一連の関税騒動は、ドルの信認を失っただけ

トランプ政権による足元の全方位的関税政策は、最終的には選択的保護主義に帰結する。つまり、AI、軍事、医療など、覇権国としての命運を握る戦略産業においては保護主義を強化し、それ以外の産業については関税を低く維持せざるを得ない。

確かに、半導体や医療品など重要製品の供給が海外に依存すると、安全保障上のリスクが高まることは否めない。一方で、保護主義は消費者負担の増加、国際的な報復措置の誘発、産業競争力の低下といった経済的弊害をもたらす。そのため、米国は産業政策全体の整合性を図り、経済成長と国家安全保障を同時に達成する必要がある。

また、米国の自国優先的で一方的な関税政策は、結果としてドルに対する国際的な信認を損なったに過ぎない。特に中国などは、ドル安による外貨準備の米国債の目減りを避けるため、米国債の売却と金の購入を加速させている。その結果として米国債の金利が上昇し、支払利息が増加し、財政赤字の悪化という意図しない結果を招いている。

さらには、米国は準備通貨国として世界経済に流動性を供給する役割を果たしているが、その副作用として対外債務増加やインフレリスクを抱えている。主として低い関税率では関税収入が財政収入全体に占める割合が小規模であり、また、関税はむしろ物価上昇を助長する恐れがある。つまり、関税政策は財政健全化及びインフレ抑制の手段として必ずしも効果的でない。

よって、米国が喫緊に取り組むべき課題は、関税政策による他国への負担転嫁ではなく、自国内での財政健全化である。具体的には、公務員数の削減を含めた政府支出の合理化、富裕層への資産税の強化など、これまで恩恵を享受してきた層に相応の負担を求める必要がある。財政健全化が進めば、インフレ圧力が緩和され、金利も安定化し、米国経済は赤字体質から脱却できるだろう。

次に、投資の観点から述べると、S&P500は短期的に上下動はあっても、年末には年初来最高値を更新する可能性が高い。現在の混乱は米国が身勝手な関税政策によってドルの信認を低下させただけであり、国際的影響としては主に米国債売却と金購入が促進されることにとどまる。したがって、中長期的にS&P500をはじめとした米国の株価指数は堅調に推移すると考えられる。

もちろん、莫大な対外債務に基因する急激なドル安や金利負担により、米ドルが基軸通貨としての地位を失うという批判があることは承知している。しかし、米ドルに挑戦する中国は一党独裁であり、資本主義としても未成熟であるため、自由主義の盟主として国際社会から信認を得るには心許ない。また、通貨価値の本質とは、その国から買いたいと思わせる財やサービスの存在にほかならない。GAFAMを筆頭に、世界が求めるデジタルサービスを寡占する米国経済の将来性は悪くない。以上の理由から、今後10年以内に米ドルの覇権が崩壊するとは考えにくい。

なお、米国家計が保有する金融資産のうち株式が占める割合は4割を超えており、年金運用も積立方式が主流で、資金の多くがインデックスファンド等に投入されている。株価が低迷したままであれば次期大統領選挙で政権交代が起こる可能性が高く、その場合には過度な保護主義政策が是正され、米国市場は再び健全な状態に回帰するだろう。

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