現在の金価格と市場背景

2024年末から2025年初頭にかけて、金価格は1オンス約2,600ドル前後で推移している。2024年は年間で約25%の大幅上昇となり、2011年の高値を大きく上回る新記録を更新した。特に2025年春には、米国の利下げ期待や地政学リスクの高まりを背景に一時1オンス3,400ドル超の史上最高値を付けた。背景には、米国の高止まりするインフレ懸念や政府債務への不安、ウクライナ情勢や中東・台湾海峡情勢などの不透明感、さらには主要国による金融緩和への転換観測がある。また、2024年末にFRBが利下げに転じたことで実質金利低下が予想され、リスクオフの資金が安全資産である金に流入した。これらが組み合わさり、ドル安傾向も手伝って金需要を押し上げている。金ETFでもアジア勢の買いが顕著で、全体として需給はタイト化しており、市場のセンチメントは強気に傾いている。

金価格に影響する主要因

  • 米国のインフレ率とFRBの金融政策: 2023年まで続いた米国の高いインフレ率は2024年にピークを越え、2025年以降は徐々に低下すると見込まれている。FRBは2024年末に利上げを終了し25bpの利下げに踏み切ったが、インフレが予想外に粘り強い場合は追加利下げが抑制されるリスクもある。一般に、インフレ率が名目金利を上回って推移する局面では実質金利が低下し、金は利回りを生まないもののインフレヘッジ資産として需要が高まりやすい。逆にインフレ沈静化で金融引き締め長期化となれば、金利上昇とドル高の重しとなり得る。FRB見通しでは2025~27年にかけてインフレが2~3%前後に収斂する可能性が示唆されており、利下げは慎重なペースにとどまる公算だが、そのタイミングや程度次第で金価格には影響が出る。
  • 地政学的リスク: 2022年以降のウクライナ情勢や中東の緊張(イラン核合意・イスラエル情勢など)、そして米中・台湾情勢の不安定化は、いずれも金の需要を刺激する。戦争や国際紛争の拡大は、伝統的に「安全資産」への逃避を促すため、金価格の下支え要因となる。これらリスクが顕在化すれば投資家は金へのシフトを強め、価格は上昇しやすい。一方、国際的な緊張緩和や大規模外交協調の動きが出れば、一時的な金価格の反落圧力となる可能性がある。
  • 中央銀行の金購入傾向: 近年、新興国を中心に中央銀行の金購入が急増している。世界銀行などのデータでは、2024年の中央銀行買い越し量は過去最高の約1,100トンに達し、2025年も千トン規模の買いが見込まれている。主要購入国には中国・ロシア・インド・トルコなどが含まれ、準備通貨分散やインフレリスクヘッジの一環として金を備蓄に加えている。中央銀行需要は全体の需要の大きな割合を占めるため、これらの買いが継続すれば金価格の底を支える重要な要因となる。特に新興国経済の成長や貿易状況の変化によってドル離れが進めば、さらに金需要は高まりやすい。
  • ドルの為替レートと実質金利: 金価格は概ね米ドル建てで決まるため、ドル相場の動向が直接影響する。ドル安になれば他国通貨建てで金の割安感が高まり、需要が増えて金高を促す。実際、2024年末から2025年前半にかけてドル指数は3年ぶり安値圏まで低下し、金価格の上昇を後押しした。一方、ドル高基調が戻る局面では外貨建て投資家の買い控えが起きやすい。実質金利については、名目金利から期待インフレ率を差し引いた数値で表される。米国の実質金利が低下(マイナス圏に近づく)すれば、預金や国債の魅力が相対的に低下し、金への代替需要が出やすくなる。最近は米国の実質金利がゼロ%前後~マイナスで推移しており、これが金高要因となっている。将来、経済回復で債券利回りが上昇し実質金利が上昇すれば金価格には下押し圧力となるだろう。
  • 金ETFや投資家センチメント: 金ETF(例:SPDRゴールドシェア〈GLD〉など)への資金流入・流出は短期的な投資家心理を表す指標となる。2023年までは先進国市場でETFからの資金流出が続いたが、2024年にはアジアを中心に大規模な買い戻しが入り、世界全体のETF残高は過去最高を更新した。その後2025年5月時点では、米国でやや利食い売りが見られたものの、全体では依然として高い需要水準を維持している。投資家心理としては、金は依然として安全資産・インフレヘッジ資産と見做されており、株式市場の下落や政治・金融の不透明感が強まる局面では買いが優勢となる傾向がある。現状では金は強気相場とされ、テクニカル指標には上昇疲れも示されているものの、依然として多くのファンドや個人投資家が金を保有あるいは買い増す姿勢を維持している。

2025年~2030年の金価格予想

名目価格予想(米ドル/オンス)

  • 2025年: 2024年末までの上昇基調を受け、年平均では約3,000~3,300ドル程度まで上昇すると見込まれる。春先に3,400ドル超の高値を付けた後、一時的な調整も考えられるものの、平均しては過去高値圏での推移が予想される。
  • 2026年: FRBの利下げ進展や世界経済の不安定化があれば、金価格はさらに上昇しやすい。年央にかけてドル安が進行すれば3,500~3,700ドル、場合によっては4,000ドル近辺を試す可能性がある。ただし、景気が持ち直し金利高止まりとなればやや下押し要因となり得る。
  • 2027年: インフレが2%近辺に落ち着き、経済がやや安定すれば金利サイクルは一巡感も出る。ベースラインでは4,000ドル前後で上値を抑えられる可能性があるが、新興国の需要や供給制約が強まれば再び3,500ドル台後半の押し上げ圧力も残る。
  • 2028年: 中長期の視点では、再び需要超過や地政学リスクの高まりがあれば4,000ドル超の上値チャレンジも考えられる。平時の見方では3,800~4,000ドル程度のレンジで推移する見通し。
  • 2029年~2030年: インフレ再加速や金融不安等があれば、2030年までに再度強い上昇トレンドが想定される。状況次第で4,000~5,000ドル以上の水準が取り沙汰される。逆に先進国景気が回復し利回りが上昇すれば3,000ドル台半ばまで押し戻されるリスクも残る。

実質価格見通し(2024年ドル基準)

  • 2025年: 名目約3,000~3,300ドルを想定すると、インフレ率3%程度の実質換算でおおむね3,000ドル前後。
  • 2026年: 名目3,500ドルと見た場合、同2.5%のインフレ前提で実質約3,300ドル。
  • 2027年: 名目4,000ドル、インフレ2%なら実質約3,400ドル。
  • 2030年: 名目5,000ドル、累計インフレ15%で換算すると実質約4,300ドル程度。

(上記は一例。実質価格は前提とするインフレ見通しに大きく依存するため、インフレ率が高まれば実質ベースでもより強い上昇となる。)

シナリオ別予測

  • ベース(中立)シナリオ: 米国のインフレは2026年以降2%台に低下し、FRBは段階的利下げに動くが、世界経済は緩やかな成長で推移する想定。この場合、金価格は名目で2025~2030年にかけて概ね3,000~4,000ドル台で上下し、2030年に向けて緩やかな上昇トレンドを描く。具体的には2025年に約3,200ドル、2028年に約3,800ドル、2030年には約4,000ドル前後となる見込みで、インフレ調整後の実質水準は概ね3,000ドル強のレンジに収まる。
  • 強気シナリオ: グローバルなインフレ再燃や大規模な地政学リスク(例:米中対立激化、欧州危機拡大など)が生じ、ドル安が進むケース。この場合は安全資産需要が急増し、中央銀行買いも加速する。金価格は2030年にかけて大台を突破し5,000ドル台や1万ドルに迫る可能性がある(米アナリストの中には7000ドルを合理的シナリオとみる声もある)。実質ベースでも現在(2024年ドル)比で数割上昇する見込み。
  • 弱気シナリオ: 世界的な景気回復や金融引き締めが長期化し、安全資産需要が後退するケース。米国でインフレ抑制と利下げ後退が鮮明となれば、ドル高・利回り上昇で金価格は下落圧力を受ける。金は1トロイオンス2,000~2,500ドル程度(2020年以前の水準)まで下押しされる可能性がある。ただし、実質価格は当該期間のインフレ次第で変動するため、インフレが1%台に低下すれば実質下落幅は限定的となる。

31年周期・技術的・心理的節目との関連性

一部の市場関係者は、金価格において「約30~31年周期」のサイクルが観察されると指摘する。1980年に過去最高値を付けてから約31年後の2011年に再び最高値に迫ったことから、次の大きなピークを2040年代とみる見方がある。ただし、この周期論はあくまで歴史的パターンの一つの見解に過ぎず、市場の需給や政策環境ほど確固たる根拠とは言い難い。実際には、10年周期程度の小サイクルや4年ごとの政権サイクルなど、他の周期論もある。技術的・心理的な観点では、金はラウンドナンバーが大きな節目として意識されやすい。既に3,000ドル突破がターニングポイントとなり、今後は3,500ドル、4,000ドル、さらには5,000ドルや10,000ドルといった大台が次の心理的節目となる可能性が高い。また、主要移動平均線や相対力指数(RSI)などで過熱感が示されると、一時的な調整を警戒する声も聞かれる。総じて、長期トレンドでは上値余地が残る一方で、短期的には過去最高値からの調整振幅にも注意が必要という見方が妥当である。

投資家への示唆(短期・中長期)

  • 短期的視点: 現在の金相場は過去最高値圏にあるため、テクニカル面では上昇の行き過ぎや押し目形成の可能性に留意すべき時期である。2025年前半は利下げ期待の高まりや地政学リスクで強含みだが、これらが一服するといった外部環境の変化には敏感となる。短期では動きが大きいため、急騰・急落の両局面で短期的な利ざや取りの機会もあるが、過熱後の調整幅が浅い場合も想定される。流動性とボラティリティが高い現状では、分散投資の一環として安全資産ポジション(現物金や金ETF)を維持しつつも、ショートポジションは慎重に扱うのが賢明であろう。
  • 中長期的視点: インフレや金融リスク、地政学リスクが依然として市場に影響力を持つと考えられるため、金は引き続きポートフォリオのヘッジ資産として位置づけられるべきである。長期では中央銀行の買い支えや供給制約が継続的に金価格を支える要因となるため、中長期保有の観点からは金の比率を一定程度維持する意義が大きい。特に世界的な債務膨張や通貨不安リスクが噴出すれば、金の上昇余地はさらに広がる可能性がある。一方で金は利子・配当を生まない資産であるため、他資産とのバランスを考慮し、機会コスト管理も重要である。日本の投資家にとっては、円安傾向が金価格上昇を加速する点にも注意が必要で、外貨建て資産としての側面も併せて検討するとよい。総じて、短期の値動きに一喜一憂するのではなく、中長期的な資産分散策として金を活用する姿勢が推奨される。

まとめ:2030年に向けた金価格の方向性

  • 世界的な金融緩和への転換やインフレ・政治リスクの高止まりから、2030年にかけては金価格は全般的に上昇基調を維持すると予想される。短期的な調整局面はあっても、長期トレンドではこれまでの高値を押し上げる要因が多い。
  • 基本シナリオでは、2030年頃に名目で4,000ドル前後、インフレ調整後でも3,000ドル台半ばの水準が中心見通しとなる。強気シナリオではそれを大きく上回る5,000~7,000ドル超の可能性もあり、弱気でも2,000~2,500ドル水準は下値の目安となろう。
  • 主要因としては、FRBの利下げ動向(実質金利)、ドル相場、中銀買い、地政学リスク、投資マインドの5点を注視すべきである。これらが好転すれば強い金高要因、逆に悪化すれば金価格の伸び悩み要因となる。
  • 投資家は金を安全資産・インフレヘッジとして中核ポジションに据えつつ、短期的なバブル警戒やリスク管理を怠らないよう心掛けることが重要である。2030年に向けては、金は依然「上方向の余地を残す資産」であるとの大筋認識が示唆される。

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