ガンドラック氏の主張と米国資本市場の変動:ヘーゲル的弁証法的検証

定立(テーゼ)

ジェフリー・ガンドラック氏は、米国株高を支える要因として米国への資金流入を指摘する。過去十数年にわたり、世界の投資資金は安全資産と見做される米国市場に流れ込み、米国株式市場の上昇を後押ししてきた。具体的には、2006年から2024年にかけて外国から米国にネットで約22兆ドルもの資金が流入し、この莫大な資金供給が株価を押し上げたと氏は分析している。世界金融危機以降の量的緩和政策下でもドルが相対的に強含みとなったことは、外国投資家にとってドル建て資産の保有メリットを高め、米国株・債券への需要を拡大させた。このように、従来の米国市場は「資本の台風の目」として機能し、米国への巨額の資金流入と米国株高が相関してきたというのが定立の主旨である。

ガンドラック氏はこの関係をチャート等で示し、米国の対外純資産残高が大きくマイナスに沈んでいる事実を挙げる。それは外国人投資家が米国株や米国債を大量に保有してきた裏返しであり、言い換えればドル建て資産に対する高い需要を反映している。また、年初来の株価騰落率を比較すると、過去には米国株が日本株や欧州株を上回っていた年も少なくなく、この好調ぶりは世界資本の米国集中傾向を反映している。ガンドラック氏は、「莫大な国外資金の流入が市場を押し上げ、これが米国株が主要先進国株を上回ってきた一因である」と位置付けている。

反定立(アンチテーゼ)

しかし2025年時点では、状況は一変しつつある。ガンドラック氏自身も、近年に入って米国からの資金流出やドル安、米国株の相対的劣後が進行していると指摘している。まず、国際資本の流れに注目すると、米国債・株式を対象とした海外投資が伸び悩み、一部では流出超過に転じる兆候がみられる。米財務省のTIC(国際資本統計)では、2025年前半から海外投資家による米国証券の純購入額が減少し、7月には前年同月比でも大きく低下した。大口保有者である中国・日本は依然として米国債を保持しているが、英国など経常赤字国やヘッジファンド等は売り姿勢を強めている。またマネーサプライ拡大によるインフレ懸念や巨額債務問題への警戒から、ドル建て資産に対する信頼が揺らぎつつある。加えて、国際政治の舞台ではアメリカ第一主義的な政策や地政学リスクが顕在化し、海外投資家が「米国離れ」を意識する契機となっている。

この結果、米ドルは2023年末から下落基調に転じ、米国株式相場も相対的に振るわなくなっている。2025年の年初来では日本やドイツといった他市場の株価上昇率が米国株を上回っており、米国市場の優位性が薄れている。ガンドラック氏はこれを「米国がアンダーパフォームを始めた」動きと表現し、その原因を「マネーが米国から離れていっているため」と明言した。すなわち、米国への資金流出(ドル資産の売却)が進むことで、米国株式市場の相対的なパフォーマンス劣後につながるというのである。ドル安はドル建て債券や現金の価値を相対的に低下させ、より高いリターンを求める投資家の資金は新興国株式や欧州株式、金などに向かう動きも顕著になっている。

統合(ジンテーゼ)

以上の定立と反定立の対立を踏まえると、グローバル資本フローの構造変化とドル基軸体制の再考が避けられない。ヘーゲル的弁証法の観点から言えば、米国への資金流入が米国株高をもたらすという従来の理解(定立)と、資金流出と米国市場の劣後が進んでいる現実(反定立)という矛盾から、新たな認識(統合)が導き出されるはずである。具体的には、投資家は従来の「米国一本足打法」から、資金配分を多様化する方向へシフトしていると考えられる。今後は、米国以外の市場──たとえば新興国や欧州の株式市場、さらには資源・インフラ関連のプロジェクトなどへも資金が流れやすくなる公算が大きい。これは、各国が自国経済・安全保障の観点から投資を見直し、米国以外の成長機会や防衛予算拡大などに資金を振り向けているためである。

同時に、ドル基軸通貨体制の相対的重要性も再検討されつつある。かつて世界の外貨準備や投資の大半を占めた米国債への信頼は、10~20年単位で見ると徐々に低下傾向にある。今回の資金流出懸念は、このトレンドに拍車を掛ける可能性がある。今後はユーロや人民元、あるいは金(ゴールド)など非米ドル資産の選好度が高まり、国際的な通貨構造が多極化するシナリオが想定される。中央銀行や機関投資家はリスク分散の一環として準備資産の構成比を見直し、例えば新興国市場の債券・株式などを増やす動きが続くかもしれない。

さらに、投資行動は地政学的要因の影響を強く受けるようになるだろう。米中関係やロシア・ウクライナ情勢などの緊張は、サプライチェーン再構築や同盟国間での資本循環の新たな枠組みを生む。企業や投資家は安全保障リスクを考慮し、自国や「安全な国」と目される地域への資金シフトを加速させる可能性がある。結果として、世界経済は従来の単純な資本市場論を越え、政治・経済両面の構造変化を包括した新パラダイムへと移行していくものと考えられる。

まとめ

以上、ガンドラック氏が示す米国資本流入と株高の関係(定立)に対し、2025年時点で観察される資金流出・ドル安・米国株劣後の現象(反定立)を対照的に論じた。これらを統合的に考えると、グローバル資本フローは従来の米国中心型からより分散型・多極型に向かう可能性が高い。ドル基軸体制の見直しとともに、投資家は地政学リスクを踏まえた資産配分を模索するだろう。つまり、過去数十年にわたり成立してきた「米国特有の株式相場高」は、資金配分の再編を通じて次第に再定義されつつあると結論づけられる。

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