金価格高騰― 通貨価値の希薄化と安全資産の逆説

正(テーゼ):金価格上昇の合理性

  • FRBの利下げや米政府機関の閉鎖を契機に資金が金に向かいました。2024年秋には約1か月で1,000ドル近く上昇し、従来にないスピードで最高値を更新しました。
  • ウクライナ侵攻への制裁でドル資産が凍結されたことも大きな要因です。これにより各国が「ドルを持つリスク」を意識し、中国などの中央銀行が金を大量に買い増しました。世界の金需要は2025年第2四半期も前年同期比で増加し、中央銀行は166トンを積み増すなど、需要の柱となっています。
  • もっと長期的には、1971年のブレトンウッズ体制崩壊から始まる通貨供給の拡大が金価格上昇の根本にあります。実際、金価格は長期的に上昇しており、ドル建てでここ50年余りに約125倍になりました。

反(アンチテーゼ):金価格上昇への疑問

  • 金が「必ず上がる」と見る楽観一辺倒には注意が必要です。4,400ドル台へ達した後、2025年10月時点では4,100ドル前後とやや調整しています。
  • 利上げ局面では金利のつかない金の魅力が相対的に低下する可能性があります。実際、インフレ抑制のために主要国が金利を高く維持すれば、金よりも利回りのある債券や預金が選好されることも考えられます。
  • 世界の中央銀行による金購入ペースも2025年にはやや鈍化しています。また、価格高騰が続くと宝飾需要が減少し、バーやコイン需要も高値警戒感から一服する恐れがあります。金市場は金融不安や地政学リスクが高まると急騰する一方、落ち着くと大きく下げるボラティリティの高い側面も無視できません。

合(シンセーゼ):両面を踏まえた統合的視点

  • 金は歴史的に通貨価値の低下や政策への不信に対するヘッジとして機能してきました。構造的な通貨供給の増大と新興国の金準備積み上げが続く限り、長期的な価値保全手段としての役割は揺らぎにくいでしょう。
  • ただし、短中期的には金利動向、景気見通し、投資家心理によって価格が大きく変動するため、一方的な上昇を前提とするのは危険です。
  • そのため、長期資産保全の一環としてポートフォリオの一部(例えば2〜3割)に金を組み込み、市場環境に応じて比率を調整する姿勢が合理的です。投資時期を見極めるよりも、保有期間を長くして価格変動リスクをならす方が結果的に安定しやすいといえます。

要約

金価格の急騰はFRBの利下げや地政学リスク、各国中央銀行の買い増しといった短中期要因に支えられ、ブレトンウッズ体制崩壊後の通貨供給拡大という長期要因によって背後づけられる。一方で、金利上昇や宝飾需要減少による調整リスクも顕在化している。金は通貨価値の低下に対する保険として長期的に重要だが、価格は変動するため、投資家はポートフォリオの一部として適度に組み入れ、長期目線で保有する姿勢が望ましい。

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