テーゼ:金本位制と金貨の神話
一般に「金本位制」と聞くと、金貨が広く流通し、国家が金に裏打ちされた通貨制度を確立していたと考えられがちです。多くの歴史書や経済学の教科書では、金を国際金融秩序の基盤とし、金貨が通貨として利用されていたかのように描かれています。金には希少性と永続性があり、富の保存手段として理想的であるという通念が、この見方を支えてきました。
アンチテーゼ:実際に流通したのは銀貨
しかしラッセル・ネイピア氏の指摘は、この常識を覆します。彼は「制度としては金本位制であっても、日常生活で流通したのは金貨ではなく銀貨だった」と述べています。理由は単純で、価値の単位が金貨では高すぎたからです。例えば現在の価値で1オンスの金は約4000ドル相当で、ビール一杯や食事を買うにはあまりにも大きな価値単位です。一方、1オンスの銀貨は現在の価値で50ドル前後であり、日用品の決済に適した大きさでした。
18世紀末、独立戦争後のアメリカでは自国通貨が無価値になったため、流通したのはスペインの「1オンス銀貨(8レアル銀貨)」でした。この銀貨はほぼ全世界で共通に受け入れられており、誰もがその純度と重量に信頼を置いていました。ドイツのターラーやイギリスのクラウン、初期のスイスフランなども同じく1オンス弱の銀を含む硬貨であり、国際的な通貨として機能しました。発行国の信用に依存せず、銀そのものに価値があるため、多くの国がこの形式の銀貨を鋳造し、交易に利用しました。
ジンテーゼ:制度の金と流通の銀の二重構造
この歴史から導かれる統合的な理解は、制度上の「金本位制」と生活における「銀貨流通」が共存する二重構造です。国家や中央銀行は基軸通貨として金を蓄え、国際決済の信認を確保しました。しかし一般の人々が日常取引に用いたのは、価値単位が現実的な銀貨でした。言い換えれば、金はマクロ経済の「秤(はかり)」として使われ、銀はミクロ経済の「血流」として機能していたのです。
現代において紙幣やデジタルマネーが普及する一方で、金や銀が再び投資対象として注目されているのは、この歴史的な役割分担を反映しています。金は依然として国家の準備資産として保有され、システムへの信認を示す象徴であり、銀はより小さな単位で物価変動や通貨価値の変化に対するヘッジとして機能します。ネイピア氏の指摘は、通貨制度を理解する際に、制度的信用と物質的信用の両面を考慮すべきであることを示しています。
要約
多くの人が金本位制と金貨の流通を同一視してきたが、ネイピア氏は歴史上、実際に流通していたのは銀貨であり、金貨は制度的裏付けとして留まっていたと論じています。銀貨は1オンス前後の重さで購買力が日常取引に適していたため、スペインやドイツ、スイスなど各国の銀貨が世界中で使われました。金は国際決済や国家の準備資産として価値を保持し、銀は庶民の経済活動を支えたという二重構造が成立していたというのが、弁証法的な結論です。

コメント