売買目的有価証券(近い将来売却を目的とする有価証券)は、J-GAAP(日本基準)において、期末に時価評価し、その評価差額を当期の損益に計上することが規定されています(企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」)。具体的には、期末時点の時価を貸借対照表の有価証券の価額とし、期首簿価との差額を**「有価証券評価益」または「有価証券評価損」として損益計算書に計上します。これは、いわゆる洗替法**による処理で、評価益が出ていれば貸方に「有価証券評価益」を計上し、評価損であれば借方に「有価証券評価損」を計上しますbiz.moneyforward.comasb-j.jp。したがって、売買目的有価証券は帳簿上は常に時価で評価されており、その増減が業績に直接反映されます。
一方、設問では「売買目的有価証券が棚卸資産として計上されており」という状況が示されています。J-GAAPでも「トレーディング目的で保有する棚卸資産(株式等を売却し利益を得る目的の在庫的商品)」については、会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」の第15項において同様に時価評価が要求されています。そしてその評価差額は当期の損益として処理されます(つまり、金融商品会計基準の「売買目的有価証券」と同じ扱いです)asb-j.jp。したがって、売買目的有価証券を棚卸資産として扱う場合でも期末時点の時価評価は必須で、その評価益・損は当期の損益として計上される点は同じです。
売買目的有価証券の評価差額が損益計算書に与える影響について検討すると、まず注目すべきは、評価差額(評価益)が直接「売上原価」に振り替えられることは原則としてありません。売買目的有価証券は本来の商品在庫ではなく、金融資産です。会計基準第9号第19項によれば、トレーディング目的棚卸資産(売買目的有価証券に該当する)はその損益を原則として純額で売上高に表示するとされていますasb-j.jp。これはつまり、取引があった場合は売上高から売上原価(仕入原価)を控除する形式で損益が示されるという意味ですが、売却がなかった場合には売上高自体が立たず、結果として「売上原価」がマイナスになる形は通常生じません。実際、売買目的有価証券の評価益は別個に「有価証券評価益」や「営業外収益」として計上するのが一般的です。
期首から期末にかけて評価益が発生した場合、実務上は次のようになります。期首在庫として計上された売買目的有価証券(棚卸資産)の簿価に対し、期末の時価が上回っていればその増加分を当期利益とします。仕訳例で示すと、期末時点で評価益が出ていれば「売買目的有価証券」(棚卸資産)を借方、「有価証券評価益」(損益)を貸方に計上します。これにより貸借対照表上の資産価額は時価に調整され、損益計算書上には評価益が利益として計上されます(売却原価を処理するのではなく「評価益」として計上される点に注意)。この処理では、売上原価勘定そのものがマイナスになるわけではありません。すなわち、「売上原価がマイナス」という形で評価益が表れることは基本的にはありません。
企業実務では、この評価益をどの損益区分に含めるかは業種や会社によって違いがあります。一般的には、売買目的有価証券の評価益は営業活動以外の収益として「営業外収益(有価証券評価益)」に計上される場合が多いです。例えば一般事業会社の場合、本業が商品販売であれば証券投資活動は本業外とみなされるため、評価益は営業外項目になります。一方、証券会社や投資目的の企業などでは、株式売買自体が主たる事業活動と見なされる場合もあり、その場合は営業収益的に扱うケースもありますが、通常それでも「有価証券売却益」「有価証券評価益」等の科目名で損益計算書に区分されます。いずれにせよ、評価益を「売上原価」に組み入れてマイナス計上するケースは標準的ではなく、他の収益科目に計上していることがほとんどです。
また、売買目的有価証券の期末評価に関しては、企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」に従い、市場価格がある場合はその最終価格を用いる等の定義があり、開示も金融商品会計基準第40号のルールに準じます。評価損益は法人税法上も損金・益金算入対象となるため、税効果の扱いにも留意します(ただし税法上は適用範囲が狭い点に注意が必要です)。
以上を踏まえると、期首より期末の時価が上昇した場合でも、売買目的有価証券を売却原価の計算に含めて売上原価をマイナスにすることは通常ありません。評価益は別勘定で計上され、損益計算書では売上原価でなく営業外収益等として扱われます。ただし、会計上の表示は企業や業界によって違いがあるため、決算短信や注記を確認し、実際にどの勘定科目で計上しているか確認する必要があります。
要約
- 売買目的有価証券はJ-GAAPで期末時価評価し、評価差額を当期の損益(有価証券評価益/損)に計上するのが原則である。
- 期首から期末に時価が上昇して評価益が発生しても、売上原価をマイナス計上する扱いにはならない。評価益は売上原価ではなく、通常は**営業外収益(有価証券評価益)**などで計上される。
- 会計基準上、トレーディング目的棚卸資産(売買目的有価証券)は時価を貸借対照表価額とし、差額は損益処理する規定があるasb-j.jp。また、表示に関しては「損益は原則純額で売上高に表示」とされるが、実務では別収益科目にする例が多い。
- 企業によっては売却益と同様に営業収益に含める場合もあり、業態次第で処理が異なるので、決算発表や注記で確認が必要である。
- まとめると、期末の時価上昇による評価益は売上原価を減少させる形ではなく、別途「有価証券評価益」として計上されるため、売上原価がマイナスになるわけではない。
引用
売買目的有価証券とは?時価評価の仕訳方法や有価証券評価損益の法人税の取扱 | クラウド会計ソフト マネーフォワード
https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/46515/会計基準詳細 | 会計基準検索システムhttps://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards_system/details.html?topics_id=24会計基準詳細 | 会計基準検索システムhttps://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards_system/details.html?topics_id=24
コメント