定義と範囲の違い
外国所得税とは、日本の所得税法上、外国の法令に基づき外国(その地方公共団体を含む)が個人の所得を課税標準として課す租税を指します。具体的には、外国における所得税に相当する税金であり、例えば超過利得税(超過所得に課される税)や附加税(所得税に上乗せされる税)なども含まれます。一方で、以下のようなものは外国所得税に含まれないとされています:
- 任意に還付請求できる税金(納付後に納税者が自由に全額または一部の還付を請求できるもの)
- 任意に納付猶予期間を定められる税金(納税者が自由に納付猶予期間を設定できるもの)
- 税率を納税者と課税当局の合意で決定できる税金の一部(複数の税率から納税者等との合意で税率が決まるものの一定部分)
- 附帯税等(上記「外国所得税」に付随して課される延滞税・加算税の類)
これらは法的に「外国所得税」に該当しないため、日本の外国税額控除の計算上は最初から対象外となります。
控除対象外国所得税(控除対象外国所得税額)とは、外国所得税のうち日本の所得税から控除できるものを指す用語です。所得税法第95条において、居住者がその年に納付する外国所得税額から一定の不適格な税額を除外したものを「控除対象外国所得税の額」と定義しています。簡単にいえば、外国所得税の中で外国税額控除の対象となる部分のことです。例えば、第95条では政令で定める取引に基因する異常な所得に対する外国税や、日本の税法上課税されない金額を課税標準とする外国税などを除外すると規定し、これらを除いたものが「控除対象外国所得税」となるとしています。
適用条件の違い
「外国所得税」であってもすべてが控除の対象になるわけではない点が、実務上の大きな違いです。「控除対象外国所得税」と認められるためには、上記の除外項目に該当しないことが条件となります。具体的な適用条件の違いを整理すると以下の通りです。
- 外国所得税: 納税者が外国で所得に対して課された税金であれば広く「外国所得税」に該当します。ただし前述のように、一部の特殊な税は法令上「外国所得税」に含まれません。この範囲に該当するか否かは、外国の課税制度や税の性質によって判断されます。
- 控除対象外国所得税: 「外国所得税」のうち、日本で外国税額控除を受けるための要件を満たすものです。納付された外国所得税がその年分の日本の所得に対応していること、かつ条約や法令で定める制限を超えていないことなどが必要です。たとえば、租税条約で源泉税率の上限が定められている場合に、その上限を超えて外国で源泉徴収された部分の税金は控除対象に含めることができません(租税条約上免除されるはずの税額も同様)。また、通常の取引から生じた所得でない場合の税や、日本の居住者が非居住者時代に得た所得に対する外国税なども、たとえ「外国所得税」を納付していても控除対象にはならない決まりです。要するに、日本の所得税と二重課税関係にある正規の所得課税のみが「控除対象外国所得税」として認められる条件と言えます。
さらに、外国税額控除を適用するためには、確定申告で所定の明細書や外国税の納付証明書を添付して申告する必要があります。この手続上の条件は、「控除対象外国所得税」を日本の税額控除に反映させるための要件です。単に外国所得税を支払っただけではなく、適正な手続きを踏むことで初めてその税額を控除対象に含めることができます。
関連法令・通達の違い
所得税法(法律)では、第95条が外国税額控除制度を定めており、その中で「外国所得税」と「控除対象外国所得税」の概念が登場します。法律上、「外国所得税」の定義自体は政令(所得税法施行令)に委ねられており、施行令第221条・第222条で具体的な範囲や除外項目が規定されています。例えば施行令で、前述した任意に還付可能な税や条約上の限度を超える税などが詳細に列挙され、これらは外国税額控除の対象外と明示されています。
所得税基本通達(国税庁の法令解釈通達)でも、これらの用語の使い分けや取扱いが解説されています。基本通達95-1では、「外国所得税の額(法第95条第1項に規定する控除対象外国所得税の額に限る)」との表現で、外国所得税額のうち控除対象となる部分に限定して議論する旨が示されています。これは、外国税額控除を適用する際には「控除対象外国所得税」だけが考慮されることを明確化したものです。また基本通達の別項では、租税条約の限度税率を超える部分の税額は控除対象外国所得税に含まれないことに留意すべきと記載されています。このように通達においても、「外国所得税」のうち何が「控除対象」となるかを具体的に示し、実務上の判断基準を提供しています。
国税庁の公式サイトのタックスアンサーも参考になります。No.1240「居住者に係る外国税額控除」では、外国所得税の範囲(含まれるもの・含まれないもの)や、控除の対象とならない具体的事例がQ&A形式で示されています。例えば、「外国所得税であっても次の税額は外国税額控除の対象になりません」として12項目の具体例(異常取引に基づく所得への税、国外支店と本店間の支払に対する税、租税条約の限度超過分 等)が挙げられており、実務上の注意点がまとめられています。これら公式情報源を確認することで、両者の概念と扱いの違いをより明確に理解できます。
違いのポイントまとめ
- 法律上の定義: 「外国所得税」は外国の所得課税全般を指す広い概念であり、「控除対象外国所得税」はその中から日本の税額控除に充てることのできる適格な税金を絞り込んだものです。
- 適用範囲: 外国所得税には様々な所得課税が含まれますが、任意の還付や条約違反的な課税など特殊なものは除外されます。控除対象外国所得税にはそうした除外項目を差し引いたものだけが含まれ、実際に日本の所得税から控除できるのはこの部分のみです。
- 実務上の取扱い: 外国税額控除を受けるには、その外国税が控除対象外国所得税に該当し、かつ所定の手続きを踏む必要があります。基本通達や国税庁の解説でも、「外国所得税」のうちどの部分が「控除対象」となるかを明示しており、納税者は適用可否を判断する際にこの区別に留意する必要があります。
以上のように、「外国所得税」は海外で課された所得税相当額全般を指すのに対し、「控除対象外国所得税」はそのうち日本の制度上二重課税調整(税額控除)の対象として認められる部分を指す用語です。それぞれの定義や条件は所得税法および関連通達で規定されており、実務ではこの違いを踏まえて外国税額控除の計算・適用を行います。
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