テーゼ(命題)
- ダリオ氏は、覇権国家は経済成長を借金と金融緩和に頼るようになると、インフレ圧力と金利上昇により財政が逼迫し、軍事支出も自由に行えなくなると指摘します。
- その結果、覇権国家の力が弱まると従来抑制されていた国々の不満が噴出し、戦争が起こりやすくなると述べています。実際、彼の著書『世界秩序の変化に対処するための原則』は、歴史上のヘゲモニーの衰退と戦争を関連付け、2022年のロシアによるウクライナ侵攻を予見したかのようなタイミングで出版されました。
- 彼はこうした変化に備え、富裕層が「賢いウサギは3つの巣穴を持つ」という諺のように複数の避難先を持っていることを強調し、危機の際にはビザや永住権、人脈を確保して他国へ移れる準備が必要だと主張します。さらに、資産も国外へ移せるようにしておくべきで、政府が預金を凍結したり資本統制を敷く可能性があると警告しています。
アンチテーゼ(反命題)
- 一方、同じダリオ氏は2024年を「重要な年」としつつも、民主主義の崩壊や世界大戦が起きる可能性は20%程度に過ぎないと述べ、過度の悲観は避けています。彼は米国大統領選挙と国内外の対立がリスクを高めるものの、実際の大規模戦争には至らないと見ている。つまり、原理的には危機を警告しながらも短期的には比較的穏当なシナリオを提示しています。
- また、ダリオ氏の予測モデル自体に批判があります。長期の歴史周期に依拠しすぎるため現代の金融政策や技術革新を十分に考慮できないこと、1937年型の景気後退を警告した2015年や1981〜82年の大恐慌予測が外れたことなどが挙げられています。
- さらに、彼の見解には確認バイアスや曖昧な時間軸が含まれており、危機の「いつ」が明確でないため、外れた予測を後から「警告」と言い換える余地があると批判されています。Bridgewaterの運用成績も危機が起こらない局面では冴えないことがあり、過度に悲観的なポジションが原因と指摘されています。
ジンテーゼ(総合)
ダリオ氏の警告は、歴史の長期的な視点から現代の債務増加やインフレ、地政学的緊張の危険性を強調し、備えの必要性を喚起する点で重要です。国家の債務が増大し財政余力が低下すれば、外交・軍事面での影響力が落ち、他国との摩擦が激化する可能性は否定できません。一方で、彼のモデルがすべての未来を正確に予見できるわけではなく、中央銀行の新たな政策手段や技術革新によって歴史が単純に繰り返されない可能性もあります。
したがって、私たちはダリオ氏の見方を鵜呑みにするのではなく、複数のシナリオを意識して「適度な備えと柔軟性」を持つことが望ましいと言えます。国外への避難手段や資産移転の可能性を検討する一方で、国内外の政治経済状況を幅広く分析し、悲観論・楽観論のバランスをとることが重要です。また、危機が来ない場合に備えた資産配分やキャリア形成も怠らないことで、どのような局面でも対応できるレジリエンスを高められるでしょう。
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