正:金融緩和と“バブル延命”の論理
- バブル指標は高水準でも“すぐには崩壊しない”
レイ・ダリオ氏は2025年のCNBCインタビューで、価格水準だけでなく投資家の層や融資状況など複合的な指標で測った「バブル指標が相当高い」と語っています。しかし歴史的にバブルは金融引き締めが起こるまで膨張し続けるため、現状では崩壊が近いとは言い切れません。 - 緩和的な金融政策がバブルを支えている
ダリオ氏は「バブルは通常、金融政策が引き締めに転じるまで破裂しない」と述べ、景気の弱さからFRBは利下げや緩和姿勢を続けると見ています。特にテクノロジーとAI関連株が市場上昇を牽引し、株価上昇の80%が巨大IT企業に集中しているため、FRBが政策を急激に引き締めない限り資産価格は伸び続けるとの見方です。 - 二極化した経済構造
ダリオ氏は現在の米国経済を「一方では失業率の上昇などで弱含み、他方ではAIブームで株価が過熱している」と二分しています。このため金融政策はどちらか一方には効くが両方には対応できず、結果として“バブル拡大を容認する政策”になってしまうと警鐘を鳴らしています。
反:ファンダメンタルズ悪化とバリュエーションの危険
- 極端な割高水準と景気後退リスク
2008年金融危機を予見したエコノミストのデビッド・ローゼンバーグ氏は、S&P500のシラーCAPEレシオが約37.5と歴史的な高水準にあり、労働市場や住宅市場の悪化も進んでいることから「米株式市場は巨大的な価格バブルにある」と警告しています。失業保険申請件数の増加や就業者数の下方修正など、実体経済の弱さは今後の市場リターンを大きく押し下げると指摘しました。 - 財政赤字と債務の持続性への懸念
ダリオ氏自身も米国の財政赤字が「時限爆弾」的に膨張している点を懸念し、持続性のない成長戦略と評しています。政府債務が急増する中で金利が再び上昇すれば、金融緩和効果は薄れ、バブル崩壊の引き金となり得ます。 - バブルの歴史的類似点とトリガー
1927~28年や1998~99年のように、バブルはピークの数年前から高揚感と警戒が共存します。ダリオ氏もこれらの時期に類似していると述べ、「いつバブルが弾けるか正確には分からないが、リスクは大きい」と強調しています。
合:両極を統合した展望と教訓
- 緩和政策下での“長期化するバブル”という現実
金融緩和が続く限りバブルは延命されるという正の論理と、ファンダメンタルズ悪化が将来的な負の帰結をもたらすという反の論理は矛盾して見えます。しかし、現実にはどちらも同時に存在します。経済が弱い間は政策当局も利下げを優先するため、投資家はバブルの膨張に乗るインセンティブを持ち続けます。 - 持続不可能な構造への警戒とリスク管理
一方で、バリュエーションの極端な水準や財政赤字の膨張はバブル崩壊時の衝撃を大きくするため、無警戒での追随は危険です。過去のバブルでは、信用収縮や政策転換が急激に起こるとクラッシュが加速しました。投資家は短期的な利益を追う一方で、ポートフォリオのリスク管理やバリュエーションの健全性も重視すべきです。 - 構造改革と実体経済の強化の重要性
最終的にバブル問題を解決するのは金融政策だけでなく、生産性向上・財政の持続性・所得格差是正といった構造的な取り組みです。単に金融緩和で時間を稼ぐのではなく、長期的な経済基盤の強化によって価格と価値の乖離を縮小し、健全な資本市場を作る必要があります。
📝要約
2025年のレイ・ダリオ氏は、自身のバブル指標が「かなり高い」と認めつつも、FRBの利下げ姿勢から米国株バブルが当面続く可能性を指摘した。彼はAI関連株の過熱と実体経済の弱さという二極化した構造を挙げ、金融政策は両者に同時には対応できず、結果的にバブルを助長すると警戒している。これに対しデビッド・ローゼンバーグ氏などはシラーCAPEレシオの過去3位の水準や雇用悪化を根拠に「巨大な価格バブル」と警告し、バリュエーションと経済基盤の乖離を問題視している。両者の論調を統合すると、緩和政策の下でバブルは延命され得るものの、極端な割高感と財政不安定は将来の急激な調整を招くリスクが高い。政策当局の緩和姿勢と市場の楽観を過信することなく、リスク管理と実体経済の強化が必要である。

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