2025年以降の第2次トランプ政権:経済的基盤と矛盾の唯物史観分析

想定シナリオとして、2024年の選挙でドナルド・トランプが再選し、2025年以降に第2次トランプ政権が成立したとする。この状況をマルクスの唯物史観(経済的土台が上部構造を規定するという理論)に基づいて分析し、さらにマルクス的弁証法(テーゼ=命題、アンチテーゼ=反命題、ジンテーゼ=総合)を用いて、この政権を生み出した経済的矛盾と、この政権が反映・統合しようとしている社会的・経済的発展段階を論じる。

経済的土台と上部構造:第2次トランプ政権の依拠する条件

唯物史観の視点から見ると、第2次トランプ政権という政治的上部構造の成立には、それを支える経済的土台(マテリアルな条件)の積み重ねがある。トランプ政権は単なる個人のカリスマや偶発的出来事の産物ではなく、現代アメリカ資本主義の構造的条件に深く依拠している。特に次のような経済的条件が、この政権誕生の土台として挙げられる。

  • 長期的な賃金停滞と所得格差の拡大: 1980年代以降の新自由主義的資本主義の下で、労働生産性は上昇したにもかかわらず、多くの労働者の実質賃金はほとんど伸びず停滞した。一方で富の大部分が資本家階級や上位1%に集中し、所得・富裕格差が史上最大規模に拡大した。**労働者階級の生活向上が止まり「成果が自分たちに回ってこない」**という不満が鬱積し、中間層の没落と相まって社会的不安を生んだ。
  • 産業構造の転換と地域衰退: グローバル化と技術革新により、アメリカ経済は製造業中心からサービス・ハイテク産業中心へと移行した。その過程で鉄鋼・自動車など旧来産業は縮小し、企業は生産拠点を海外移転・アウトソーシングしてコスト削減を図った。この結果、かつて「偉大なアメリカ」を支えた工業地帯である中西部・五大湖周辺の「ラストベルト」は深刻な脱工業化と雇用喪失に見舞われた。ラストベルトに暮らす低・中所得の白人労働者層は、地元での職や将来展望を失い「忘れられた人々」と化した。彼らの経済的苦境と郷土への愛着は、トランプの「アメリカ第一」や製造業復活の訴えに強く響き、政権支持の中核的基盤となった。
  • 雇用の不安定化と労働者の力の低下: 表面的な失業率は低水準でも、多くの雇用は低賃金のサービス業やギグ・経済(Uberなどの不安定就労)に偏り、雇用の質の低下が進んでいた。労働組合の弱体化と非正規雇用の拡大により労働者の交渉力は低下し、「働いても報われない」「雇用がいつ切られるか不安だ」という不満が蓄積した。生活の不安定さや将来への閉塞感は現状打破を求める温床となり、従来のエリート政治への不信を助長した。
  • グローバル化と国際貿易のゆがみ: 冷戦終結後のグローバル経済では、資本は安価な労働力と新市場を求めて世界中を移動し、米国も中国などとの貿易・投資を拡大した。その結果、米国の消費者は安価な輸入品の恩恵を受け大企業は利益を拡大したが、国内製造業の雇用は流出し、多くの工場労働者が職を失った。巨額の対中貿易赤字や工場閉鎖の光景は、「グローバル化は一部のエリートだけが得をして労働者は犠牲になった」という認識を広めた。またグローバル化に伴い移民労働者も流入したが、それも一部では雇用競合や社会サービス圧迫への不安として受け止められ、反移民・保護主義的な世論を刺激した。国際自由貿易体制への反発と市場閉鎖的ナショナリズムの台頭という形で、経済的土台の矛盾が政治意識に反映された。
  • インフレと生活費の圧迫: 2020年代前半には、コロナ禍後の供給網混乱や金融緩和の反動で数十年ぶりの高インフレが発生した。食料品やガソリン、住居費など生活必需品の価格が急騰し、賃金上昇を上回る物価高が家計を直撃した。長らく低インフレで安定していた時代を知る庶民にとって、急激な生活費の負担増は大きな不安と怒りの源となった。インフレに十分対処できない政府・中央銀行への失望感も広がり、「既存の支配層は我々の生活苦を顧みない」という反発心が醸成された。
  • 地域格差と都市・農村の分断: 資本が集中する大都市圏(ニューヨーク、シリコンバレー等)は金融・IT産業の成長で繁栄する一方、中西部や南部の農村・工業地帯では人口減少と経済停滞が顕著だった。地域間の経済格差が拡大し、都市部の豊かな多文化エリート層 vs. 地方の没落する白人労働者層という構図が生まれた。この地理的・階級的ギャップは政治的分断を深め、地方の人々の間に「我々の声はワシントンや都会のエリートに無視されている」という被疎外感を植え付けた。そうした被疎外層の不満は、反エリート・反都市部的なレトリックを掲げるトランプ陣営への支持につながった。
  • 資本主義的生活様式の変化と疎外: 加えて、資本主義経済の発展に伴う生活様式の変容も背景にある。大量消費社会の浸透、郊外化やSNS中心のデジタル生活は、人々の伝統的コミュニティや連帯感を希薄化させた。個人主義的で分断された社会において多くの人々が孤立感やアイデンティティの喪失を感じていた。トランプのナショナリズムは**「失われた共同体の再生」を約束するかのように**響き、この疎外感に訴えかけた。経済的土台における疎外(共同体の崩壊)は、超国家的な連帯よりも国家や民族を拠り所とするイデオロギー(上部構造)を受容しやすい土壌を作り出したといえる。

以上のように、第2次トランプ政権の成立には、資本主義経済の長期的変化による物質的状況(生産様式・階級構造の変容)が大きく影響している。これら経済的土台の要因が人々の意識や怒りの方向性を規定し、その上に国家主義的・権威主義的な政治(上部構造)としてトランプ政権が乗っかった形である。言い換えれば、トランプ政権は現代資本主義が生み出した矛盾や不満を反映した政治的表象であり、その政策やイデオロギーもまた支配的な経済構造によって方向付けられている。

経済的矛盾とマルクス的弁証法による分析

次に、上記の経済条件をマルクス的弁証法の観点から捉え、テーゼ(命題)アンチテーゼ(反命題)・**ジンテーゼ(総合)**という過程で第2次トランプ政権の位置づけを分析する。この政権はどのような経済的矛盾の産物か、そして資本主義発展のどの段階(ステージ)を反映し統合しようとしているのかを考察する。

  1. テーゼ(命題) – 「新自由主義的グローバル資本主義」: これはトランプ出現前の数十年間、米国および世界を支配してきた支配的な経済モデルである。1980年代以降、レーガノミクスやクリントン期の金融自由化、中国の世界経済編入などを経て、新自由主義(ネオリベラリズム)的なグローバル資本主義体制が確立した。このテーゼでは、市場の自由化とグローバルな資本移動こそが繁栄をもたらすとされ、規制緩和・金融化・貿易の自由化が推進された。企業は利益最大化のため世界を股にかけて活動し、安価な労働力や生産地を求めて移動し、富裕層はかつてない富を築いた。一方で労働組合の弱体化や福祉縮小が進み、労働者や地方経済は「トリクルダウン(富の滴り落ち)」を待つばかりとなった。この体制のイデオロギー的側面としては「グローバリゼーションこそ万人を豊かにする」という正統命題が信奉され、政治エリートも民主・共和を問わず自由貿易と多国間主義を支持してきた。だがこの新自由主義体制そのものが内包する矛盾(富の偏在や社会的セーフティネットの崩壊、コミュニティの崩壊など)は次第に累積していった。
  2. アンチテーゼ(反命題) – 「経済的不満とポピュリズムの台頭」: テーゼがもたらした矛盾はやがて反作用としてのアンチテーゼを生み出す。すなわち、新自由主義的グローバル化によって疎外・搾取され「置き去り」にされた人々の怒りと反発である。具体的には、没落する労働者階級や地方中産層の不満がポピュリズム(大衆迎合主義)的な政治運動となって噴出した。彼らは従来のエリート(政治家、グローバル企業、金融界)に強い不信感を抱き、「自分たちを犠牲にして他所と取引している」という感覚を持った。アンチテーゼのスローガンは「現状(グローバル化体制)は大多数を豊かにしなかった」というものであり、2016年のブレグジット(英国のEU離脱)やトランプ初当選に見られるように、既存の国際秩序や支配政党への反抗として現れた。その内容はしばしばナショナリズム(自国第一主義)や反移民・反グローバル化の形を取り、「自国の労働者を守れ」「国境を取り戻せ」といった訴えに集約された。米国では特に、工場閉鎖に直面したブルーカラー層が「自由貿易が仕事を奪った」「移民が賃金を押し下げた」と感じ、また宗教的・保守的価値観を持つ層がリベラルな多文化主義への反発を強めた。こうした多方面の不満が結集し、「エスタブリッシュメント(既成支配層)への抗議」という統一テーマの下、トランプ現象という形で政治化されたのである。重要なのは、このアンチテーゼは必ずしも一様に反資本主義ではなく、一部の資本家層(例:保護貿易で利益を得る国内産業、化石燃料産業など)もまたグローバル規制や国際協調に反発し、この反命題に合流した点である。つまり支配階級内部でもグローバリスト vs ナショナリストの対立が生じ、資本の中の一部は自国市場重視・規制強化を訴えるポピュリスト勢力を裏から支援した。総じて、アンチテーゼとしての経済的ポピュリズムの台頭は、テーゼたる既存秩序が抱える矛盾(不平等・不安定さ)への歴史的揺り戻しと位置付けられる。
  3. ジンテーゼ(総合) – 「第2次トランプ政権=権威主義的資本主義への統合」: トランプの再登場と第2次政権の成立は、以上のテーゼとアンチテーゼをある種の形で統合(止揚)しようとする試みとみなすことができる。このジンテーゼとしてのトランプ政権は、一見すると新自由主義グローバル体制(テーゼ)への完全な対極に位置するようでありながら、実際にはその要素を多分に引き継ぎつつアンチテーゼの要求を部分的に取り込んだ混合的な社会体制である。第2次政権は選挙戦略上、アンチテーゼたる大衆の不満に迎合し「忘れられた人々の声を代弁する」と訴えたが、政権運営においては依然として大資本・富裕層の利益を強く反映している。 具体的には、トランプ政権は経済ナショナリズム(関税引き上げ、対中デカップリング=経済的切り離しなど)や反移民政策によってポピュリスト的要求に応えつつ、他方で大規模減税や規制緩和によって金融資本・巨大企業に有利な政策を推し進めた。第2次政権でも、大企業のCEOや右派ビリオネア(億万長者)たちが政権中枢に取り立てられ、例えば富豪でもある有名IT企業家が「無駄な政府支出の削減」と称して連邦政府職員を解雇・合理化するプロジェクトを任されたり、大型の富裕層減税が再び検討されるなど、その政策は新自由主義時代の延長線上にある部分が多い。一方で、世界貿易機関(WTO)体制への攻撃や多国間協定の離脱・再交渉、同盟国への防衛費要求など、従来の国際協調路線を覆す保護主義的・単独行動的な姿勢も鮮明である。つまり、トランプ政権は**「新自由主義の否定的継承」**という弁証法的総合を体現していると言える。新自由主義が掲げたグローバル協調は棄損しつつも、その中核であった市場原理主義・富裕層優遇は維持するという形で、矛盾する要素を併存させているのである。 この政権が反映・統合しようとしている社会的・経済的発展段階は、資本主義の歴史における新たな局面である。20世紀末から21世紀初頭にかけての「グローバル化した自由市場資本主義」という段階が行き詰まりを見せ、その次に現れつつある段階への過渡期として、第2次トランプ政権は登場した。具体的には、それは「国家資本主義」あるいは「権威主義的資本主義」とでも呼ぶべき段階である。国家が露骨に特定の大資本(寡頭勢力)の利益に奉仕し、市場原理と権威主義的統治を結合させる体制が強まっている。トランプ政権下では政府高官に大富豪やウォール街出身者が名を連ね、政策決定が公共の福祉よりも巨大企業・産業ロビーの意向に沿って行われる傾向が一段と強まった。これは従来の「民主主義的装いを残した資本主義」から「寡頭支配が公然と政策を牛耳る資本主義」への質的変化を示唆している。 また国際的には、米国主導のリベラルな国際秩序が揺らぎ、世界資本主義の分極化・ブロック化が進行する段階である。トランプ政権は中国との覇権競争をエスカレートさせ、「新冷戦」的なブロック経済を志向している。かつてのグローバル化段階では各国が多国間協調の下で経済統合を図っていたが、新たな段階では大国同士が経済・技術覇権をめぐり対立し、サプライチェーンの分断や貿易戦争が常態化しつつある。第2次トランプ政権はこの帝国主義的競合の激化という発展段階を色濃く反映しており、米国は自国の覇権維持のため国際ルールより力を優先する路線に転じた。これは第二次世界大戦前の1930年代に各国がブロック経済と保護主義に走った時代にも通じる様相であり、資本主義の危機的局面で現れる傾向として説明できる。 以上のように、第2次トランプ政権というジンテーゼは、前段階の矛盾から生じたアンチテーゼ(大衆的反乱)を体制内に取り込みつつ、なお資本主義的秩序を維持・再編成しようとする社会的試みである。この総合は一時的安定をもたらすかに見えるが、根源的な経済矛盾(労働と資本の対立、国内外の不均衡)は解消されていないため、新たな形での摩擦や危機を孕んでいる。むしろ、資本主義が自己保存のために民主主義や国際協調といった上部構造上の原理を切り捨て、より露骨な権威主義と排外主義に傾く段階に入ったことを示唆しており、これは資本主義発展史の中でも末期的・過渡的な段階とも評しうる。

要約

第2次トランプ政権の成立は、経済的土台における長期的な矛盾と変化(格差拡大、産業空洞化、雇用不安、インフレなど)が生み出した結果である。マルクスの唯物史観に照らせば、資本主義経済の構造(基盤)が人々の不満と政治意識(上部構造)を方向付け、ポピュリズム的・国家主義的な政権を出現させたといえる。弁証法的に見ると、新自由主義的グローバル資本主義というテーゼが生んだ矛盾に対し、大衆の反発というアンチテーゼが台頭し、その両者を部分的に統合したジンテーゼとして第2次トランプ政権が現れた。この政権は資本主義の新たな発展段階(権威主義的で国家主義的な資本主義)を反映しており、グローバル秩序の転換期における一つの社会的対応策と位置づけられる。経済的土台の矛盾が最終的にどのように決着するのか——さらに新たな総合へ向かうのか、それとも資本主義そのものの変質・崩壊へ至るのか——は今後の歴史的展開に委ねられていると言えよう。

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