2025年時点の中国外貨準備に占める金の割合と信頼性の分析

中国の外貨準備に占める金(ゴールド)の割合が「約4%」であるとの主張について、最新データに基づき検証します。また、中国政府が公表する金保有量および外貨準備高の数値がどの程度信頼できるかについて、(数字を信じる理由)・(数字を疑う根拠)・(どう理解すべきか)の観点から分析します。

最新の金保有量と外貨準備高データ

中国の公式金保有量(2025年): 中国人民銀行(中央銀行)が保有する公式金準備は、2025年初頭時点で約2,300トンに達しています(約7,370万トロイオンス)。これは世界でも有数の規模であり、米国やドイツなどに次ぐ大量の公式保有量です。

中国の外貨準備高(2025年): 同じく2025年初頭現在、中国の外貨準備高は約3.2兆米ドル(約32,000億ドル)に上ります。これは世界最大の外貨準備高であり、中国経済・人民元を支える基盤となっています。

金の価値と外貨準備に占める割合: 金1トンは約32,150トロイオンスに相当します。近年の金の市場価格(例:1トロイオンスあたり約1,900~2,000米ドル)で換算すると、中国の金保有2,300トンは金額にしておよそ1400~1500億米ドル規模となります。これを総外貨準備3.2兆ドルと比較すると、金準備は全外貨準備の約5~6%程度を占める計算になります。したがって「約4%」という主張は現在の状況より低めの数字であり、最新の相場を反映すれば金の割合は5%台半ばから6%程度となっています。金価格や保有量の変動によって多少変わりますが、少なくとも直近では4%を上回っているのが実情です。

(注:2024年末時点では金価格がやや低く保有量も僅かに少なかったため、金の割合は約4%前後でした。しかし2025年初頭にかけて中国の追加購入と金相場上昇があり、この割合が上昇しています。)

金保有量公表の方法と透明性

中国の公式金保有量データの公表方法には独特の特徴があります。他国の多くの中央銀行が毎月もしくは定期的に国際通貨基金(IMF)に金準備を報告・公表するのに対し、中国人民銀行は不定期な開示を行ってきました。

  • 過去の非公表期間と一括修正: 中国は長年にわたり金準備を増減しても即座には公表せず、数年おきにまとめて公表する慣行が見られました。例えば、2003年頃から金を買い増していたものの報告値は約600トンで据え置かれ、2009年になって一挙に1,054トンへ修正されました。同様に、2009年~2015年は約1,054トンで据え置かれ、2015年に約1,658トンへと大幅増加が発表されています。このように、何年も変動を報告せず**「ある日突然」大幅増**を発表するケースが歴史的にありました。
  • 近年の公表方針の変化: 2015年の大幅増加発表以降、中国人民銀行は一時期毎月少しずつ金購入を公表するようになりました(2015年後半~2016年にかけ数トン単位で増加を報告)。しかし2017~2018年には再び増減が報告されず停滞し、2019年前半にかけて月次報告を再開、約1,942トンまで増やした後また停止、そして2022年末から再び月次で金の購入を報告しています。2022年11月以降2023年・2024年にかけて毎月数~数十トン規模で増加を発表し、現在に至る約2,300トン台まで積み増してきました。最近は月次ベースで報告が続いており、以前に比べ透明性がやや向上しているものの、依然として増加しない期間には実は水面下で買い増ししている可能性が指摘されています。
  • 情報開示の姿勢: 中国政府・中央銀行は金保有量を戦略的機密とみなす傾向があります。上記のような不定期開示は「市場を混乱させないため」「リスク管理上、徐々に分散投資するため」と中国当局が説明したことがあります。つまり、金を買い増す際に市場に公表してしまうと価格を押し上げてしまう恐れがあるため、内密に積み増し、後から公式準備高に組み入れるという戦略をとってきたと考えられます。このため透明性という点では、欧米の中央銀行に比べると情報開示が限定的であると言えます。

一方、中国の外貨準備高全体(米ドルやユーロなど通貨建て資産の合計)は、金とは対照的に毎月公表されています。国家外為管理局(SAFE)や中国人民銀行は月次の外貨準備高を発表しており、その推移は国内外の金融市場で広く注目されています。ただし、内訳の透明性には限りがあります。ドル・ユーロ・円など各通貨や資産種類(米国債、現金同等物など)の内訳は公的には詳細開示されていません(IMFには報告しているとされますが、公衆には断片的な情報しかありません)。総額自体は公開されますが、中身の構成はブラックボックスの部分が残る点は留意が必要です。

中国政府公表数値の信頼性:正・反・合

以上のデータと背景を踏まえ、中国政府が公表する金保有量および外貨準備高の数値について、「信じる側の論拠(正)」「疑う側の論拠(反)」を整理し、最終的にそれをどう理解すべきか(合)を考えます。

正:数字を信じる理由

  • 公式統計と国際基準への準拠: 中国の公表する外貨準備高や金準備は、一応は国際基準に則って報告された公式統計です。外貨準備高についてはIMFにも報告されており、毎月発表される数字は国際的にも参照されています。過去に大きな齟齬や虚偽が指摘されたことはなく、市場もこの数字を前提に人民元の信頼性を評価しています。公表値そのものは基本的に正確であると考えるのが妥当です。
  • 最終的な着地は辻褄が合う: 金準備に関しても、公表のタイミングこそ不規則でしたが、長期的に見れば公表値は実態に追いついていると見ることができます。例えば2009年や2015年の発表で一気に増えた後、その新しい数字は国内の金生産量・輸入量など他の情報とも大きな矛盾はありませんでした。中国国内の莫大な金生産(世界最大級)や輸入が国家に取り込まれていると考えれば、最終的に発表された1,600トン超、そして現在の2,300トン前後という数字自体は現実的な範囲と言えます。完全な秘密裏にさらに何千トンも隠し持つという確たる証拠はなく、公式発表値が少なくとも最低限の保有量として実態を示していると信じる理由になります。
  • 国家信用と国際監督: 外貨準備高や公式金準備の数字を意図的に偽れば、中国自身の信用を損ないます。特に外貨準備高は自国通貨の信用力と直結するため、大国である中国が虚偽報告をする可能性は低いでしょう。仮に市場が「中国が実は公表より外貨準備を持っていないのではないか」などと疑えば、通貨危機や信用不安を招きかねません。そうしたリスクを冒してまで数字を操作するインセンティブは薄く、公表値は基本的に信頼できると考えるのが正当です。

反:数字を疑うべき根拠

  • 過去の非透明性と戦略的な隠匿: 前述のように、中国は金準備に関して長期間非公表を貫いた前例があります。一度ならず複数回にわたり、「実は裏で買い増していた」と後から明かした歴史がある以上、現在も公式発表以上の金を保有している可能性は否定できません。国家戦略上、金保有を分散して(例えば国家外為管理局や政府系銀行名義で)蓄積し、タイミングを見て中央銀行の準備高に計上するといった手法を継続しているとの見方もあります。したがって、公式発表は氷山の一角である可能性を疑う向きがあります。
  • データ公開の恣意性: 金の公表について規則的でない点は、当局の裁量で情報開示がコントロールされていることを意味します。他国のように自動的・機械的に更新されるデータではなく、中国政府の意思が強く反映されています。これは、政治的・戦略的意図で数字を操作できる余地があることを示唆します。例えば、米中関係が緊張する局面でドル資産から金へシフトしていても公表を遅らせる、あるいは市場の動向を見て発表時期や量を調整する、といったシナリオも理論上可能です。こうした恣意性ゆえに、表向きの数字をそのまま鵜呑みにするのは危ういという指摘があります。
  • 内訳不透明による疑念: 外貨準備高の総額こそ毎月公表されますが、その内訳の不透明さはリスク要因です。たとえば、中国は巨額の米国債を保有していますが、公式統計とは別に為替スワップや第三国経由での運用など表に見えない形で資金を動かしている可能性があります。仮に外貨準備を隠れた形で消耗していたとしても、総額だけを公表していれば一見安定しているように見せられます。過去には急激な資本流出時に外貨準備高の減少を抑えるため、通貨スワップで見かけの数字を維持したとの観測もありました。つまり、公表される数字の裏側で何が起きているかは完全には見通せないため、額面通り信じてよいのか疑念が残るわけです。
  • 他国との比較: 他の主要国に比べて中国の公式金比率が極端に低いこと自体、不自然との声もあります。米国やドイツなどは外貨準備に占める金の割合が70%前後にも達します(これは外貨準備総額がそれほど大きくないこともありますが、金の絶対量も多い)。ロシアですら20%超と言われます。それに対し中国が仮に本当に5%未満(近年でも一桁台前半)しか金を持っていないとすれば、外貨準備規模に比してバランスが悪いようにも思えます。世界最大の生産量と輸入量を誇る中国が、国家としては公式には比較的少量しか保有していない状況には違和感があり、「未公表の備蓄金」があるのではないかと勘ぐる向きもあります。

合:どう理解すべきか

中国の金および外貨準備データは、公式発表を基礎にしつつ、その背景も考慮して解釈することが適切です。すなわち、表面的には中国の金保有は外貨準備の数%程度(直近では5~6%前後)とされますが、以下の点を踏まえて理解するのが賢明です。

  • 公式数値は最低限の指標: 公式に公表されている金保有量・外貨準備高は、その時点で中国が認めている最低限の規模と見なすことができます。つまり、この数字を下回ることはおそらくなく、中国の対外支払い能力や準備資産の底堅さを示すベースラインと考えるべきです。金融市場や国際機関もこの公表値を前提に判断していますので、我々もまずは公式発表を出発点として受け止めるのが合理的です。
  • 文脈から読み解く: 同時に、中国の公表する数値は文脈を読み解く必要があります。過去に非公表期間があったことや、公表再開のタイミング、増加ペースなどには中国の戦略が反映されている可能性があります。例えば、ここ1年あまりで中央銀行が金を連続で買い増しているという事実は、中国が外貨準備の構成を**徐々に見直している(ドル依存を下げ、金など実物資産比率を上げている)**ことを示唆します。公表数値の変化やその発信タイミングから、中国当局の意図(リスクヘッジ強化、人民元国際化への布石など)を推察しながら理解する姿勢が求められます。
  • 慎重な中間評価: 「約4%」という数字自体は直近では低めの見積もりでしたが、仮に5~6%であっても依然低いとも言えますし、今後さらに増加する余地も大きいです。したがって、「中国は外貨準備の大半を依然として米ドルなどで持ち、金の比率は現在は一桁%に過ぎない」という事実と、「しかしその比率は上昇傾向にあり、実際の保有量は公式発表以上かもしれない」という可能性の両方を念頭に置くべきでしょう。極論すれば、公式数値を鵜呑みにしすぎるのも問題ですが、陰謀的に全く信用しないのも極端です。公式発表を尊重しつつ、歴史的経緯や戦略的意図にも目配りすることでバランスよく理解するのが望ましいと言えます。
  • 結論: 2025年時点で中国の金準備が外貨準備に占める割合は、最新データでは約5~6%程度と推定され、「約4%」という主張はやや過去の水準に基づく数字でした。公式発表の数値そのものは信頼に足る基盤情報ですが、その背景には中国特有の開示姿勢や戦略も潜んでいます。高い金融リテラシーを持つ読者にとっては、数字の裏にある文脈を読み解き、公式情報と現実の力学を突き合わせて判断することが肝要でしょう。中国当局の発表するデータを「正」と「反」双方の視点から検証しつつ、中庸的な理解(「合」)を導くことが、実態を捉える上で最も納得感のあるアプローチだと考えられます。

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