連邦準備制度(FRB)が紙幣を発行する仕組みは、1971年のニクソンショック以降のドルが兌換紙幣ではない状況でも、法制度や会計処理によって裏付けが付けられています。ポイントは以下のとおりです。
発行の裏付けと法的制約
- 紙幣は準備銀行の負債であり、担保が必要
連邦準備法第16条では、各地区連銀が発行した「Federal Reserve note(紙幣)」は、その発行残高に相当する資産で完全に担保されなければならないと定めています。担保に使える資産は、(1) 金地金証書、(2) 米国政府債や政府機関債、(3) 特別引出権(SDR)証書、(4) 一部の貸付金や外国通貨、(5) その他の準備銀行の資産など、法で指定された資産です。これは金兌換制度が終わっても残る規定であり、紙幣は「準備銀行の資産に対する第一抵当権」とされているため無制限に出せるものではありません。 - 紙幣自体に米国債購入の義務はない
新たな紙幣を流通させる際に必ず国債を買い付けるという義務はありません。紙幣の流通量は民間銀行からの需要に応じて変動し、追加の紙幣が必要になれば連銀の保管紙幣を銀行に送ります。このとき銀行の連銀預け金口座が減少し、紙幣発行残高が増加するという簿記処理が行われます。この処理は負債内での振り替えに過ぎず、純資産や発行総額は変わりません。
貨幣供給操作と複式簿記
- 準備銀行は公開市場操作で資産と負債を同時に増減する
FRBがマネタリーベースを増やしたい場合、国債や住宅ローン担保証券などを市場から購入し、その代金を売り手の銀行の口座(準備預金)に振り込みます。この操作によりFRBの資産(証券)が増え、同時に負債(銀行準備預金)も増えます。逆に証券を売れば資産と準備預金が減少します。複式簿記では「証券/準備預金」という仕訳で処理され、必ず貸方と借方の両方に計上されます。 - 銀行が紙幣を注文する場合の仕訳
民間銀行が現金需要に応じて連銀に紙幣を注文すると、連銀は紙幣を発送し、同額をその銀行の準備預金口座から引き落とします。この処理ではFRBの負債の構成が「準備預金」から「紙幣発行残高」へ移るだけで、資産側に変動はありません。逆に銀行が余剰紙幣を連銀に返すと、紙幣発行残高は減少し、銀行の準備預金が増加します。 - 担保の会計処理
発行された紙幣は担保が必要なため、各連銀は所持する国債やその他の適格資産を「紙幣担保口座」に移し、紙幣発行残高に見合うよう調整します。紙幣が発行されると「Federal Reserve Notes Outstanding(紙幣発行残高)」口座が貸方(負債)に記帳され、「Federal Reserve Notes Held by Bank and Branches(未発行紙幣)」口座が借方(資産の一部)に計上されます。
結論と要約
- 1971年の金本位制放棄後も、FRBが発行するドル紙幣は連銀の資産で裏付けられ、法的に担保が義務付けられている。
- 新規に紙幣を流通させること自体に国債購入の義務はなく、民間銀行からの現金需要に応じて準備預金と紙幣発行残高の間で負債が振り替えられる。
- マネタリーベース拡大は公開市場操作による資産購入(国債など)で行われ、FRBの負債(準備預金)と資産(証券)が同時に増える。
- 複式簿記では、紙幣の発送や公開市場操作ごとに資産と負債の両側に仕訳が立ち、バランスシートが均衡するよう処理される。
要約すると、FRBはドル紙幣を無制限に「ただ刷る」のではなく、準備銀行の保有資産を担保にして発行しています。紙幣の発行は銀行の準備預金との交換であり、追加の国債購入は必須ではありません。マネタリーベースの拡大は公開市場操作などを通じて資産と負債の両側を拡張する形で行われ、その会計処理は常に複式簿記による記帳に基づいています。

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