2025年9月時点の金価格上昇リスク

テーゼ(上昇を支持する要因)

  • 米国金融政策: 近年、FRBへの利下げ圧力が高まっており、利下げが実現すれば利回りの低い金の保有コストは低下する。実際2025年秋に利下げ期待が金を押し上げ、金価格は史上最高値圏まで上昇した。ドル安基調も金に追い風となるほか、トランプ政権内では米国の金準備(簿価42ドル/オンス)の時価評価論議が出るなど、金の潜在価値への関心が強まっている。
  • 世界的なインフレ・スタグフレーション懸念: 世界的に物価上昇圧力が続けば、金はインフレヘッジ資産としての需要を集める。また保護貿易や高い財政赤字が成長鈍化リスク(スタグフレーション)を高める場合、実質資産である金への逃避需要が強まる可能性がある。主要中央銀行や機関投資家はインフレや財政悪化への備えとして金買いを増やし、価格上昇を支えている。
  • 脱ドル・脱米志向: 世界各国の一部では米ドル依存への懸念から外貨準備の多様化が進んでおり、金は重要な非通貨資産として位置づけられている。BRICSや中東諸国中心にドルシェアが低下傾向にあり、代替通貨への投資が活発化している。こうした脱ドル潮流の中で、金は米ドルに替わる価値保存手段・決済手段として相対的優位を有する。実際、中央銀行の金購入は連続高水準が続き、需給を引き締める方向に働いている。
  • 株式・原油との相関とヘッジ需要: 金は伝統的にリスク分散資産とされ、株式市場が調整局面に入ると避難先としての需要が増す。2025年前半には株価下落時に金が一段高となる場面が見られた。また、地政学リスクやインフレ懸念が同時に原油価格も押し上げるケースでは、インフレヘッジとして金買いが強まる。逆に株高・原油高でも金融政策次第で金が上昇する局面があるなど、金の値動きは他資産と必ずしも一方向ではないが、いずれの場合もリスクヘッジ需要として金に資金が向かいやすい。

アンチテーゼ(下落・抑制要因)

  • 米国金融政策・ドル: 他方、FRBがインフレ抑制を優先して利下げに慎重な姿勢を崩さなければ、金には逆風となる。2025年9月のFOMCでは0.25%の利下げにとどまり、市場期待(0.5%)を下回ったことで金は急反落した。さらに米国の財政懸念や貿易政策の不透明感が低下すれば、ドルの信認回復につながり、金の魅力は薄まる。提案される金準備売却など極端なプランは現実的ではなく、金価格の大幅な暴落を招く恐れも指摘される。
  • 景気・インフレ状況: 世界経済の回復基調やインフレの鎮静化が進めば、金需要は抑制される。成長期待が高まるとリスク選好が強まり、投資マネーは株式や高利回り資産に流れやすい。また、インフレ率の上昇が限定的であるならば、インフレヘッジ需要は弱まり、むしろ名目金利の上昇が金にコスト増をもたらす。実際、原油安やサプライチェーン改善でインフレ懸念が和らげば、金価格は上昇基調を維持しにくい可能性がある。
  • 市場心理と他資産との相関: 株高基調が続く場合、短期的に金への資金シフトは減少しうる。また、一部に言われる「株安=金高」という相関は、近年では必ずしも成立しない。例えば2025年春には米長期金利急上昇の中で株価が揺れたにもかかわらず、金は同時上昇し、従来のパターンは揺らいでいる。原油価格とも、需給構造変化などで相関が以前ほど高くなく、原油急落局面では金価格が下落する動きも見られた。総じて、他のリスク性資産の状況次第では金の上昇余地は限定される。

合(総合的評価)

以上の検討から、金価格上昇には強い下支え材料と同時に大きな抑制材料が混在しているといえる。2025年9月時点で金価格は歴史的高値圏にあり、FRB利下げ観測やインフレ警戒、脱ドルトレンドなど上昇の根拠は強力である。一方で、米国と世界経済の動向次第では利上げや景気回復、ドル回帰が金に重しとなり、急騰リスクを抑える要因も顕在化している。実際、FOMC後の金価格の動きに見られるように、投機筋の期待剥落で一時調整する場面もある。したがって、金価格は中長期的には安全資産需要に支えられた高値圏で推移する余地が大きいが、政策判断や経済指標、国際情勢次第で上下の振れが大きくなる可能性が高い。

まとめ: 金価格上昇の背景には、金融緩和期待や高インフレ・地政学リスク、脱ドル化といった強力な追い風がある。一方で、FRBの利下げ見通し後退や世界経済の安定回帰など抑制要因も強く、両者が拮抗している。現状では金は過去最高水準で支持されているものの、今後の動向は政策・経済環境次第で変動しやすい状況にあるとまとめられる。

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