命題:中央銀行による金需要は堅調で、9月は2025年最高の純買いに達した
- World Gold Council(WGC)が公表したデータによれば、2025年9月の中央銀行による純金購入量は約39トンと年内最高を記録し、8月から80%増加した。この急増は2022年から続く公的部門の購入トレンドを反映しており、国際的な市場変動や地政学リスクへの備えとして金準備を増やす動きが続いている。
- 第3四半期(7〜9月)の純購入量は約220トンで、前四半期比28%増、過去5年間の同時期平均を6%上回った。2025年1月から9月までの累計購入量は約634トンと過去3年の記録的な水準よりは低いものの、2010年代の年間平均(400〜500トン)を大きく上回っている。
- 国別ではブラジルが9月に約15トンを購入し、10年以上ぶりの大幅増となった。カザフスタンは7カ月連続で購入を続け、9月に約8トンを追加した。グアテマラも久々に6トンを購入し、トルコとチェコは各2トン、中国は1トンを積み増した。他方、ウズベキスタンは4トンの売却が報告された。
- WGCはこの買い意欲を短期的な値動きではなく「長期的な戦略的動き」と捉え、米ドル依存度の低下や地政学的緊張、インフレヘッジなどが背景にあると指摘している。金価格が1オンス4,000ドル近辺まで上昇しても各行は買いを継続しており、公式準備における金の役割が強調されている。
反命題:需要は減速しており、記録的な水準からは低下している
- 2025年1〜9月の中央銀行の金購入量(約634トン)は2024年同期間の724トンを下回り、過去3年の記録的水準からは明らかに減速している。WGCによると、第3四半期の購入量の約66%は「非公表」であり、透明性の低さから実態が読み取りにくい。
- 金価格は記録的水準にあり、9月時点で1オンスあたり約4,000ドルに達した。高価格は購入コストを押し上げ、ブラジルや中国以外の中央銀行の買い意欲を鈍らせる要因となり得る。事実、2025年の累計購入量は2022〜2024年より少なくなっている。
- 金は利息を生まず保管コストも必要なため、金融政策の正常化や金利の上昇局面では国債など利付資産の方が魅力的になる。地政学リスクが低減し米ドルが回復すれば、金購入の戦略的意義は弱まる可能性がある。ウズベキスタンが4トンを売却したことは、一部の新興国が外貨準備の調整の中で金を売る選択をしていることを示す。
総合:金需要は歴史的平均を上回るが、先行きは価格とマクロ環境次第
- 9月の39トンという純購入は年内最高で、長期的な金需要の強さを示している。一方で、2025年累計では過去3年より低く、高価格や世界経済の減速が需要を抑制していることも見逃せない。
- 中央銀行にとって金は、米ドル資産からの分散や制裁リスクへの備え、インフレヘッジとして重要な役割を果たしている。ブラジルやカザフスタンなどの新興国が積極的に購入し、中国が11カ月連続で公表値を増加させるなど、公式準備の多様化が進んでいる。
- しかし、購入ペースは年や価格環境によって大きく変動する。米利下げが進んで実質金利が低下すれば金需要が再び加速する可能性がある一方、価格高騰や財政安定化の必要性が強まれば買い控えや売却も起こり得る。透明性の低さから実際の買い・売り動向を把握するのは難しく、非公式な保有増(中国による「非公表の」買いなど)も考慮する必要がある。
- このように、公的部門の金需要は中長期的には堅調だが、短期的な変動要因も多い。金は依然として国際準備の重要な一部を占めるが、中央銀行は金・外貨・国債など多様な資産をバランスさせてリスクに備えており、今後の金統計もマクロ経済と地政学の変化によって動くと考えられる。
要約
2025年9月、世界の中央銀行は純金購入量が約39トンと年内最高を記録し、ブラジル(約15トン)、カザフスタン(約8トン)、グアテマラ(約6トン)などが主導した。これにより第3四半期の購入量は約220トンとなり、前年同期比で増加した。しかし1〜9月累計では約634トンで過去3年の記録的水準を下回っており、金価格高騰や景気減速が需要を抑えている。金購入の動機は米ドル依存の軽減やインフレヘッジ、地政学リスクの高まりであり、WGCは購入が長期戦略に基づくと指摘する。今後も金需要は歴史的平均を上回る可能性が高いが、価格動向や各国の財政・政策環境により増減が予想される。

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