- S&P500の「利回り8%」とは税引後の市場リターン: 一般にS&P500の利回り8%という場合、株価の値上がり益や配当を含めた総合的な市場リターン(インデックスリターン)を指します。これは企業の税引後利益にもとづく概念であり、法人税を差し引いた後の利益から計算されるため税引前ではなく税引後の数値とみなされます。
- 市場リターンと個別企業ROEの違い: S&P500の利回りは市場全体の平均的な株式リターンであり、経済動向や投資家心理など市場環境に左右されます。一方、個別企業のROE(株主資本利益率)はその企業単体の収益性を示す指標です。したがって、指数全体の利回りと個別企業のROEは性質が異なり、同じ8%という数値で単純比較することはできません。
- 税引前ROE8%の税引後水準: 仮にある企業のROE(税引前)が8%だった場合、ここから法人税を考慮すると実際に株主に帰属するリターンは低くなります。法人実効税率を約30%とすると、税引後ROEは約8%×(1−0.30)=約5.6%になります。米国企業であれば連邦税+州税などで実効約25%と見積もると、税引後ROEはおおむね6%強となります。いずれにせよ、税引前8%が税金差し引き後では約5~6%程度に相当します。
- 株主期待リターン(資本コスト)との比較: 一般に株主が企業に期待するリターン(株主資本コスト)はこれより高く設定されます。たとえば米国市場ではリスクフリーレートに株式リスクプレミアムを加えて概算すると8~9%程度になることもありますし、ある調査では機関投資家の想定する資本コスト平均が7%以上と報告されています。税引前8%(税引後6%前後)はこうした株主期待(および実質的な資本コスト)を下回る水準であり、多くの投資家が求めるリターンを満たし切れない可能性が高いと言えます。
- 評価基準としての8%ROE採用の是非: 以上を踏まえると、企業評価基準として「税引前ROE8%」を採用するのは慎重に考えるべきです。S&P500の8%利回りと企業ROEはもともと比較対象が異なる上、税金と投資家期待を考慮すると税引前8%では不十分です。企業評価にあたっては、税引後ROEや株主資本コストを上回る水準を目標にするなど、より現実的な基準設定が望ましいでしょう。
税引前ROE8%基準とS&P500利回りの関係検討

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