正(テーゼ):祭礼シーズンによる需要の大きさ
インド
- 年間需要の概観:インドは世界第2位の金消費国で、年間約800トンの金を輸入しており、これは世界の金需要の約16%にあたります。世界の金産出量が年間4,000トンであることを考えると、インドだけで産出量の約20%を消費している計算になります。
- 祭礼シーズンの影響:ディワリやダンテラス、ナヴラトリといった秋の祭礼シーズンは一年で最も集中した買い付け期で、この時期だけで約160トンの金が購入されると推計されます。縁起担ぎや贈答の習慣が根強く、高価格でも需要が底堅いことが特徴です。
- 結婚式シーズンの寄与:11月から翌2月にかけての結婚式シーズンは、祭礼需要に匹敵するほどの金需要を生み出します。年間約1,000万件の結婚式があり、11〜12月だけでも約135トンの金を消費するとされ、祭礼期間と合わせると年間輸入の半分近くを占めます。
中国
- 旧正月と季節的需要:中国でも旧正月(春節)は金の贈答需要が高まる時期で、2025年1月には上海黄金交易所からの引き出し量が約125トンに増加しています。2024年1月には香港経由の金輸入が前月比51%増え、卸売需要全体では約271トンと記録的な水準に達しました。
- 売上げの増加:2024年の春節期間中、中国国内の金・ジュエリーの小売売上は前年同期比で24%増加し、上海市では金消費額が10億元を超えました。龍年商品や縁起物への需要が強く、投資商品としてのバーやコインの人気も高まっています。
- 数量ベースの制約:しかし金価格の高騰と経済成長の鈍化により、ジュエリーの重量需要は抑えられており、春節需要は通常年の数十〜200トン規模に留まっています。中国の年間金消費(1,000トン前後)から見ると、春節需要の占める割合は限定的です。
世界産出量との比較
インドと中国の祭礼・結婚関連需要を合計すると、年間でおよそ300〜500トンと推計されます。これは世界の年間産出量4,000トンの7〜12%に相当し、季節的な需要としては大きな存在感を持ちますが、世界市場全体を支配するほどではありません。
反(アンチテーゼ):需要増加を抑制する要因
- 高価格の影響:近年の金価格高騰により、消費者は軽量ジュエリーや低カラット品へシフトし、ボリュームベースの需要は伸びにくい傾向があります。
- 経済環境の変動:インドではルピー安や農業所得の変動、中国では経済成長の鈍化や不動産市場の不振が購買力を低下させ、祭礼期でも需要が鈍る場合があります。
- 嗜好・投資の多様化:若年層を中心に旅行や他の投資商品への関心が高まり、デジタル金融商品の普及でETFなどへの投資が広がっています。これにより物理的な地金やジュエリーへの需要が相対的に抑えられることもあります。
合(ジンテーゼ):文化と経済のバランスの中での祭礼需要
祭礼や結婚式はインドと中国の金需要に季節的なピークを作り、世界市場に一定の下支えをもたらします。しかし、その規模は世界産出量と比較すると限定的であり、価格水準や経済情勢、為替動向によって大きく変動します。文化的・宗教的背景による需要は今後も継続すると考えられますが、投資家は祭礼需要だけでなく、マクロ経済や金融政策といった要因も総合的に考慮すべきです。
要約
インドでは年間約800トンの金を輸入し、ディワリや結婚式シーズンだけで300トン近くを消費するとされます。中国でも旧正月前後に125〜200トン規模の需要が発生し、これらを合わせると両国の祭礼需要は世界の年間産出量4,000トンの約7〜12%を占めます。ただし、最近の金価格高騰や経済環境の変化、投資嗜好の多様化は祭礼需要を抑制する要因となっており、長期的な需給分析では価格やマクロ経済も重要な視点となります。

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