上昇日数・下落日数から利回りを計算する数式とは?
株価の連続的な変動(毎日変化)の利回りを計算するには、各日のリターンを掛け合わせて総合的な増減率を求める必要があります。単純な勝ち負け日数の比率から引き算で計算してはいけません。具体的な数式は以下の通りです。
- 総利回り(複利) = $\displaystyle \prod_{i=1}^{N}(1 + R_i) – 1$
(各日のリターン$R_i$を「1 + リターン率」の形で掛け合わせ、最後に1を引いて全体の増減率を求める)
例えば、ある期間で上昇日数が U 日 (各日 +r% 上昇) 、下落日数が D 日 (各日 -r% 下落) だとします。初期資産を1とすると、この期間終了時の資産倍率は:
$(1 + r)^{U} \times (1 – r)^{D}$
となり、総利回りはこれから1を引いた値になります。
参考: 上記の式は対数収益率(log return)を用いて表現することもできます。この場合、期間全体の利回りは
$\exp\!\Big(U \ln(1+r) + D \ln(1-r)\Big) – 1$
となります(こちらも結局は同じ計算を意味します)。
重要ポイント: 利回りを求める際は、勝率(上昇日数割合)だけで単純計算せず、必ず複利効果を考慮します。同じ%だけ上下する場合でも、掛け算で計算するとズレが生じるためです。例えば「50%上昇した後に50%下落」すると、資産は元の75%(0.5倍→1.5倍で合計0.75倍)にしか戻らず、±50%が相殺されないことは有名です。つまり増減率は加法ではなく乗法で決まるため、日々の変動を連続する場合は積の計算が基本になります。
「52勝48敗」勝率の単純比率 vs 複利評価の差
勝率が52%(52勝48敗)の場合、単純な比率計算で「52/48 – 1 = 約8.3%」という利回りを求めるのは誤りです。これは勝ち日数が負け日数を8.3%上回るという比率に過ぎず、それをそのまま利回りと見なすのは統計的な錯覚に近いものです。実際には、損益の積み重ね(複利)によって利回りはもっと小さくなります。
- 単純比率による誤解: 勝率の差分だけでリターンを計算すると、上下動を直線的(線形)に扱うことになります。しかし、パーセンテージで見た増減は対称ではなく、勝ち負けを繰り返すときは**掛け算(幾何平均)で効いてきます。例として、+10%の翌日に-10%**になると、資産は元の99%になり1%減ってしまいます。これは10%勝って10%負ければチャラ…ではなく、1%の損失が出ることを示しています。同様に、20%勝って20%負ければ4%の損失になります。したがって「52勝48敗なら8.3%勝ち越しだから約8.3%の利回り」という計算は、この複利効果を無視したものです。
- 複利的な正しい考え方: 勝率52%・敗率48%であっても、1回1回の勝ち負けを資産に反映すると、わずかな有利さしか得られません。対数収益率(log return)で評価すると、勝率52%・各回の勝ち負け幅対称(例えば±1%)の場合、1取引あたりの期待収益は正の値ですが非常に小さいです。つまり複利で増やすと、単純な差分よりも成長率は低くなるのです。実際、後述のように52勝48敗・各±1%のケースでは、理論上の総利益率は約3.6%にとどまります(8.3%よりもかなり低い)。これは複利計算上、下落のダメージが上昇の利益を完全には相殺しないためで、損失の影響が大きいことを意味します。現実の株式市場でも「株価は上がるより下がるときの方が下落率が大きいが、下がる頻度は少ない」ためにトータルでは緩やかに上昇するといった傾向があります(例:S&P500では上昇日の平均+0.82%、下落日の平均-0.87%だが、約53%の高い勝率がカバーし長期では年7%程度の成長をもたらす)。
要するに、勝率のわずかな超過(52% vs 48%)を利益率に直結させるのは誤解であり、複利的な観点から見ると利回りへの寄与はもっと控えめになります。
+1%が52日・-1%が48日の場合の複利リターン
ご提示のケース:100営業日中、52日が+1%上昇、48日が-1%下落で推移したと仮定します。これを複利的に計算すると、最終的な資産の倍率(リターン)は次のようになります。
$(1.01)^{52} \times (0.99)^{48} \approx 1.0356$
計算の結果、この期間の合計リターンは約1.0356倍、すなわち**+3.56%程度の利益となります(利回り約3.56%)。8.3%という数字と比べれば半分以下であることがわかります。つまり、「52勝48敗で+8.3%」という直感的な計算は実態と大きく乖離しています。この差は、前述の通り複利効果によるものです。上昇と下落を交互に繰り返すと全体では目減りする**ため、勝ち越し4日程度では8%ものリターンには到底なりません。
さらに一般化すると、1日あたり+1%/ -1%の上下動では50勝50敗でも若干の損失(約-0.5%)になり、損益トントンに持っていくには50%超の勝率が必要になります。52%程度の勝率では、ようやく数%台のプラスが期待できるに過ぎないのです。複利計算では勝率以上に「勝ちと負けのバランス」や「変動幅」が重要になることが、この例からも理解できます。
まとめ
- 複利計算の数式: 上昇日と下落日が混在する場合、各日のリターンを掛け合わせて総合利回りを計算する$(1+r)^{U}(1-r)^{D} – 1$ などの式を使用)。単純な勝率比(52/48など)で利回りを求めてはいけません。
- 単純比率 vs 複利の違い: 勝率52% vs 48%を直線的に評価すると誤解を招く。複利的に見ると、下落の影響が勝ち分を食うため、実際の利回りは単純計算より低くなる。例えば+10%と-10%では結果が -1%になるように、勝ち負けが交互にあるときは掛け算により利回りが目減りする。
- 52勝48敗・各±1%の結果: この条件での**複利リターンは約+3.56%**にとどまる。8.3%という計算は適切でなく、複利を考慮した正確な利回り評価が必要である(利回り8.3%は過大評価)という結論になる。
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