米国のビットコイン準備金法案の最新動向(2024年後半〜2025年5月)

2024年後半から米国では、政府の戦略的ビットコイン準備金(Bitcoin Reserve)を創設するための法案が注目されています。これは米国政府の外貨準備や国庫資産にビットコインを加えることを目指す画期的な提案で、ビットコインを「デジタルの金」に例え国家備蓄としようとする動きです。以下では、このビットコイン準備金法案および関連の最新動向について、正式名称や内容、政治的背景、進行状況、そして既存の暗号資産規制との関係を整理して解説します。

法案の正式名称と提出者

米国上院の暗号資産推進派として知られるシンシア・ルミス上院議員(共和党、ワイオミング州選出)は、2024年7月31日にビットコイン準備金の創設を目指す法案を提出しました。法案は通称「2024年ビットコイン法(BITCOIN Act of 2024)」と呼ばれています。正式名称は**「全国的な投資の最適化によるイノベーション・技術・競争力の促進法」**(Boosting Innovation, Technology, and Competitiveness through Optimized Investment Nationwide Act)という長い名称ですが、その頭文字をとって「BITCOIN法案」と略称されています。この法案を提出したのはルミス議員で、所属政党は共和党です。

その後、2024年11月の米大統領選挙でドナルド・トランプ氏(共和党)が勝利し、2025年1月に政権が共和党に移ったことで、この構想はさらに弾みをつけました。トランプ大統領は就任直後からビットコインを国家資産として重視する姿勢を示し、2025年3月6日には「戦略的ビットコイン準備金(Strategic Bitcoin Reserve)と米国デジタル資産備蓄の設立」に関する大統領令に署名しています。この大統領令では、各政府機関が押収・没収により保有するビットコイン等の暗号資産を一元管理する新組織を財務省内に設置し、予算の範囲内で追加の暗号資産取得戦略を策定することなどが指示されました。つまり、政権のトップダウンでもビットコイン備蓄が推進され始めたのです。

こうした政権の後押しを受け、ルミス上院議員は2025年3月11日に改めて法案を再提出しました(新たな議会での提出に伴い**「BITCOIN Act of 2025」となりました)。今回は連邦下院にも共和党のニック・ベギッチ下院議員(アラスカ州選出)が同一趣旨の法案を提出し、上下両院で共同(バイカメラル)提案**となった点が注目されます。また上院ではルミス議員の他、共同提案者としてトミー・タバービル(アラバマ州)、ロジャー・マーシャル(カンザス州)、マーシャ・ブラックバーン(テネシー州)ら複数の共和党上院議員が名を連ねました。さらに2024年の選挙で当選したジム・ジャスティス(ウェストバージニア州)やバーニー・モレノ(オハイオ州)といった新人共和党上院議員も賛同者に加わり、共和党主導で法案が推進されています。

法案の主な内容と目的

このBITCOIN法案の主目的は、米国政府にビットコインの国家備蓄を確立することです。ビットコインを金のような戦略的資産(ストラテジック・リザーブ)として公式に位置付け、将来的な財政健全化と経済安全保障に役立てる狙いがあります。法案の条文や要旨から、その主な内容をまとめると以下のとおりです:

  • 戦略的ビットコイン準備金(SBR)の設立:財務長官(米国財務省)が責任者となり、全米各地に分散配置された安全なビットコイン保管庫(コールドウォレット)ネットワークを構築します。高度な物理的・サイバーセキュリティ基準を設け、連邦政府のビットコインを安全に保管する体制を整えます。現在政府が保有しているビットコイン(※犯罪収益の没収品など)もこの新準備金に集約されます。また、希望する各州政府が自ら保有するビットコインをこの連邦の準備金に預け入れられる仕組み(州ごとに口座を分離管理)も設けられます。こうすることで、国家全体でビットコイン備蓄を一元管理しつつ透明性を高める意図があります。
  • 100万BTCの取得プログラム:**5年間で合計100万ビットコイン(BTC)を取得する大規模な購入プログラムを実施します。年間あたり最大20万BTCを計画的に買い増しし、5年で100万BTCに達する想定です。100万BTCは現在のビットコイン総供給量の約5%**に相当し、米国が保有する金の準備高(約8000トン、世界一の規模)に匹敵する戦略的価値を持つ量です。ビットコイン価格にもよりますが、仮に1BTCが数万ドル規模で推移すれば、総投資額は数兆円〜数十兆円規模になり得る計算で、まさに国家戦略レベルの巨額投資となります。
  • 長期保有と活用条件:取得したビットコインは国家の長期資産として最低20年間は売却せず保有し続ける方針が定められます。ただし例外的に、連邦債務(国債など)の返済に充てる場合のみ、20年以内でも一部を売却して活用することを認めます(国の債務削減に役立てる狙い)。20年の保有期間経過後も、一度に大量放出して市場を混乱させないよう、2年間で全備蓄の10%以上を売却しないといったルールで段階的な処分しかできない制限を課す方向です。要するに、政府はビットコインを「貯金」として基本的に貯め込み、緊急時や財政再建の切り札としてのみ切り崩すという戦略です。
  • 財源確保の方法(増税なし):100万BTCもの購入費用を新たな税負担に頼らず捻出する工夫が盛り込まれています。具体的には、連邦準備制度(FRB)や財務省が既に保有する資金・資産の有効活用によって賄うこととされています。例えば、FRBが保有する金の評価替え益(簿価見直しによる含み益)を資金源に充てたり、FRB各地区連銀が積み立てている剰余金の一部を国庫に繰り入れてビットコイン購入に回す、あるいは財務省の保有資産(保有金や為替安定基金)のポートフォリオを組み替える、といった既存資産の「多様化」による調達です。これにより新規の国債発行や増税なしで予算中立的にビットコイン備蓄を増やす計画です。
  • 個人のビットコイン保有権の明確化:法案には国家によるビットコイン購入だけでなく、民間におけるビットコインの保有・利用の自由を保障する条項も含まれています。具体的には、米国市民および企業が自らビットコインを所有し、自分で管理(セルフカストディ)し、自由に取引できる権利を明確に認め、連邦政府がそれを妨げることを禁止する内容です。この条項は、将来的に政府が個人の暗号資産ウォレットを規制・制限するような事態を予め排除し、金融主権(個人の資産を自分で管理する権利)の保護を図る意図があります。ビットコイン準備金の創設はあくまで国家がビットコインを保有する話であり、同時に市民もビットコインというデジタル資産を自由に活用できる環境を守る、という二本立ての理念が示されています。

このように、BITCOIN法案の目的は単にビットコインを買い集めるだけでなく、米国の経済的基盤を強化し将来世代に備えることにあります。提唱者たちはビットコインを「デジタルゴールド」と位置付け、「アメリカの貸借対照表(バランスシート)を強化する」ことや「経済主権と競争力の維持」を掲げています。膨張する国家債務(2025年時点で約36兆ドル=約5000兆円超)への対策として、ビットコインの価値上昇や希少性を活用し債務削減に役立てる狙いも強調されています。また、技術革新と金融の覇権競争が進む21世紀において、米国がデジタル金融のリーダーであり続けるために国家としてビットコインを戦略的資産として取り込む必要がある、というのがこの法案の根底にある考え方です。

政治的背景と支持・反対の状況

政治的背景: ビットコイン準備金法案が登場した背景には、米国の政治・政策環境の変化があります。まず、大前提として2020年代における米国政府の暗号資産政策は政権によって温度差がありました。2021〜2024年のバイデン政権下では、証券取引委員会(SEC)による暗号資産取引所への規制強化や、税制上の締め付けなど慎重もしくは厳格な姿勢が目立っていました。一方で2024年の大統領選で再登板を果たしたトランプ大統領と共和党は、インフレ対策やドルの信認維持の観点から金本位制復活やビットコインの活用といった大胆な金融アイデアを掲げており、暗号資産にもより前向きなスタンスを見せていました。

トランプ氏自身、選挙中の発言で「もし再選したら政府が保有する約21万BTCを売却せず国家備蓄とする」と表明したり、政権発足後すぐにゲンスラーSEC委員長の解任(暗号資産規制に消極的だったためとされる)に言及するなど、暗号資産コミュニティ寄りの姿勢を鮮明にしました。こうした大統領の方針は当然議会にも影響し、ルミス議員ら共和党の有志が2024年に提案していたビットコイン準備金構想が一気に現実味を帯びることになります。2025年3月6日の大統領令署名3月11日のBITCOIN法案再提出はまさに連動した動きで、政権と議会の共和党が足並みを揃えてビットコイン戦略備蓄に乗り出した形です。

支持の状況: ビットコイン準備金法案の支持基盤は主に共和党内の暗号資産・財政改革に前向きな議員グループです。提出者のルミス上院議員は長年ビットコイン擁護派として知られ、ワイオミング州で暗号資産を推進する法整備にも関わってきました。今回彼女に賛同する共同提案者には、上院の保守派議員が多く名を連ねています。例えば元実業家でもあるタバービル議員は「ビットコイン準備金の創設は米国が世界最強の経済であり続けるための重要な一歩。膨大な国債を減らすのにビットコインを使わない手はない」と述べ、国家債務削減策として支持を表明しています。また、実業界出身の新人であるモレノ議員は「数十年にわたる放漫財政で巨額債務を抱えた。戦略的ビットコイン準備金は米国のバランスシートを改善する一歩だ」とし、インフレヘッジ・財政強化策として肯定的です。トランプ政権与党という立場もあり、**「米国をデジタル金融革命のリーダーに」「ビットコインで未来の繁栄を確保する」**といった大義名分で支持が広がっています。下院でもベギッチ議員を中心に、保守系・自由主義系の議員が支持に回っている模様です。

共和党以外にも、一部では州レベルの超党派の支持も見られます。例えばテキサス州やニューハンプシャー州では、州政府がビットコインを予備資産として保有することを目指す法案が2023〜2025年にかけて検討・可決されており(テキサス州では2025年5月に「テキサス戦略的ビットコイン準備・投資法」が州議会で可決目前となりました)、民主党議員を含む州レベルの議員が賛同するケースも出ています。こうした州政府の動きは連邦政府への先行事例ともなり、ビットコイン準備金構想自体は党派を超えて一定の関心を集め始めていると言えるでしょう。ただし州の場合は「州財務が一部ビットコインを持つ」という小規模な試みであり、連邦の法案ほど大胆な内容ではありません。それでも保守的な財政観点からビットコインを資産に加える発想が徐々に浸透しつつある背景は、連邦の動きとも共通しています。

反対・懐疑的な声: 一方で、この法案やビットコイン備蓄のアイデアに対しては民主党を中心に慎重・反対意見も根強く存在します。まず経済学者や財政保守派の一部からは、「極めてボラティリティ(価格変動)の大きいビットコインに国家資産を投じるのは財政リスクが高すぎる」という指摘があります。ビットコイン価格は数年で半値以下になることも珍しくなく、仮に暴落すれば国庫に損失を与えかねません。また環境面で暗号資産に批判的な議員(例えば民主党のエリザベス・ウォーレン議員ら)は、「ビットコイン採掘には多大なエネルギー消費が伴い環境負荷が大きい。このような通貨を国家が推奨するのはおかしい」として倫理的観点から反対する可能性があります。

さらに金融政策の専門家からは、「中央銀行(FRB)の役割やドルの信用と相容れない」との懸念もあります。米ドルは法定通貨として国家信用を背負っており、その裏付け資産として金以外に暗号資産を採用することに抵抗感を示す向きがあります(「ビットコインは誰にも保証されないデジタル資産で、基軸通貨ドルの信用担保にはなりえない」との主張)。特に民主党や金融当局の一部は、安定した中央銀行デジタル通貨(CBDC)の研究に注力しており、価格変動の激しいビットコインを国の公式準備にするのは逸脱だという批判も予想されます。また、ビットコインに政府資金をつぎ込むより先に、投資家保護や犯罪悪用対策など暗号資産規制をきちんと整備する方が先決だという慎重論もあります。このため現時点で民主党議員がこの法案に賛成する動きは確認されておらず、むしろ上院銀行委員会などで厳しい追及や修正要求が出てくる可能性があります。

総じて、支持派は主に共和党(特にトランプ政権・保守系)の議員やビットコイン支持者たちであり、彼らは「国家競争力・財政健全化のためにビットコイン活用が必要」と訴えています。一方、反対・慎重派は主に民主党議員や一部の専門家で、「ビットコインは不安定で危険」「国家金融政策に組み込むべきではない」と懸念を示しています。この対立構図は、米国の暗号資産政策全般における党派間ギャップの一例とも言え、法案の行方を左右する重要なポイントです。

現在の進行状況

立法プロセス上の現状: 2024年7月に上院提出されたBITCOIN法案(2024年版)は、その後上院銀行・住宅・都市委員会に付託されましたが、当時の上院多数党である民主党の優先課題ではなかったこともあり、118議会(2023-2024会期)では審議が進まないまま年末を迎えました。この法案自体は会期終了とともに廃案扱いとなりましたが、2025年に入り前述のように新会期で内容をアップデートして再提出されています。

2025年3月に再提出されたBITCOIN法案(2025年版)は、上院では銀行委員会、下院では金融サービス委員会など所管の委員会に回されています。2025年5月時点では、上下両院とも委員会での審議入りを待つ段階です。提案者であるルミス議員やベギッチ議員は、早期に公聴会を開いて専門家の意見を聞き、法案の具体化と支持拡大を図りたい意向と伝えられます。実際、ビットコインやデジタル資産に関する議会内の関心も高まりつつあり、2025年春には別途下院で「デジタル資産に関する包括法案」の審議が行われるなど、関連議論の場が増えています。その文脈で本法案も議題に上る可能性があります。

可決の見通し: 法案が成立するには、上下両院の可決と大統領署名が必要です。2025年現在、下院は共和党が過半数を維持しており、BITCOIN法案についても共和党指導部が支持すれば比較的スムーズに可決できる土壌があります。ただし、法案の性質上、財政委員会や規則委員会で慎重な精査を受けるでしょう。共和党内でも伝統的な財政保守派の中にはボラティリティへの懸念を示す者がいるかもしれず、党内調整がカギになります。一方、上院は2025年時点で共和党が僅差で多数派となった模様です(2024年選挙でオハイオ・ウェストバージニアなどの議席を共和党が奪回したため)。そのため、上院本会議での可決も現実味を帯びますが、反対する民主党議員によるフィリバスター(長時間演説など審議引き延ばし策)が行われれば、可決に必要な60票を集めるのは容易ではありません。仮に党議拘束がない案件だとしても、民主党側からの支持を取り付けるためには、法案内容の修正(例えば購入規模の縮小や監視メカニズムの強化)が求められる可能性があります。

大統領の動向: 仮に議会を通過すれば、トランプ大統領は署名して成立させる公算が極めて高いでしょう。むしろ大統領令という形で既に政策を先行実行していることから、法制化によってそれを「既成事実」として永続化することに積極的です。トランプ政権の高官も「戦略的ビットコイン準備金は長期国家戦略の基礎になる」としており、法案成立後は速やかに実行フェーズに移す意向が示されています。

進捗まとめ: 現時点(2025年5月)では、ビットコイン準備金法案は**「提出済み(Introduced)」の段階であり、まだ委員会審議・採決・成立には至っていません。ただし提案者の発言や周辺状況から、夏以降に何らかの動き(委員会公聴会やマーキングアップ=条文修正作業、あるいは別法案への組み込みなど)が起きる可能性があります。特に2025年後半には連邦債務上限や歳出に関する議論も控えており、その中で債務対策の一つ**として本案が注目を浴びる場面もあるかもしれません。一方で、法案が成立しなかった場合でも、トランプ政権の大統領令によるビットコイン備蓄戦略は当面続行されます。実際、大統領令に基づき各省庁の暗号資産の集計が進んでおり(2025年3月時点で政府保有ビットコインは推定20万BTC以上と報告されています)、財務省は追加取得の予算措置を検討中と報道されています。したがって、立法が遅れても行政措置で先行する形で、米国のビットコイン準備金構想は着々と動き出しています。

既存の暗号資産規制との関係・影響

ビットコイン準備金法案は米国における暗号資産政策の中でも異色の存在であり、成立すれば現行の規制体制に大きな影響を与える可能性があります。以下に主な関連ポイントを整理します。

  • 連邦政府の資産ポートフォリオへの新規追加: 現在、米国政府や連邦準備制度が保有する準備資産は、外貨(他国通貨)や金地金など伝統的なものが中心で、ビットコインのような暗号資産は公式には含まれていません。政府が暗号資産を入手するケースは、主に犯罪捜査で押収したものを競売で売却して現金化する、という限定的な運用でした。BITCOIN法案はこの方針を180度転換し、「売らずに貯めよ」という方向に舵を切るものです。つまり、既存の資産没収・処分に関するルール(例えば司法省・財務省管轄の押収資産管理手続き)に例外を設け、暗号資産を売却せず保持することを認める必要があります。またFRB法や財務省関連法令で定められた準備金の運用規定にも手当てが必要でしょう。例えば、FRBは法定上は金証券や米国債など限られた資産しか持てないとされますが、法律でビットコイン取得を義務付ければその範囲を拡張することになります。このように、本法案は金融当局の権限や運用ルールを変更する性格を持ち、既存制度に対する修正が伴います。
  • 規制スタンスの転換: 政府自らがビットコインを国家資産として保有するとなれば、暗号資産全体に対する米国の規制スタンスも軟化・明確化せざるを得ません。特にビットコインに関しては、**事実上「公認のデジタル資産」**との位置付けが強まります。現在でもビットコインは商品先物取引委員会(CFTC)からコモディティ(商品)とみなされ、証券規制の対象外とされていますが、政府備蓄の対象になることでその地位はより確固たるものになります。SECなど他の規制機関も、ビットコインそのものを証券扱いする可能性はほぼゼロとなり、むしろ投資商品(現物ETFなど)として承認する圧力が高まるかもしれません。つまり、ビットコインに関する規制環境は友好的方向にシフトしうるでしょう。
  • 他の暗号資産や規制枠組みへの波及: BITCOIN法案はその名の通りビットコインに焦点を絞ったものですが、暗号資産エコシステム全体にも間接的な影響があります。まず、政府がビットコインを備蓄するなら、他の主要暗号資産(イーサリアムなど)についても将来何らかの位置付けを検討する可能性がでてきます。実際、トランプ大統領の大統領令ではビットコイン以外に**イーサ(ETH)やリップル(XRP)、ソラナ(SOL)、カルダノ(ADA)**等も「デジタル資産備蓄」の対象に含める考えが示唆されました。ただし法案レベルでは議論が分散しないようビットコイン一本に絞っている状態です。また、本法案の成立は、現在議会で審議中の他の暗号資産関連法案(例えば暗号資産の証券・商品分類を明確化する法案や、ステーブルコイン規制法案など)にも追い風となります。ビットコイン準備金を国家戦略とする以上、暗号資産全般の法的明確性を高め市場を育成する必要性が増すためです。ひいては、長らく議論されてきた包括的な暗号資産規制枠組み(いわゆる「ルミス・ジリブランド法案」などの総合法案)の成立機運も高まる可能性があります。
  • 個人の権利保護への明記: 法案に含まれる**「個人のビットコイン保有・自己管理の権利を保障する」**条項は、既存の規制には明文化されていなかったポイントです。現在でも憲法や財産権の考え方から暗号資産を所持すること自体は自由ですが、例えば将来中央銀行デジタル通貨(CBDC)を導入する際に民間暗号資産を締め出すような議論が一部であります。この法案成立により、政府が個人の暗号資産ウォレットやセルフカストディを禁止・制限しないことが法律で裏付けられるため、そうした懸念を払拭できます。また、取引所などカストディ業者への過剰な規制で個人が引き出し困難になる事態も避けるべきとのメッセージになるでしょう。要は、国家がビットコインを持つ代わりに国民からそれを取り上げるのではなく、国家も国民もビットコインを保有し共存するという姿勢を明確にするものです。この点は既存の規制哲学(投資家保護のためには時に取引制限も辞さないという態度)とは異なり、より自己責任・自己管理を尊重する方向へのシフトを意味します。
  • 金融市場・ドル体制への影響: ビットコイン準備金を公式に持つことは、米国の金融政策やドルの国際的地位にも微妙な影響を与え得ます。既存の暗号資産規制は主に投資家保護や違法行為防止が目的でしたが、この法案が示すのは「暗号資産を国家戦略資産として活用する」という新たな視点です。これは裏を返せば、米国が自国通貨ドルの価値維持や国際競争力強化のために、従来の金や外貨のみならずビットコインを組み入れて多角的な備えをすることを意味します。短期的には、米国政府の大量買い付け期待からビットコイン市場が活性化し価格が上昇する可能性があります。また他国に対しても影響は大きく、例えば米国がビットコイン備蓄を始めれば、追随してビットコインを外貨準備に加える国が出てくるかもしれません。一方で、国際通貨基金(IMF)や各国中央銀行の中には懸念を示す声もあるでしょう(IMFはエルサルバドルのビットコイン法定通貨化に否定的でしたが、米国が備蓄すれば議論の前提が変わります)。ドル一極支配体制の下でビットコインが**「デジタル準備資産」として公式に台頭すれば、国際金融のルールにも影響を及ぼす可能性があります。このため、本法案の行方は暗号資産規制のみならず世界経済の枠組みにも波紋**を広げるでしょう。ただしあくまで法案段階であり、そうした大きな影響が現実化するかは今後の進展次第です。

おわりに

2024年後半から2025年前半にかけて浮上した米国のビットコイン準備金法案は、ビットコインを国家の戦略資産に位置付けようとする前例のない試みです。その正式名称(BITCOIN法)の通り、イノベーションと競争力強化を掲げた大胆な計画であり、支持者はこれを「21世紀の金備蓄」と位置付けています。一方で懸念や反対も依然強く、立法化には乗り越えるべき課題が多く残ります。現在この法案は審議途上ですが、既に政権の施策として一部動き出しており、米国の暗号資産政策は大きな転換期を迎えていると言えます。今後、議会での議論の推移や関連する規制整備の行方によって、米国が本当にビットコインを国庫に抱える日が来るのか注目が集まっています。政府の準備金にビットコインが加われば、暗号資産が世界経済の一角を担う新たなフェーズに突入することになり、米国のみならず国際的な金融秩序にも影響を及ぼす可能性があります。2025年以降も、この動向から目が離せません。

要約

最新(2024年後半~2025年5月時点)の米国におけるビットコイン準備金法案について要約すると、次のとおりである。

米国上院のシンシア・ルミス議員(共和党)が中心となり、政府が国家備蓄としてビットコインを公式に保有するための法案(通称:BITCOIN法案)が提出された。この法案の目的は、米国の国家資産としてビットコインを組み入れ、経済安全保障の強化、財政健全化、債務削減などを図ることである。具体的には、米政府が5年間で100万BTCを取得し、長期的(最低20年)に保有する計画が盛り込まれている。

2024年11月の大統領選挙でトランプ氏が再選されたことで、法案への追い風が強まった。2025年3月にはトランプ大統領が戦略的ビットコイン準備金設立を指示する大統領令を発令しており、政府内での保有資産の集約化と追加購入の検討が進んでいる。

政治的には共和党が主な推進派であり、民主党は財政リスクや環境問題、中央銀行の役割への影響を懸念して慎重姿勢を示している。現状(2025年5月時点)では上下両院の委員会審議待ちの段階で、法案成立までには議論の紆余曲折が予想される。ただし、政府によるビットコイン備蓄構想自体はすでに行政主導で動き始めており、米国の暗号資産政策が大きな転換期を迎えていることは間違いない。

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