2018年中間選挙と“ねじれ”国会の成立
- 下院での民主党の躍進 – 2018年11月の中間選挙で民主党は下院の議席を40増やし、定数435議席中235議席を占める多数派になった。共和党は下院の過半数を失い、上院では53議席を維持したため、2019年1月に発足した第116議会は上下院で多数派が異なる「ねじれ国会」になった。この結果、トランプ大統領は議会との対立を抱えたまま残りの任期を過ごすこととなった。
- 新議長ナンシー・ペロシの選出 – 2019年1月3日、民主党は下院議長にナンシー・ペロシを再選出した。議長選ではペロシが220票を得て共和党のケビン・マッカーシーの192票を上回った。民主党は同日、政府閉鎖を終わらせるための歳出法案2本を採決したが、国土安全保障省向けの法案にはトランプ大統領が求めるメキシコ国境の壁予算が含まれず、共和党が多数派を握る上院は法案を審議しなかった。
壁予算を巡る対立と非常事態宣言
- 歴史上最長の政府閉鎖 – トランプ大統領は壁建設費57億ドルを求め、2018年12月22日に一部政府閉鎖を招いた。閉鎖は35日間に及び、約80万人の連邦職員が一時帰休となった。ペロシ率いる下院は繰り返し暫定予算を可決したが、上院が採択しなかったため閉鎖は長期化し、最終的にトランプ大統領は2019年1月25日に一時的に政府を再開した。
- 国境の「非常事態」宣言 – 2019年2月15日、トランプ大統領は壁建設費を確保するため「南部国境に関する国家非常事態」を宣言した。この宣言により国防総省などの予算を壁建設に転用する権限を得たが、民主党は権限の乱用だと批判し、両院は非常事態の解除を求める決議を可決した(大統領は拒否権を行使)。
民主党下院の法案と上院での停滞
- 選挙制度改革法案(H.R.1) – 新下院が最初に提出した「For the People Act」(H.R.1)は、投票権の拡充・選挙資金の透明化・倫理規定の強化を盛り込んだ大型改革案だった。下院は2019年3月8日に賛成234・反対193で可決したが、当時の上院多数党院内総務ミッチ・マコネルは「政治的芝居」として審議を拒否したため、法案は上院で棚上げになった。
- 銃規制法案(H.R.8) – フロリダ州パークランドの銃乱射事件を受け、下院は2019年2月27日に私人間の銃の譲渡にも連邦の背景調査を義務付ける「バイパーティザン背景調査法案」を240対190で可決した。FactCheck.orgによると、上院多数党のマコネルは同法案を議題に載せず、共和党が多数を握る上院で審議されなかった。
- その他の法案 – 下院民主党は最低賃金引き上げや医療費削減など300以上の法案を可決したが、上院は多数を握る共和党がほとんどの法案を取り上げなかった。マコネルは「墓場委員会」と揶揄されるほど法案を放置し、代わりに連邦裁判官の承認を優先した。
調査と監視 – “大統領へのチェック”
- マイケル・コーエン証言とモラー報告 – トランプ大統領の元弁護士マイケル・コーエンは2019年2月27日に下院監視・政府改革委員会で証言し、大統領が選挙資金規正法違反を指示したと述べた。3月24日にはウィリアム・バー司法長官がロバート・モラー特別検察官の報告概要を議会へ提出し、ロシア疑惑を巡る議論が続いた。モラー氏は同年7月に下院司法委員会と情報委員会で証言した。
- ウクライナ疑惑と最初の弾劾 – 2019年9月24日、下院議長ペロシは、トランプ大統領がウクライナのゼレンスキー大統領にジョー・バイデン前副大統領の調査を求める見返りに軍事支援を一時保留したとの内部告発を受け、弾劾調査開始を発表した。司法委員会は12月13日に「権力乱用」と「議会妨害」の2件の弾劾条項を賛成23・反対17で可決し、下院本会議は12月18日に2件の弾劾条項をそれぞれ230対197、229対198で可決した。
- 上院での無罪判決 – 上院は2020年2月5日、弾劾裁判を行い「権力乱用」条項を52対48、「議会妨害」条項を53対47で否決し、トランプ大統領を無罪とした。共和党議員で唯一ミット・ロムニー上院議員が「権力乱用」条項で有罪票を投じた。弾劾裁判は党派的対立を際立たせ、トランプ政権と民主党下院の溝をさらに深めた。
新型コロナウイルス流行下の協調と対立
- CARES法の成立 – 2020年3月、COVID‑19の急拡大に伴い米国経済は急激に悪化した。下院と共和党が多数を握る上院は協議を重ね、2兆2千億ドル規模の経済対策「新型コロナウイルス支援・救済・経済安全保障(CARES)法」を成立させた。Investopediaによると、法案は上院で全会一致(96対0)、下院で419対6で可決され、トランプ大統領は3月27日に署名した。この法律は国民への現金給付(成人1人当たり1,200ドル、子ども1人当たり500ドル)、失業保険の拡充、中小企業向け融資などを盛り込み、ねじれ議会下でも協調が可能であることを示した。
- 経済対策の追加協議 – 2020年夏以降、追加経済対策を巡って協議が難航した。民主党下院は5月に3兆ドル規模の「HEROES法」を可決したが、共和党上院は規模が大きすぎると反発し、失業給付の上限や州政府支援額を巡って交渉が膠着した。トランプ政権は大統領令による失業給付の延長などを試みたが、議会の承認がないため実効性は限定的だった。
最高裁人事と2020年大統領選
- 保守派判事の承認 – 共和党上院は議会日程の多くを裁判官任命に充て、トランプ政権で200人以上の連邦裁判官を承認した。2020年9月にリベラル派のルース・ベイダー・ギンズバーグ最高裁判事が死去すると、トランプ大統領は保守派のエイミー・コニー・バレット判事を指名し、上院は大統領選の1週間前にあたる10月26日に賛成52・反対48で承認した。この強行承認は民主党の反発を招き、選挙戦の大きな争点となった。
- 2020年大統領選の敗北 – 2020年11月3日の大統領選挙で民主党候補のジョー・バイデンが勝利し、選挙人投票で306対232とトランプ大統領を大きく上回った。バイデンは全国で8,120万票を得て、7,420万票のトランプを約700万票上回った。民主党は下院多数派を維持し、上院でも2021年1月のジョージア州決選投票により50対50の同数となり、副大統領カマラ・ハリスの投票で多数派となった。
この選挙結果によりトランプ大統領は再選を逃し、政権は2021年1月20日にジョー・バイデンへと引き継がれた。大統領選の敗北とねじれ議会下での立法の停滞は、トランプ政権後半が実質的な「レームダック(機能不全)状態」であったことを象徴する。
まとめ
2019年から2020年にかけてのトランプ政権は、民主党が多数を握る下院と共和党多数の上院というねじれ構造の下で、政治的対立が激化した。大統領は壁建設や医療制度改革といった公約を推進しようとしたが、下院は監視権限を駆使して調査を行い、多くの法案を可決しても上院が採択しないため立法は停滞した。その一方で、連邦裁判官任命やCARES法の成立など、上院共和党と協調できる分野では前進も見られた。最終的にトランプ大統領は2020年大統領選で敗北し、この期間全体が政策実現能力の低下した「レームダック」状態として記憶されている。
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