ビットコインは発行上限が定められているため金と同じように希少性を持つとされますが、他方で暗号資産は数多く存在し、容易に新たな暗号資産が生まれるため、供給制約の意味が薄れているのではないかという主題を考えます。
ビットコインの供給量は2140年頃までに2,100万BTCで打ち止めになるようプロトコルに規定されています。実際、2025年8月時点で1,900万枚以上が採掘済みで、残る供給は約150万枚にすぎません。この上限はインフレを防ぎ、供給量が増えないことを通じて希少性を保つ点で金と似ています。4年ごとに報酬が半減するハードフォーク(半減期)によって新規供給も抑制され、長期的には理論的な希少価値を高める設計です。こうした供給制約こそが、ビットコインが価値保存手段とみなされる根拠となっています。
一方で、暗号資産全体の世界では事情が大きく異なります。アルトコイン(ビットコイン以外の暗号資産)は2025年Q3時点で1万7,651種類以上存在し、その数は週に50件ほどのペースで増えています。これらの大半は特定の発行上限を設けていないか、きわめて大きな供給量を持ち、ドージコインのように実質無限の供給を設定している通貨さえあります。新規通貨の発行は技術的なハードルが低く、イーサリアム上のERC‑20トークンなど既存ブロックチェーン上で容易に作成できるため、暗号資産の総供給数は理論上ほぼ無限に増やせます。また、暗号資産同士は中央集権型取引所や分散型取引所で相互に交換できるため、投資家は希少性の低いトークンに資金を移すことも簡単です。アルトコインはビットコインとは異なるユーティリティやコミュニティを掲げて競合しているため、資本の流れも常に変動します。
このように見ると「供給制約があるから暴落しない」という単純な説は成り立ちません。ビットコインの希少性は、そのプロトコルと採掘プロセスによって保証される一方、暗号資産市場全体の総供給は膨大で代替手段が多数存在します。アルトコイン市場の拡大は投資家の関心を分散させ、希少資産であるビットコインの需要を相対的に押し下げる可能性があります。実際には、ビットコイン価格は需要と市場心理に大きく左右され、希少性だけでは暴落を防げません。価格が下落すれば半減期や供給上限があっても投資家の損失は避けられず、需要が減退すれば価格は大きく調整します。
しかし、供給制約が全く無意味かというとそうでもありません。ビットコインは最初の暗号資産として高いブランド力を持ち、世界中で広範な認知を獲得してきました。米国上場ETFや大手企業による保有など制度的な受容が進み、多数のアルトコインが乱立する環境でも「デジタル・ゴールド」としての評価を維持しています。アルトコインが無限に存在することは事実ですが、実際に有用性と信頼性を獲得しているものはわずかで、投機的な通貨は淘汰されやすいという面もあります。また、通貨間で容易に交換できるとはいえ、ビットコインは長期保有や価値の保存を目的とした需要が大きく、他の暗号資産の増加が必ずしもその価値を損なうとは限りません。
要約
ビットコインはハードコードされた2,100万枚という発行上限と半減期によって希少性を保つよう設計されており、この仕組みが価値保存手段としての信頼の一因となっています。一方、暗号資産市場全体には1万7,000種類を超えるアルトコインが存在し、なかには無制限の供給を持つ通貨もあり、相互に容易に交換できるため総供給は事実上無限です。このため、特定の通貨に供給制限があっても市場全体の希少性は保証されず、価格は需要に大きく左右されます。とはいえ、ビットコインの希少性はネットワーク効果や制度的信頼と結び付いており、多数のアルトコインが乱立してもビットコインが価値保存の役割を果たし続ける可能性は残ります。
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