定立: 利下げで長期金利が下がる従来の常識
一般的な金融理論では、中央銀行が政策金利を引き下げれば、短期金利だけでなく長期金利も低下すると考えられています。利下げは資金調達コストを下げて景気を刺激する政策であり、その結果、市場では将来のインフレ圧力や金利上昇の可能性が小さくなると見込まれます。このため、政策金利を下げれば国債利回りなど長期金利も低下するのが一般的です。
反定立: インフレ下で利下げが長期金利を押し上げるリスク
しかし、ラリー・サマーズ氏(元米財務長官)やジェフリー・ガンドラック氏(米著名債券投資家)は、この「利下げが長期金利上昇を招く」という逆説的な現象が起こり得ると警鐘を鳴らしています。サマーズ氏は、インフレ率が目標を上回る状況で金融当局が利下げに踏み切れば、インフレ抑制への決意が揺らぎ、長期金利を押し上げかねないと指摘します。また、ガンドラック氏も、昨年(2024年)秋にFedが利下げを開始してから米10年債利回りが約1%上昇した点を指摘し、今後利下げを再開すれば同様に長期金利が上昇するだろうと述べています。彼はこれを「パラダイムシフト」であり、安全資産と見なされてきた米国債への信頼低下の表れだと捉えています。
総合: 利下げの影響は状況次第で異なる
以上の定立と反定立から導かれる結論は、利下げが長期金利に与える影響は経済環境や市場の信認によって大きく変わり得るということです。インフレ懸念が根強い状況では、たとえ景気刺激のための利下げであっても、市場のインフレ期待を高め、長期金利を上昇させてしまう可能性があります。一方、インフレが安定している環境では、従来どおり利下げは長期金利の低下につながるでしょう。要するに、現在のようにインフレ率が高く債務負担も重い局面では、中央銀行への信頼が揺らぐと、金融緩和がかえって長期金利上昇を招き得るという新たなパラダイムが示唆されています。政策当局は従来の常識に囚われず、このリスクを念頭に置いて慎重に舵取りをする必要があると言えます。
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