取得原価主義(historical cost principle)とは、資産を取得した際の支出額(取得原価)で評価し、その価額を貸借対照表に計上する会計の考え方ですkotobank.jpobc.co.jp。取得原価には、購入代金や運送費・据付費など資産取得に直接要した費用が含まれます。取得原価主義を採用する目的は、実際の取引に基づく客観的な証拠によって評価額の信頼性・検証可能性を高め、企業に投下された資金の使途を明確に示すことにありますkotobank.jpbiz.moneyforward.com。例えば「1,000円で仕入れた商品は1,000円」として評価し、売却時に発生した簿価との差額を損益計上しますnomura.co.jpbiz.moneyforward.com。こうした処理により、貨幣的裏付けのない含み益の計上を排除し、企業の財務状況が過度に楽観的にならないようにするメリットがありますkotobank.jpbiz.moneyforward.com。
適用される会計項目
取得原価主義は、主に固定資産や棚卸資産、有価証券などの評価に適用されます。具体的には次のように扱います。
- 有形固定資産(設備・建物など):取得原価で計上し、耐用年数にわたり減価償却で費用配分します。土地については、通常は取得原価で固定化されますが、必要に応じて公正価値モデル(再評価モデル)を選択することもあります(日本基準では土地の再評価が例外的に認められる場合があります)。
- 棚卸資産(在庫):原則として購入代価や製造原価に付随費用を加えた取得原価で評価しますasb-j.jp。期末時点で市場価格(正味売却価額)が取得原価を下回る場合には、「低価法」により時価で評価し、取得原価との差額を費用(評価損)として計上しますasb-j.jp。
- 有価証券・金融商品:原則として取得原価で評価し、保有目的を問わず簿価で貸借対照表に計上しますjicpa.or.jp。ただし、取得原価と比較して時価が著しく下落した場合には(回復の見込みがなければ)、取得原価を回復額として引き下げます(減損会計)jicpa.or.jp。上場株式など時価変動が大きい金融商品については、日本基準では含み損時に低価法を適用できる場合があります。
- 無形固定資産:ライセンスやソフトウェアなどの無形資産も取得原価で計上し、耐用期間にわたり償却(減価償却に準ずる償却)します。
- その他資産負債:前払費用・未収金、借入金なども取得原価(または償却原価)で認識されます。
以上のように、企業の資産・負債は基本的に取得原価を基準に評価され、売却時や償却を通じてその後の損益が計上されますnomura.co.jpasb-j.jp。
他の評価基準との違い
取得原価主義に対し、時価主義や公正価値主義は、資産・負債を期末の市場価格(あるいは合理的に算定された価値)で評価する考え方です。たとえば、IFRS(国際会計基準)では多くの資産・負債について公正価値(fair value)が採用され、毎期末に市場価格を基準として再評価を行いますabitus.co.jpey.com。公正価値とは「測定日時点で、市場参加者間で資産を売却するために受け取る価格」を指す(IFRS第13号の定義)abitus.co.jp。
これに対し、日本基準(J-GAAP)は原則として取得原価主義です。すなわち、「取得時の価格で評価し、以後は再評価しない」方法を採りますkotobank.jpnomura.co.jp。この違いは、財務諸表における資産評価や利益計算方法にも影響を与えます。たとえば、IFRSでは貸借対照表重視の「資産・負債アプローチ」に基づき公正価値評価が推奨される一方、日本基準では従来の収益費用アプローチと取得原価主義が優先されてきましたabitus.co.jpobc.co.jp。結果として、IFRS適用企業では市場価格の変動が財務状況に直接反映されるのに対し、日本企業では同じ資産でも簿価のまま計上されるため、貸借対照表上の価額や当期利益に差が生じますabitus.co.jpobc.co.jp。
利点・欠点
取得原価主義には、以下のような利点と欠点があります。
- 利点:実際に支払われた取得価額に基づくため、評価が客観的かつ検証可能で信頼性が高まりますnomura.co.jpbiz.moneyforward.com。企業は資金投下額を明確に把握でき、財務諸表の一貫性・比較可能性も確保されるため、経営者や投資家が企業実態を理解しやすくなりますbiz.moneyforward.com。また、取得原価主義では含み益(未実現利益)が利益に計上されないため、貨幣的裏付けのない利益計上を防げますkaikeijiten.combiz.moneyforward.com。
- 欠点:取得原価と時価が乖離する場合、資産の現状を正しく示せない可能性がありますkotobank.jpbiz.moneyforward.com。とくに物価上昇や不動産価格上昇などでは、簿価が大幅に低く抑えられるため、企業の財務状況が実態と異なって見えることがありますkotobank.jpbiz.moneyforward.com。また、時価変動が大きい資産では、価格変動をリアルタイムに財務諸表に反映できず、利益計上が売却時まで先送りとなるため、含み益・含み損の動きが財務分析に捉えにくくなりますnomura.co.jpbiz.moneyforward.com。さらに、最新の市場価値を反映しないことで投資判断や経営戦略に影響が生じる場合もありますobc.co.jpbiz.moneyforward.com。
実務での適用と財務分析への影響
実務上、日本企業の財務諸表は取得原価主義を基盤としています。固定資産は減価償却を通じて計上し、棚卸資産は原価または低価法で評価しますasb-j.jpbiz.moneyforward.com。有価証券も原則取得原価で評価し、明確な減損兆候が出ない限り再評価しませんjicpa.or.jpnomura.co.jp。その結果、貸借対照表の資産価額は年次で大きく変動しにくく、損益計算書の利益も比較的安定します。
一方、この会計処理は財務分析や経営判断に影響を与えます。資産の簿価と市場価値に大きな差がある場合、財務指標(ROA、PBRなど)や貸借対照表に基づく企業価値は実態と乖離する恐れがあります。分析家や経営者は、簿価ではなく時価や使用価値を補助的に参照する場合がありますkotobank.jpbiz.moneyforward.com。また、含み益を直ちに認識しないため、企業の収益力を過小評価してしまう可能性もあります。さらに、企業は定期的に公正価値情報を開示したり、必要に応じて部門別の内部評価を行ったりして、取得原価主義の限界を補っています。例えばIFRSを適用する企業では、建物・機械設備について取得原価モデルか再評価モデルのいずれかを選択でき、再評価モデルを採れば時価変動を財務諸表に反映できますpragermetis.com。
まとめ
取得原価主義は、資産を取得時の実際支払額で評価する会計基準であり、客観性・信頼性を高め、過度な含み益の計上を防ぐ役割がありますkotobank.jpbiz.moneyforward.com。その反面、物価上昇や市場変動時には資産価値が実態から乖離しやすく、財務状況を過少または過大に表示する可能性がありますkotobank.jpbiz.moneyforward.com。実務では固定資産や在庫、有価証券に適用され、財務分析や経営判断では簿価と時価の差を考慮しながら企業価値を評価することが求められますjicpa.or.jpbiz.moneyforward.com。
参考資料: 取得原価主義の解説kotobank.jpabitus.co.jpjicpa.or.jpasb-j.jpobc.co.jpnomura.co.jpbiz.moneyforward.combiz.moneyforward.com (各社会計文献・解説より)
引用
取得原価主義(しゅとくげんかしゅぎ)とは? 意味や使い方 – コトバンク
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