに繰り返し問われています。これらは一度出題されても間隔をおいてサイクル的に出題される傾向があり、受験対策上も最重視すべきテーマです。
  • 改正論点の優先出題: 税制改正があったテーマは翌年の試験で出題されやすい傾向があります。過去には平成30年度改正の配偶者控除見直しが翌年の試験で問われた例があり、今回の令和6・7年度の所得控除見直し(基礎控除・所得要件引上げ等)は令和7年度試験の最有力テーマとなっています。また、近年改正のあった退職所得の計算方法見直し(勤続5年以下の優遇廃止)も令和3年度に早速計算問題で出題されるなど、重要改正は敏感に出題傾向に反映されています。
  • 未出論点の穴埋め: 一定期間出題されていない分野にも注意が必要です。所得税法は範囲が広いため、過去5~10年で未出の論点は将来の出題候補となり得ます。例えば、非居住者に対する課税(納税義務の判定や国内源泉所得の範囲)や外国税額控除の詳細などは近年大きく問われていませんが、グローバル化で重要性が増す論点として不意に出題される可能性があります。また、利子所得や一時所得など基本的な区分でも長期間出題のない項目は要チェックです。試験委員はこうした盲点的領域から出題し、受験生の理解の浅さを突くこともあるため、網羅的な準備が必要です。
  • 複合事例問題の増加: 過去5年ほどの傾向として、複数の論点を組み合わせた応用的な出題が増えています。単一テーマの暗記だけでは対応できないよう、例えば「損益通算+居住用財産譲渡」や「事業所得+雑所得+株式譲渡益」のように、実務で起こり得るケースを想定した総合問題が見られます。これにより受験者には条文知識の横断的な適用力が求められており、学習段階から個別論点の関連性を意識する必要があります。
  • 出題時期とサイクル: 理論問題で各論点が最後に出題された時期を見ると、概ね主要テーマは5年以内に一巡する傾向があります。例えば扶養控除や配偶者控除は直近では令和4年度に出題済み、山林所得は令和5年度計算で登場、退職所得も令和3年度計算で扱われました。今年度はそれらに代わり、新改正分野や未出だった論点が採用されるタイミングと考えられます。過去問分析から出題サイクルの谷間にある論点を洗い出し、優先順位を付けて対策することが重要です。総じて、試験委員は基礎的事項と時事的変化とのバランスを取りながら問題を作成していると分析できます。

3. 税理士の役割との関連(重要論点の実務的意義)

  • 所得控除の改正への対応: 基礎控除や配偶者控除の適用条件変更は、多くの納税者に影響するため税理士による周知・説明が不可欠です。税理士は改正内容を正しく理解し、クライアントに対して「扶養控除等の所得要件緩和」によるメリット(例えば配偶者や扶養親族がいる家庭の控除拡大)や留意点を説明します。適正な年末調整や確定申告を支援することで、納税者の権利を守りつつ税務行政の円滑な遂行に寄与します。
  • 青色申告制度による適正申告の推進: 青色申告は税務当局にとって納税者の帳簿水準向上と適正申告を促す制度であり、税理士はその外部委託先としての重要な役割を担います。具体的には、新規開業者に青色申告の届出を勧めたり、帳簿記帳の指導を行って65万円控除の適用をサポートします。万一、記帳不備があれば青色申告特典を喪失するリスクがあるため、税理士は日頃から経理指導・チェックを行い適正申告の維持に努めます。このように青色申告制度を通じて納税者と税務行政を繋ぐ橋渡し的役割を果たすのが税理士です。
  • 損益通算・繰越控除の適用支援: 複数の所得を持つ納税者や赤字事業を抱えるクライアントにとって、損益通算や純損失の繰越控除は税負担を適正化する重要な権利です。税理士は、例えば不動産所得の赤字や災害損失が出た場合に他の所得と通算できるかを判断し、必要なら確定申告で適切に控除を適用します。また繰越控除を受けるには確定申告が必須である点など専門知識を伝え、納税者が控除漏れや適用ミスをしないようサポートします。これにより納税者の正当な権利行使を助け、公平な課税を実現することが税務代理人である税理士の責務となります。
  • 大型取引の税務判断サポート(譲渡所得特例): マイホーム売却など一生に何度もない大きな取引では、納税者は税制上の特例を知らずに不利益を被ったり誤申告しがちです。税理士は事前相談を受けた段階で3,000万円特別控除等の特例適用可否を判断し、必要な要件(居住期間や買換え特例との関係など)を丁寧に説明します。また譲渡所得の申告書作成も代行し、適切に特例を適用することで納税者の税負担を軽減させます。税理士の関与により納税者は安心して大きな取引に臨め、税務署側も誤申告のリスクが減るという効果があります。
  • 金融所得の適正課税への寄与: 株式や投資信託の売買益・配当については、一般の納税者には総合課税・分離課税の選択や損益通算の可否といった仕組みが複雑です。税理士は投資家であるクライアントに対し、特定口座源泉ありなら原則申告不要であることや、一方で譲渡損失が出た場合は確定申告することで税金還付が受けられることなどを助言します。また上場株式等の配当について総合課税を選択すれば配当控除が使える反面、所得合算で税率上昇するケースもあるため、その有利不利を試算して示すのも税理士の役割です。こうした専門的支援を通じ、納税者が最適な申告を行い過不足ない税負担を実現できるよう税理士は貢献しています。
  • 副業収入の申告助言: 近年増加する副業やフリーランス収入について、事業所得と雑所得の区分誤りは後日の追徴課税リスクを伴います。税理士はクライアントの副業実態(継続性・独立性や収入規模)をヒアリングし、適切な所得区分で申告するよう事前に助言します。例えば収入が小さいうちは雑所得申告として余計な経理負担を軽減し、事業拡大すれば青色申告の届出を検討するなど段階的なサポートを行います。これにより納税者は税務上有利な取扱いを享受しつつ、税務リスクも低減できます。税理士は行政の外部委託先として、納税者の申告内容が税法の趣旨に沿った適正なものになるよう導く役割を果たしていると言えます。
  • 源泉徴収漏れ所得のフォロー: 年末調整で済まない所得(二か所給与、副収入、医療費控除など)は本人が確定申告しなければなりませんが、納税者自身が申告義務に気付かないケースもあります。税理士は顧問先の年間収入状況を把握し、申告が必要な場合に的確にアドバイスすることで納税漏れを防止します。たとえば副業収入が20万円超の場合や、住宅ローン控除初年度で年末調整適用漏れの場合など、税理士の案内で期限内申告が行われれば本来徴収すべき税収が確保され、税務行政の適正さが保たれます。また納税者にとってもペナルティを回避できるメリットがあり、税理士は双方の信頼関係を支える存在となっています。

総合的な要約: 令和7年度(2025年度)の税理士試験・所得税法理論では、近年の改正による所得控除の見直しが最有力論点となるほか、青色申告制度損益通算など従来から重要視されるテーマが引き続き問われると予想されます。また、過去の出題サイクルや実務動向を踏まえると、居住用財産譲渡の特例金融所得課税, 副業収入の区分といった応用的論点も十分出題可能性があります。これらの論点はいずれも税理士が納税者の適正申告を支援し、税務行政の一翼を担う上で重要な知識領域です。総じて、本試験では基礎知識の確実な理解最新制度への対応力、そして実務的な判断力が問われるでしょう。受験生は過去問の傾向を踏まえつつ改正点や実務上のポイントまで視野に入れた総合的な学習が求められます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました