所得税法に規定されている特定株式投資信託

定義

特定株式投資信託とは、信託財産を株式のみによって運用する証券投資信託のうち、一定の上場投資信託(ETF)を指す分類です。具体的には、日経平均株価やTOPIXなどの特定の株価指数に連動するインデックス型の上場投資信託で、金融商品取引所に上場されているものが該当します。これらの投資信託は、取引所で株式と同様に売買でき、運用内容が株式のみ(公社債などは含まない)である点が特徴です。税法上、この特定株式投資信託に該当するかどうかが、配当所得に対する課税方法や優遇措置の適用可否を判断するうえで重要になります。

適用要件

特定株式投資信託と認められるためには、法律および関連政省令で次のような要件が定められています。

  1. 信託財産の内容: 投資信託の資産が株式のみで構成されていること(債券や貸付など株式以外の資産に投資していないこと)。特に、信託財産は特定の株価指数に採用されている株式に投資し、その受益権の価値が当該指数と連動する運用を行うインデックスファンドであることが求められます。
  2. 上場されていること: その投資信託の受益権(投資信託の受益証券)が金融商品取引所に上場されていること。これにより市場でリアルタイムに取引可能なETFの形態である必要があります(外国籍の投資信託の場合も、国内または外国の金融商品市場に上場していること)。
  3. 無期限の信託期間: 信託契約期間が定められていないこと(無期限のファンド)もしくは、外国籍ファンドの場合は現地法令により定められた長期の信託期間であること。基本的にオープンエンド型(追加設定により規模拡大が可能、償還期限なし)のETFであることが条件です。
  4. 途中解約の制限: 受益者による任意の解約請求ができないこと。一般的な公募投資信託は任意のタイミングで解約できますが、ETFの場合は投資信託委託会社への直接の解約請求ができず、市場で売却する形になります。このETFの仕組みに合致することが要件となっています。
  5. 収益の全額分配: 毎計算期間ごとに発生した収益を全額分配する仕組みになっていること。信託財産から得られた配当金や利息などから経費を控除したすべての利益を定期的に分配する規定が約款に定められている必要があります(利益の自動再投資や内部留保を行わない)。
  6. 現物交換(インカインド)の仕組み: 一定口数以上の受益権を保有する受益者は、その受益権と信託財産中の対応する株式とを交換請求できること(いわゆる現物解約・現物創設の仕組み)。ETFでは指定参加者が受益権とバスケット株式の交換(現物受け渡し)を行える仕組みがありますが、そうした現物受益権と株式の交換制度が組み込まれていることも条件の一つです。

以上のように、**「上場されている株式100%のインデックスファンドで、無期限・全額分配型のETF」**であることが、特定株式投資信託としての大枠の条件となります。これらの要件を満たす投資信託のみが税務上「特定株式投資信託」と扱われ、他の一般的な投資信託(例えば債券を含むバランス型ファンドや非上場の投資信託など)は該当しません。

税務上の取り扱い

特定株式投資信託に該当するか否かで、投資家が受け取る分配金や譲渡益に対する課税関係、および受け取り側での税務上の優遇措置に違いが生じます。それぞれ個人の場合法人の場合に分けて、その扱いを整理します。

個人の場合

  • 配当所得としての課税区分: 特定株式投資信託の分配金は、所得税法上**「上場株式等の配当等」**と同様の扱いになります。具体的には、支払い時に15.315%(所得税及び復興特別所得税)の源泉徴収(別途5%の住民税)が行われ、上場株式の配当と同じ源泉税率が適用されます。
  • 確定申告不要制度: 上場株式等の配当と同様、一定の要件(少額配当など)を満たす場合や源泉徴収口座内の取引の場合、確定申告不要(申告省略)の選択が可能です。特定株式投資信託の分配金もこの申告不要制度の対象に含まれており、株式配当と同様に取り扱われます。したがって、他の所得と合算せず源泉徴収だけで納税関係を完結させることもできます。
  • 申告分離課税の選択: 投資家(個人)は、受け取った特定株式投資信託の分配金について、上場株式等の配当と同様に申告分離課税(税率20.315%)を選択することも可能です(大口株主に該当する場合等を除く)。申告分離を選択すれば、他の所得と分離して課税され、株式譲渡損失との損益通算はできませんが、株式譲渡益課税との一体化した税制の下で処理されます。
  • 配当控除(税額控除)の適用: 分配金を総合課税として申告する場合(源泉徴収済みでも自ら確定申告で合算する選択をした場合)、配当控除の適用があります。特定株式投資信託の分配金は、国内株式からの配当とみなされるため10%(一定高額所得の場合は5%)の配当控除が適用されます。これは一般的な公募株式投資信託の分配金(通常は配当控除5%)よりも手厚い控除率です。ただし、海外の株価指数に連動する特定株式投資信託(外国株に投資するETF)の分配金については配当控除の対象外となる点に注意が必要です(国内法人からの配当ではないため)。
  • 譲渡益の課税: 特定株式投資信託の受益権は上場株式等に分類されるため、それを売却して得た譲渡益は上場株式等の譲渡所得として扱われます。税率は申告分離課税で原則20.315%(所得税15.315%+住民税5%)です。他の上場株式等の譲渡益や譲渡損失と損益通算が可能であり、特定口座(源泉徴収あり)で管理していれば確定申告を省略することもできます。

以上により、個人にとって特定株式投資信託の収益分配は、ほぼ上場株式の配当と同様の税扱いとなり、株式投資と同等の優遇措置(申告不要の選択、配当控除の適用など)が受けられる仕組みです。

法人の場合

  • 受取配当等の益金不算入: 法人が投資信託から受け取る収益分配は、本来は受取配当等ではなく課税所得に算入されます。しかし、特定株式投資信託の分配金については例外的に、法人税法上の受取配当の益金不算入制度に準じた取扱いが認められています。具体的には、「非支配目的株式等の配当」とみなされ、その分配金額の一部を益金に算入しないことができます。かつては50%相当額を益金不算入とする扱いでしたが、平成27年度(2015年)の税制改正により見直され、現在は20%相当額のみが益金不算入(80%は益金算入対象)となっています。この措置により、法人が国内株式指数連動型のETFから受け取る配当相当額については、一部二重課税を調整する形で課税が軽減されます。例えば、特定株式投資信託から1,000万円の分配金を受領した場合、そのうち200万円が課税所得に含まれず(残り800万円に対して課税)、法人実効税率30%の場合の税負担が若干減少するといった効果があります。
  • 適用範囲の限定: 上記の益金不算入の特例は、国内株価指数連動型の特定株式投資信託に限定されています。外国株価指数に連動するETF(海外株式を主要投資対象とするもの)の分配金や、上場していない株式投資信託の分配金はこの特例の対象外であり、全額が課税所得となります。したがって、法人が益金不算入のメリットを受けるためには、投資対象が国内株式指数で運用される特定株式投資信託であることが条件となります。
  • その他税務取扱い: 法人が受け取る投資信託の分配金には原則として20.42%(所得税及び復興特別所得税)の源泉徴収がされますが、確定申告(法人税の確定申告)時に上記の益金不算入調整を行うことで精算します。また、法人が特定株式投資信託の受益権を売却した際の損益は通常の資産の譲渡損益として会計・税務処理され、特段の優遇はありません(一般の有価証券譲渡として課税)。

総じて、法人にとって特定株式投資信託からの収益分配は、一定割合が非課税扱いとなる点で優遇されています。ただし、その非課税割合は過去の50%から現在20%へ縮小されており、直接株式を保有した場合の配当益金不算入(持株比率に応じ50%または100%)と比べると限定的です。それでも他の投資信託からの分配金(通常は全額課税)に比べれば有利であるため、余剰資金の運用などでETFを活用する法人も見られます。

実務上の活用状況や例

特定株式投資信託に該当するファンドの代表例としては、上場株式市場における主要な株価指数連動型ETFが挙げられます。例えば、日経225連動型上場投資信託、TOPIX連動型上場投資信託、その他東証株価指数やJPX日経インデックス400などに連動するETFは、信託財産が株式のみで構成され条件を満たすため特定株式投資信託に分類されています。こうしたETFは、日本取引所グループのウェブサイトなどでもカテゴリー別に一覧化されており、多数の銘柄が市場で取引されています。

個人投資家にとって、これらETFの活用メリットは株式投資に近い感覚で分散投資ができ、税制上も株式と同様に扱われる点です。例えば、ETFの分配金は源泉徴収後に確定申告不要とできるため、少額の配当収入であれば手続きが簡便です。また、配当控除を受ける目的であえて総合課税に切り替えるといった選択肢も取れ、投資規模や所得状況に応じて有利な課税方法を選べます。投資信託の中でも、公社債投信やバランス型投信の分配金には配当控除が適用されないケースが多い中、特定株式投資信託であれば配当控除が適用可能なことは個人長期投資家にとって魅力となり得ます。

一方、法人にとっては、運用資金の一部を株式ETFで保有することで、配当課税の一部免除を受けつつ市場分散投資を行う手法が実務上考えられます。とくに銀行や一部事業会社などが、短期的な資金運用や株式エクスポージャーの取得にETFを利用するケースがあります。ただし先述のとおり、平成27年の税制改正以降は益金不算入割合が20%に引き下げられたため、過度な節税効果は望めなくなっています。この改正により、一時期法人によるETF大量保有が問題視された状況は緩和され、現在では税効果よりも純粋な運用・リスク分散のツールとして位置付けられているのが実情です。

具体的な例として、国内株式市場のETFを利用した運用は年金基金や機関投資家でも一般的です。彼らは分配金に対する課税繰延効果(法人の場合、益金不算入で一部非課税となることによる実効税率低減)を勘案しつつ、市場インデックスへの投資を効率的に行っています。また、**個人の少額投資非課税制度(NISA)**の枠内でこうしたETFを購入すれば、配当や売却益が非課税になるため、NISAとの組み合わせで税メリットを最大化しながらETF運用を行う個人も増えています。もっとも、NISA非課税は制度上の措置であり、「特定株式投資信託」の枠組みとは直接関係ありませんが、ETFという商品特性と税制優遇の相性が良い例と言えるでしょう。

まとめると、特定株式投資信託は税法上の定義に則ったETFであり、個人・法人を問わず幅広く利用されています。個人は株式投資と同等の税優遇(配当控除や申告分離課税選択など)を享受しつつ、簡便に分散投資できる点で利用価値が高く、法人も一定の税負担軽減を得ながら機動的にマーケットポジションを取れる手段として活用しています。税制面での優遇がある程度限られているとはいえ、**「上場株式と似た性質の投資信託は、上場株式と同様に扱おう」**という理念の下、制度上位置付けられたカテゴリーであるため、市場に定着したETF商品は概ねこの特定株式投資信託に該当するものとなっています。

要約(ポイント)

  • 特定株式投資信託とは、株式のみを投資対象とし特定株価指数に連動する上場投資信託(ETF)を指す税法上の区分であり、条件を満たすETFは税務上「上場株式等」に準じた扱いを受けます。
  • 適用要件として、信託財産が株式100%で構成され、指数連動型の無期限ETFであること、全収益の定期分配や現物交換の仕組みがあること、取引所に上場していること等が求められます。
  • 税務上の取扱い: 個人が受け取る分配金は上場株式の配当と同様に課税・源泉徴収され、配当控除申告不要申告分離課税の選択が可能です。法人が受け取る場合は、**分配金の20%相当額が益金不算入(非課税)**となる特例があり(※外国株指数ETFを除く)、直接株式配当を受ける場合ほどではないものの一定の二重課税緩和措置が講じられています。
  • 実務面: 特定株式投資信託に該当するETFは日経平均やTOPIX連動型をはじめ多数あり、個人投資家の分散投資手段法人の機動的な株式運用先として広く利用されています。税制優遇はある程度限定的ながら、株式投資の延長として効率的に運用できる金融商品として定着しています。

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