テーゼ(レイ・ダリオ氏の見解)
- 歴史的信認と普遍性: レイ・ダリオ氏は、ゴールドは人類史において普遍的に通貨として受け入れられ、価値の保存手段として独自の地位を占めていると指摘する。金は「紙幣のようなもの」だが、中央銀行が発行量を増やして価値を希薄化させることができないため、信用不安や戦争などの危機時に資産保全の役割を果たす。
- ポートフォリオの分散効果: 株式や債券がバブル崩壊や信用収縮に直面する際、金はその影響を受けにくい「ユニークな分散資産」として機能する。ダリオ氏は、経済的・政治的な不確実性が高まる現代では資産の一部を金に配分すべきだと主張し、一般の投資家にもポートフォリオの15%程度を金に充てることを提案している。
- 他の貴金属の限界: シルバーやプラチナも価値保存の手段になり得るが、ダリオ氏はそれらが金と同等の歴史的・文化的意義を持たないと強調する。また、銀やプラチナは産業需要に左右されやすく、景気変動の影響を受けやすい点を挙げる。
アンチテーゼ(反論と補完的視点)
- シルバーの通貨としての歴史: 金貨は高価で日常取引には不便なため、実際には銀貨が広く使われていたという歴史的事実がある。小額でも購入できる銀は、インフレが深刻化した際に一般大衆が手に取りやすい資産として注目される可能性が高い。
- 産業需要による追い風: 現在の世界的な景気減速にもかかわらず、再生可能エネルギーやデジタル化に伴う産業需要は銀やプラチナの需給を逼迫させている。特に銀は太陽光パネルや電気自動車に不可欠な金属であり、プラチナも燃料電池や化学触媒用途で重要性が増している。産地の労働争議や輸出規制により供給が制約され、2025年には銀価格が年初比で約75%、プラチナは50%超上昇するなど、金を上回る値上がり率を記録している。
- 供給不足と投機的動き: ロンドン市場で銀の在庫が枯渇し、売り方の買い戻しが拍車をかける「ショートスクイーズ」が起きたため、銀価格は一時1オンス53ドル超に跳ね上がった。プラチナも南アフリカの採掘量減少や鉱山への投資不足で慢性的な供給不足が続き、市場は2029年まで年間60万オンス程度の供給赤字を予想している。こうした供給逼迫が金より激しい価格変動をもたらすが、逆に言えば高い値上がりの余地を示唆している。
- 中央銀行の行動への異論: 中央銀行が主に金を購入しているため銀やプラチナの金融需要が小さいのは事実だが、これは逆に「出遅れ」でもある。世界中でドルの信認が低下し、紙幣の価値への不安が広がるならば、個人投資家や民間部門がより低額で購入できる銀やプラチナに資金を振り向ける可能性が高い。
総合的検討(シンセーシス)
金・銀・プラチナはいずれもインフレや金融不安時に資産保全の手段となり得る。しかし、それぞれの特性は異なる。金は長い歴史と中央銀行の需要に支えられ、価格が相対的に安定し、信用リスクに対する保険として機能する。一方、銀やプラチナは産業需要と供給制約から価格変動が大きいが、その分投資リターンのポテンシャルも高い。インフレが長期化し、ドルへの信認が揺らぐ局面では、一般投資家にとって価格の低い銀やプラチナは金よりも取得しやすく、金融需要が拡大する余地がある。また、再生可能エネルギー拡大や地政学的な供給リスクによって、銀やプラチナの需給が構造的に引き締まる可能性も見逃せない。
要約
レイ・ダリオ氏は、歴史的・文化的信認と中央銀行の需要に裏付けられたゴールドを最も信頼できるインフレヘッジとして推奨し、ポートフォリオの大きな割合を金に割り当てるべきだと主張する。一方で、銀やプラチナは産業需要や供給制約によって価格変動が大きいものの、ドルの価値が揺らぐ局面では大衆が手に取りやすい代替資産となる可能性がある。産業用途や供給不足を背景に、2025年には銀やプラチナが金を上回る上昇率を示しており、今後の金融不安が深まればこれらの需要が一段と高まることも考えられる。したがって、貴金属投資を考える際には、金を基軸としつつも銀やプラチナの特性と潜在力を理解した分散投資戦略が重要だと言える。

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