技術革新とFOMO心理が生む合理と非合理の循環


1. テーゼ(バブルは合理的なものだ)

AI関連企業の株価高騰は単なる投機ではなく、技術革新の本質的な価値を映し出しているとする立場です。AIは製造・サービス・金融などあらゆる産業を変革し、高い収益性をもたらす可能性があります。例えば、米国株市場の主要指数は、AIブームによって利益成長が高く、景気循環に左右されにくい企業が増えたため、従来よりも高い株価収益率が正当化されるという議論があります。この立場では、「今度は違う」「新しいパラダイムに入った」として、歴史的なPERやPSRの基準だけで評価するのは適切ではないとみなされます。

実際、一部のハイテク企業は抜群の競争優位性やキャッシュフロー創出力を持ち、規模の経済とネットワーク効果を武器に膨大な市場を獲得しています。Alpha Architectによると、いわゆる「マグニフィセント7」企業の5年間の平均年率リターンは38.7%に達し、米国市場全体の13.3%を大きく上回っています。こうした実績が投資家の期待を押し上げ、株価上昇を支えています。

2. アンチテーゼ(バブルは非合理的で危険だ)

反対の立場は、現在のAI相場は過度に楽観的で、過去のバブルと同じ心理が働いていると指摘します。特に、FOMO(取り残される恐怖)による投資行動が過熱の一因となっています。ハワード・マークスの2025年のメモでは、今日の投資家はリターン悪化よりも「FOMOというメンタリティ」に突き動かされていると述べています。また、投資家心理が楽観に傾けば、価格がバリューを上回り、割高な状態でも買いが続くため「バブルや暴落を引き起こす」と警告しています。

Alpha Architectの記事でも、AIがもたらす利益への期待が投機的な熱狂を生み、「マグニフィセント7」の株価急騰によりFOMOが助長されていると指摘しています。さらに過去のNifty-Fiftyやドットコムブームを例に挙げ、高PER株が崩壊した歴史を思い起こさせます。この立場では、「今回は違う」という言葉こそ危険信号であり、適正価値を超えた投資はグレーターフール理論(自分より高値で買ってくれる“愚者”に頼る投資)に過ぎないと考えます。

3. ジンテーゼ(統合的視点)

弁証法的な視点からは、AIブームに潜む合理性と危うさを統合的に考える必要があります。AI技術の潜在的な価値は否定できず、長期的には社会を大きく変える可能性があります。しかし、オークツリーのメモが指摘するように、投資家の心理は「完全無欠」から「絶望的」まで振り子のように揺れ、価格は本源的価値からかけ離れることがある。過去のバブルでは、革新的技術がもたらす将来の利益が過大評価され、期待が先行した後に調整が起こりました。AIも同様に、長期的な価値創造が確認されるまでには時間がかかり、短期の収益化には不確実性があります。

したがって、投資家はAIブームの可能性を過小評価することなく、FOMOや集団心理に流されない冷静な姿勢が求められます。長期的なファンダメンタルズを重視し、過去のバブルの教訓を踏まえて分散投資やリスク管理を徹底することが重要です。


要約

AIブームで株価が高騰する中、新技術への期待が高いからこそ高PERも正当化できるという楽観論がある一方で、FOMOによる投機的熱狂が割高バブルを生んでいるという悲観論も存在する。前者はAIの革新性と企業の強固な競争優位を根拠に「今回は違う」と主張するが、後者は歴史的バブルを参照し、過度の楽観は危険だと警告する。これらを統合すると、AIの持つ潜在的価値を認識しつつも、投資家心理の過熱が価格を本源的価値以上に押し上げるリスクを踏まえ、長期的なファンダメンタルズと慎重なリスク管理が必要であると結論づけられる。

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