売買目的有価証券(トレーディング目的棚卸資産)の評価方法

J-GAAPでは、短期売買目的の資産(トレーディング目的棚卸資産)は「期末時価評価」が原則です。すなわち、期末貸借対照表価額は取得原価ではなく、市場価格等による時価で評価し、帳簿価額との差額(評価損益)を当期損益に計上します(棚卸資産会計基準第15項)。金融商品会計基準における「売買目的有価証券」も同様に時価評価されます。評価の具体的方法(市場価格や推定時価の算定方法)は、IFRSなどの時価算定基準に準じるのが実務上一般的です。したがって、資産運用会社が保有する売買目的有価証券についても、決算整理で期末に期末時価との差額を仕訳し、当期損益に反映させます。

損益計算書上の表示区分

評価差額は当期損益に計上しますが、その表示区分は原則「営業収益の区分」に含めて純額表示します(棚卸資産会計基準第19項)。つまり評価差益・差損を控除した残額を「売上高」など営業収益の科目で計上する形になります。ただし、当該評価額の重要性が低い場合は例外的に「営業外収益」または「営業外費用」に計上することも可能です。財務諸表等規則第72条の2などがこの扱いを認めています(例:重要性が乏しければ有価証券売却益・評価益を営業外収益に含める)。一般企業では、売買益は本業外の投資収益とみなすため営業外収益に計上することが多い一方、証券業など有価証券売買が本業の企業では営業収益に含める慣行があります(後述)。 

売上原価との関係では、純額表示の方式のため伝統的な意味での「売上原価」は明示されないか、最低限の取得原価が計上されるにとどまります。具体的には、トレーディング目的棚卸資産については評価差益を売上高に含めるため、売上原価(取得原価)と相殺されずに純粋な評価差益額だけが損益となります。もし重要性が高い場合など企業方針により、実際に売却した際にはその取得原価分を売上原価に計上することもありますが、基本的には純額表示で売上高に含める形をとるため、売上原価との結びつきは緩やかになります。

業種別慣行・特例

業種によって取扱いに差異があります。証券会社や専業の資産運用会社では、売買目的有価証券による損益は本業の成果とみなされ、一般に営業利益に含めて表示します。損益計算書では「有価証券売却益」などの科目を営業収益に含めるか、あるいは売上高項目に純額で組み入れますbiz.moneyforward.com。一方、一般事業会社や投資顧問会社では証券売買は本業外活動とされることが多く、損益は営業外収益(有価証券売却益・評価益)や営業外費用(有価証券売却損・評価損)に計上される例が多く見られます。資産運用会社でも事業形態により異なり、自己運用の売買が主業務とみなされれば営業収益扱いになりますが、管理運用手数料収入が主ならば投資収益として区分される場合があります。 

実務上、財務諸表の区分や科目命名には企業ごとの会計方針・業界慣行が反映されます。売買益を「営業収益」に含めるか「営業外収益」に含めるかは、企業の事業目的と重要性判断によって決まります。なお、特別利益/損失には該当しません(継続的活動であるため)。

法人税法・税務上の扱いと税効果会計

法人税法上も、売買目的有価証券は期末時価評価されます(いわゆる「資産課税方式」)。つまり、決算で計上した評価損益はそのまま課税所得に反映されますcpa-noborikawa.netzeiken.co.jp。したがって、会計上の評価差益に対応して法人税等を計上し、税効果会計上の繰延税金資産・負債の計上は原則不要です。評価益に対しては即時に税額が発生し、評価損にも税額軽減が生じるため、会計と税務でタイミングのズレが生じません。なお、売却損益も同様に課税所得で課税対象となります。税効果会計を適用する必要はない(課税方法が一致している)ことに留意します。

実務慣行や企業差異

以上のように原則は統一していますが、実務上の扱いには企業差異や会計方針の違いがみられます。損益計上区分については、重要性や開示要件、業界慣行によって柔軟に判断され、たとえば少額の評価損益は「その他収益・費用」扱いとする場合があります。売上原価との関係でも、純額表示に伴い取得原価を別途表記しないケースや、売却が生じた分だけ売上原価に計上するケースなど、企業により取り扱いが異なります。特に資産運用会社では、上場投資信託(ETF)やファンド運営では投資信託会計が適用される場合もあり、会社法・金融商品取引法上の開示形式が異なる場合があります。

要点の要約

  • 評価方法: 棚卸資産(売買目的有価証券)は期末に時価評価し、評価益・損を当期損益とする(純額表示)。
  • P/L表示: 原則、評価損益は営業収益に含めて売上高等に計上。重要性が低い場合は営業外収益/費用に含めることも可能。
  • 売上原価関係: 純額表示のため売上原価とは原則分離。取得原価を別途表示しないことが多い。
  • 業種慣行: 証券業・専業資産運用では営業収益扱いが一般的。一般企業では営業外収益とする場合が多い。
  • 税務: 法人税法上も期末時価で評価し評価益に課税(資産課税方式)するため、税効果会計上の繰延税金は不要。
  • 企業差異: 表示科目や区分は会計方針・重要性判断に左右されるため、企業によって取り扱いに差異があり得る。

引用

営業外損益とは?営業損益や特別損失との違いを解説 | クラウド会計ソフト マネーフォワード

https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/51739/売買目的有価証券に税効果会計が不要な理由 | 会計ノーツhttps://cpa-noborikawa.net/zeikouka-byebyemokuteki/売買目的有価証券の評価損益 | 法人税https://www.zeiken.co.jp/yougo/%E6%B3%95%E4%BA%BA%E7%A8%8E/%E5%90%84%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E5%B9%B4%E5

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