ゴールドの復権

テーゼ(肯定的主張)

  • インフレと通貨への不安
    アメリカでは物価上昇や財政赤字の拡大によりドルの実質価値が減少し、現物資産である金に資金が流れました。2025年10月初旬にはLBMAゴールド価格が1トロイオンスあたり4,000ドルを突破し、年初来40%以上の上昇を記録しました。1970年代のインフレ期に似た米連邦準備制度理事会(FRB)独立性への懸念や政治的介入が、安全資産としての金需要を高める要因となっています。
  • 中央銀行の買い支え
    ロシアの外貨凍結や西側制裁を受け、各国の外貨準備はドルやユーロから金へシフトしています。世界の中央銀行は2022年から毎年1,000トン超の金を購入しており、2025年も900トン前後の買い越しが見込まれます。中国人民銀行は11か月連続で金準備を増やし、金は世界準備資産の中でユーロを上回る価値に達しました。
  • 中国人投資家と文化的背景
    中国やインドでは金を「財産そのもの」と捉える文化が根強く、価格が上昇しても装飾品や投資用地金への需要が支えとなる、という見方があります。10月以降に中国人の投資需要が再び増え、新興国株式や不動産より安全と考えられています。
  • 投資手法の推奨
    初めて金を買う人には、ETFや投資信託といった金融商品が勧められます。流動性が高く少額から始められ、日本ではNISAを利用すれば運用益が非課税になります。一方、現物の地金やコインは長期保有に向くものの、保管費・保険料や50%近い総合課税が生じる場合があり、税制を考慮する必要があります。

アンチテーゼ(批判的視点)

  • 中国の実需の低迷と輸入減少
    2025年の金価格急騰は、中国の宝飾品需要を大きく抑制しました。2025年第3四半期までの上海金取引所からの引き出し量は10年平均を3割以上下回り、中国の金輸入量は5月比で約60%減少しました。投資需要はあるものの、実需が弱いことは価格の持続性に疑問を投げかけます。
  • 中央銀行購入の鈍化
    メタルズ・フォーカス社は、2025年の中央銀行の純購入量は前年より減少し900トン前後になると予測しています。金の価格が高止まりすれば購買意欲が落ち、価格上昇の勢いが鈍る可能性があります。
  • 金価格の急落と高ボラティリティ
    2025年10月下旬には金相場が一時6%以上急落し、約4,000ドル前後へ戻りました。過熱感と利食い売りが出やすい相場環境であり、長期の上昇トレンドは継続しても短期的な調整は不可避です。また金は利息を生まないため、実質金利が高止まりすると相対的な魅力が低下します。
  • FRB独立性の保護と政治リスクの限定性
    トランプ大統領がFRB理事の解任に動いたことで独立性への懸念は高まりましたが、裁判所や議会によるチェックが機能するため、金融政策が大きく歪められる可能性は低いとの見方もあります。長期的にはインフレ期待やドル指数、実質金利の動向が金価格の主要ドライバーです。
  • 投資手法のリスク
    ETFには運用管理費や市場価格と基準価額の乖離リスクがあり、投資信託は信託報酬や解約手数料がかかります。現物は保管料や保険料、相続・譲渡時の税金が発生するため、投資家が想定するほど手軽ではありません。

ジンテーゼ(統合的視点)

  • 構造的な需要は続くが冷静な判断が必要
    世界の地政学的リスク、巨額の政府債務、米ドルの信頼低下は、引き続き金の長期的な価値を支える要因です。特に米欧がロシアの外貨資産を凍結したことは、他国の外貨準備政策を根本から変え、金保有を増やす流れを加速させました。一方、実質金利の動向や経済成長、消費需要の減退などが相場に影を落とし、投資家は過度な熱狂を戒める必要があります。
  • 中国需要の二面性
    中国やインドの宝飾品需要は価格高騰で一時的に落ち込んでいますが、人民元の下落や株式市場の低迷が続けば再び投資需要が強まる可能性があります。また中国人民銀行の金購入は継続しており、長期的な外貨準備の分散という観点で金の需要は残ります。
  • 投資スタンスの提案
    初心者は資産全体の数%を目安に、ETFや投資信託で金を保有するのが現実的です。短期的な値動きに惑わされず、ドル建て資産のヘッジやインフレ対策として長期的に保有する姿勢が重要です。現物は一部を記念品的に持つか、金貨の積立で少量ずつ保有する方法もあります。
  • 長期的視野と通貨分散
    資本主義経済では紙幣供給量が増え続ける一方で金の供給は有限です。長期的には金が貨幣価値の下落を映す傾向があり、通貨分散の一環として役割を持ち続けるでしょう。ただし、金だけに偏ることなく、株式・債券・不動産・他のコモディティとのバランスを取ることで、リスクとリターンの最適化を図るべきです。

投資方法の比較表

投資方法メリット注意点
ETF(上場投資信託)取引が容易で流動性が高く、少額から購入可能管理費用がかかり、市場価格と基準価額の乖離が起こり得る
投資信託(ミューチュアルファンド)プロが運用し、分散投資しやすい信託報酬や解約手数料が存在し、運用者の手腕に依存
現物(地金やコイン)実物資産を所有でき、カウンターパーティリスクがない保管・保険コストや税負担が大きく、売買単位が大きい

まとめ

  • 2025年10月には金価格が初めて1オンス4,000ドルを超えるなど歴史的な高値を記録したが、実需の低迷と利食いによる急落も経験した。
  • FRB独立性への懸念や米国の政治リスクは金の安全資産としての魅力を高めたが、金融制度のチェック機構が機能するとの見方もある。
  • 中央銀行は外貨準備の分散として金を買い続け、2025年も900トン前後の買い越しが見込まれるものの、前年より鈍化する可能性がある。
  • 中国やインドの装飾品需要は価格高騰で縮小しているが、金融不安が再燃すれば投資需要が回復し得る。
  • 投資家はETFや投資信託を活用してポートフォリオの一部として金を組み込むのが一般的であり、現物は保管や税務面を考慮して少額にとどめるべき。
  • 長期的には金は紙幣供給拡大に対する保険として価値を持ち続けるが、短期的な価格変動や需要の波に注意し、他資産との分散を心がけることが重要である。

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