権力の正統性(王権神授 vs ポピュリズム)
18世紀フランスの絶対王政では、君主の権力は「王権神授」によって正統化されました。国王は自らの支配権を神から授かったものと位置付け、神以外の何者にも縛られない絶対的権威を主張したのです。一方、トランプ政権はポピュリズムによる正統性を掲げ、選挙で得た民意を自身の権力の源泉としました。トランプ氏は「自分は民衆の代弁者だ」という主張で既存の議会や司法の批判を退け、敵対者を“人民の敵”とみなしました。つまり神を根拠に絶対性を主張した王と、人民を盾に権威を正当化したトランプという違いはありますが、ともに超越的存在(神/人民)への帰依によって自らの権力を正当化し、統治への異議を封じ込めようとした点で共通しています。この構図自体が内包する緊張や矛盾(絶対的権威と現実の統治能力とのギャップ)は、歴史の弁証法的視点から見ると重要な意味を持ちます。
経済・財政政策の矛盾(重商主義と浪費 vs 減税と赤字)
フランス絶対王政は、財政基盤を強化するために重商主義政策を採用し、高関税や専売制によって国家収入を増やしました。これにより蓄えた富でヴェルサイユ宮殿の建設や度重なる戦争を支え、短期的には繁栄を演出しました。しかし、その裏では物価高騰や産業の非効率化によって庶民の生活は圧迫され、国家財政の硬直化と巨額の赤字が進行します。特権階級への浪費や戦費負担が財政を逼迫させ、18世紀末には国家は破綻寸前となりました。この矛盾はフランス革命の遠因となります。トランプ政権もまた、大規模減税によって一時的な景気刺激と富裕層・企業の利益拡大を図りましたが、その結果、国家の財政赤字は拡大の一途をたどりました。同時に、貿易赤字削減を名目に高関税を課すなど21世紀版の重商主義とも言える政策を取り、短期的には国内産業保護や関税収入増につなげました。しかし、これらは消費者物価の上昇や貿易相手国からの報復を招き、長期的には自国経済の活力を損ねかねない矛盾を孕んでいました。絶対王政下の財政矛盾もトランプ政権下の経済政策も、短期的繁栄と長期的負担という対立物を内包しており、その内的な矛盾が体制全体の危機につながる点で相似していると言えます。
対外政策(覇権の衰退と内向き化)
フランスはルイ14世の時代に欧州随一の強国でしたが、その後の継続的な戦争(スペイン継承戦争や七年戦争など)によって国力が疲弊し、18世紀後半にはイギリスに海上覇権と植民地の多くを奪われました。かつての覇権が衰える中、フランス王政は財政危機や国内不満の高まりに直面し、対外的野心を抑えて内政の維持に注力せざるを得なくなります。すなわち、国際秩序の主導権を握る余力を失い、半ば内向きな姿勢に転じたのです。トランプ政権下のアメリカも類似した動きを見せました。「アメリカ第一主義」の名のもとに国際協調より自国利益を優先し、同盟国との関係を軽視・緊張させてパリ協定離脱や多国間協定の拒否など孤立主義的な政策を取りました。この内向き化により、第二次世界大戦以降築いてきたアメリカの国際的リーダーシップは後退し、中国をはじめとする新興国に影響力拡大の機会を与えています。覇権国家が自ら内向きの保護主義に傾斜する時、その地位低下が加速するという歴史の皮肉がここに見て取れます。フランス絶対王政末期もトランプ政権期の米国も、世界秩序の頂点に立つ国が内向き志向へ転じた結果、相対的地位の衰退を招いたという点で共通しており、これもまた弁証法的な「盛衰のパターン」と言えるでしょう。
社会階級と分断(身分制と格差・分極化)
フランス旧体制(アンシャン・レジーム)下では、社会は厳格な身分制により分断されていました。第一身分(聖職者)と第二身分(貴族)は経済的・政治的特権を享受し、税を免除されていたのに対し、第三身分(平民)は重税と貧困に苦しめられていました。富と権力がごく一部の身分に集中し、大多数の庶民が不満を蓄積するという極端な格差構造は、啓蒙思想の広まりと相まって既存体制への批判と抵抗を生み出します。そして1789年、特権身分への批判と平等な社会を求める第三身分の決起によってフランス革命が勃発し、身分制社会は崩壊へと導かれました。現代アメリカもまた、大きな経済格差と社会的分断を抱えています。グローバル化と新自由主義の下で富裕層に富が集中し、中間層の没落と貧困層の拡大が進行しました。トランプ政権は「既存エリート対忘れられた一般市民」という対立軸を強調し、そのポピュリズム的訴えで支持を集めましたが、実際には減税策は富裕層を利する割合が大きく、地方・都市や人種間、政治的イデオロギー間の対立も深まりました。結果としてアメリカ社会の分極化は一層顕著になり、互いに相容れない集団同士の不信と敵対が増幅しています。このようにフランス旧体制とトランプ期の米国はいずれも、社会の階層間で深刻な不平等と対立を抱えていました。両者の支配体制は、それぞれ封建貴族vs市民階級、エリートvs大衆という形で階級的矛盾が先鋭化し、それが体制を内部から突き崩す原動力となった点で共通しています。マルクス的視点を借りれば、支配階級と被支配階級の対立という弁証法的矛盾がいずれの場合も革命や政治的激変の引き金となったのです。
全体の要約
トランプ政権と18世紀フランス絶対王政は、時代背景も政治形態も異なりますが、権威の正当化から経済運営の姿勢、国際的立ち位置、社会構造に至るまで、各側面に内在する矛盾と構造的な類似が認められます。いずれの体制も、自らの権力を絶対化する理念(神授の王権や人民の声)によって正統性を主張しつつ、その内実では経済・財政の無理や社会の不公正を拡大させ、最終的には統治秩序を揺るがす結果を招きました。弁証法的に見れば、こうした内部矛盾の蓄積こそが歴史を前進させる原動力であり、フランス革命は旧体制の自己矛盾が引き起こした歴史的な止揚(揺り戻し)と言えます。同様に、トランプ政権期の諸矛盾がこれから先のアメリカ社会にどのような変革をもたらすのか──その行方は未知数ですが、歴史の教訓として内在する対立を放置した体制はやがて転換を迫られることが示唆されています。
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