テーゼ（正）：LBMAの役割と功績
- 世界的な基準作成者
LBMAは金・銀・プラチナ・パラジウム取引の品質・保管・出所基準を定め、各国の銀行や精錬所が従う「グッド・デリバリー・リスト」を運営しています。2024年版のサステナビリティ＆責任ある調達戦略では、独立監査制度を通じて環境・社会・ガバナンス（ESG）を含む責任ある調達を推進してきたと説明されています。 - 市場の透明性とデジタル化
2025年1月にはブロックチェーンを利用した「Gold Bar Integrity（GBI）データベース」を正式に稼働させ、精錬業者やロンドン保管分の情報を標準化・集中管理し、迅速なリスク検知を可能にするとルース・クロウェルCEOが述べています。 - 国際的な対話の場
2025年10月の京都LBMAグローバル貴金属会議では、各国中央銀行、精錬業者、投資家が集まり、金価格や市場トレンドについて議論します。同会議はアジアの需要増大を反映し、サステナビリティ・デジタル化などのテーマに焦点を当てると民間レポートが報じています。記事は、中央銀行の金購入増加や銀需要の二面性、ESGと責任ある調達、デジタル金トークン・ブロックチェーン検証などが重要テーマになると指摘しています。
アンチテーゼ（反）：批判と課題
- 出所情報の不透明さ
NGOスイスエイドの調査によると、アフリカ産業金の多くがLBMA認定の精錬所を経由しているにもかかわらず、精錬所は採掘企業を公表しておらず、125の鉱山の多くで人権侵害や環境破壊が指摘されています。銀行やトレーダーは「LBMA認定だから安全」と考えがちだが、現状の基準は人権問題や腐敗を防ぐには不十分で、供給業者の公表など透明性の向上が必要だと報告書は批判しています。 - 過去の価格操作疑惑
ロンドンで行われていた伝統的な銀の価格決定（London Silver Fixing）は操作疑惑により2014年に廃止され、透明性向上のため電子オークションによる「LBMA Silver Price」に置き換えられました。同記事では銀市場の操作行為（スプーフィングなど）を例に、紙取引が物理的供給を上回り市場を歪めるリスクを指摘しています。 - 会員構成の偏りと影響力集中
LBMAはロンドンの主要銀行やトレーダーで構成され、OTC取引が中心であり、米国や中国の先物取引所に比べ規制が緩やかという指摘もあります。2025年10月にキットコの記事が伝えたように、新会長ピーター・ゼルナーは金先物取引の再設立を提案し、市場流動性拡大を求めていますが、過去にロンドン金先物が低い取引量で終了した経緯もあり、再挑戦への懸念が残ります。
ジンテーゼ（合）：改善への取り組みと今後の展望
- 持続可能性と透明性の両立
LBMAは責任ある調達ガイダンスを9版まで改訂し、サプライチェーンのESGリスク対策を強化しています。それでもNGOが指摘する供給源の開示不足は残っており、GBIデータベースやブロックチェーン活用により、精錬所と鉱山の関係性を透明化することが求められます。京都会議ではESGやトレーサビリティが主要議題となり、より厳格な公開基準が討議される見込みです。 - 中央銀行の金購入増とデジタル革新
会議では中央銀行の金準備戦略やデジタル金トークン、フィンテック統合について議論されると報じられています。ゼルナー新会長のもとで先物取引やリアルタイム価格データ提供の拡充など、市場インフラの近代化が進む可能性があります。 - 多様な利害のバランス
LBMAは世界最大の現物取引市場として信用を維持する一方、加盟銀行・精錬所の利害調整や途上国の労働環境改善など難題を抱えます。これらを解決するには、規制当局・市民団体との連携を強め、公開情報の範囲を広げること、そしてデジタル技術を活用してバリューチェーンの信頼を高めることが不可欠です。
要約
LBMAは金・銀など貴金属市場のルールと品質を統一する中心的機関であり、グッド・デリバリー制度やサステナビリティ戦略を通じて市場の信頼性を高めてきました。2025年にはブロックチェーンを使ったGold Bar Integrityデータベースを立ち上げるなど、透明性向上の取り組みも進んでいます。しかし、アフリカの産業金を巡る人権問題や、過去の銀価格操作疑惑に象徴されるように、供給源開示の不足や取引制度の脆弱性が批判されています。今後は、責任ある調達とデジタル革新を両立させ、世界的な利害関係者が納得できる透明な市場運営を実現することが求められます。
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