どのような労働者でも週5日・8時間労働で暮らせる社会を実現するための方策


現状と課題

法定労働時間と残業の規制

  • 労働基準法では、1日8時間・週40時間以内が法定労働時間と定められています。法定時間を超える残業をする場合は労使で36協定を締結して労働基準監督署に届け出る必要があり、時間外労働には「月45時間・年360時間」などの上限が設けられています。この枠組みにより長時間労働を是正し、週5日8時間労働が基本となる仕組み自体は整えられています。

しかし「8時間働いても生活が成り立たない」

  • 長時間労働やハラスメントが常態化し、非正規雇用が広がる中で、「1日8時間働けば暮らしていける社会の実現」を求める声が高まっています。全労連などの運動も、週15時間・月45時間・年360時間以内の時間外労働への規制や、勤務間インターバル11時間以上の義務化など、生活時間を守る仕組みの強化を訴えています。
  • 現行の最低賃金ではフルタイムで働いても生活が苦しい人が多く、最低賃金の引き上げが必要との指摘があります。とくに、最低生計費試算調査によれば、8時間働いて人間らしく暮らすには全国どこでも月額24万円(時給1,500円)以上、物価高騰下では月25万円(時給1,700円)が必要という結果が出ており、最低賃金水準との大きな開きが問題視されています。
  • 連合が公表した「リビングウェイジ」試算では、さいたま市在住の単身成人世帯で1時間あたり1,250円・月額約20万5,800円が必要とされ、食費や住居費の上昇で前年よりも2万2,700円上昇しました。国際的にも「生活賃金」(living wage)の概念が広がり、ILOは生活賃金を通常の労働時間内の賃金水準で算出し、労働者とその家族が人間らしい生活を享受できるよう保障するべきだと定義しています。

実現に向けた具体策

1.最低賃金の大幅引き上げと「生活賃金」の導入

  • 全国一律の高い最低賃金:地域別の最低賃金には200円超の格差があり、地方から都市部への人口流出や地域経済の疲弊の要因となっています。全労連の試算では、全国どこでも時給1,500円(物価高を考慮すれば1,700円)でようやく「8時間働けば暮らせる」水準になるとされ、全国一律で最低賃金を大幅に引き上げる必要があります。
  • 生活賃金の法制度化:ILOが提示する生活賃金の概念に基づき、最低賃金より高い「生活賃金」を目標に賃金政策を設計します。連合の試算では単身者で時給1,250円ですが、全労連の調査では1,500円以上が必要とされており、物価や生活実態を踏まえた生活賃金の設定とそれを支払う企業へのインセンティブ(公共調達や補助金の条件と連動など)が求められます。
  • 賃金格差の是正:性別や雇用形態による待遇格差をなくし、正規・非正規、男女間の賃金格差を解消する「同一労働同一賃金」の実効性を高める取り組みが不可欠です。
  • 中小企業への支援:賃上げには中小企業の人件費負担増が伴うため、大企業の内部留保への課税などで財源を確保し、中小企業の賃上げ支援や社会保険料の負担軽減を実施します。外国では最賃引き上げと同時に巨額の支援策を組み合わせた事例があります。

2.長時間労働の是正と労働時間短縮

  • 残業規制の徹底:36協定を締結しても残業は月45時間・年360時間までに限られており、上限を超えることは原則禁止されています。これを厳格に運用し、違反企業への罰則強化と労働基準監督体制の拡充が求められます。
  • 勤務間インターバル制度の義務化:勤務終了後から次の始業まで11時間以上の休息時間を義務付ける制度を法制化し、睡眠や私生活の時間を保障します。
  • 週35時間労働への移行:全労連は「1日7時間・週35時間」への時短運動を提起し、連合も豊かな生活時間の確保を目指しています。デジタル化や業務改善による生産性向上とセットで法定労働時間を短縮し、賃金を維持したまま労働時間を削減する方策が必要です。欧州では週4日制の試験導入も進んでいます。

3.非正規雇用と不安定就労の改善

  • 雇用安定と時間保証:非正規労働者は短時間就業のため収入が不安定で、週5日8時間働きたくても機会がない場合が多くあります。最低賃金で働いても貧困ラインを下回る事態も指摘されており、契約社員やパートに対しても1日の最低労働時間や週の総時間を保障する制度を導入します。
  • 不安定雇用の規制:派遣法や有期労働契約法を見直し、雇用契約の無期転換を促進します。解雇の金銭解決制度の導入や解雇しやすい仕組みづくりを止め、不安定就労を改善することで、8時間働けば生活できる社会を実現します。

4.労働者の権利保護と社会的対話の強化

  • ハラスメントの根絶:パワハラ・セクハラ・顧客からのハラスメントを禁止する実効的な法整備を行い、職場の安全と精神的健康を守ります。
  • 労働組合と社会対話の強化:賃金是正には労働運動の役割が大きく、米国の「ファイト・フォー・フィフティーン」運動のように、最低賃金引き上げを求める社会運動が賃上げに結び付きました。日本でも春闘や最低賃金署名運動による効果が大きく、組合のない企業でも労働者の意見が反映される仕組みを構築する必要があります。
  • サプライチェーンでの生活賃金遵守:ILOや国連は、企業が自社従業員だけでなく請負業者やサプライチェーンの労働者にも生活賃金を支払う行動計画を策定することを求めています。政府調達や大企業のCSRに生活賃金遵守を組み込み、下請けや外国人労働者の待遇改善を促します.

5.社会保障と生活コストの引き下げ

  • 住宅・医療・教育費の負担軽減:生活費の主要部分は住居費・医療費・教育費などの非勤労支出で占められます。公共住宅の拡充、医療費の自己負担軽減、教育の無償化などで生活費を下げ、賃金への依存度を減らします。
  • 所得再分配と税制の改善:低所得者への税額控除や給付付き税額控除を導入して、就労によって手取りが減る「働き損」を防ぎます。生活賃金未満の労働者には所得補足制度を整備し、副業や短時間労働でも生活が維持できるようにします。

6.経済・社会の構造転換

  • 生産性向上と価格転嫁の仕組み:賃上げには生産性向上と価格転嫁がセットで必要です。中小企業が賃上げ分を取引価格に反映できるよう、公正取引委員会による下請けいじめの防止や公契約条例の整備を進めます。価格転嫁ができず利益が減る企業への対応策が重要です。
  • 働き方の多様化とデジタル投資:リモートワークやフレックスタイム制を普及させることで通勤時間を削減し、子育てや介護と仕事の両立を支援します。また、デジタル投資や自動化により単位時間あたりの生産性を高め、時短と賃上げを両立させます。

おわりに(要約)

1日8時間・週5日働けば普通に暮らせる社会を実現するには、労働時間の規制を守るだけでは不十分であり、生活賃金の保障が不可欠です。労働基準法により残業の上限は設けられているものの、現行の最低賃金ではフルタイムで働いても生活が成り立たない人が多い状況です。調査によれば、単身者でも月額20〜25万円(時給1,250〜1,700円)が必要とされ、現行の最低賃金では不足しています。国際的にも生活賃金の重要性が強調されています。

したがって、全国一律の大幅な最低賃金引き上げと生活賃金制度の導入、中小企業への支援、同一労働同一賃金の徹底が必要です。長時間労働の規制や勤務間インターバルの義務化、週35時間労働への段階的移行など、働き方改革を進めることも求められます。さらに、非正規雇用の安定化、ハラスメントの根絶、労働組合による社会的対話の強化、社会保障の充実、価格転嫁の仕組み整備とデジタル投資など、賃上げと時短を支える総合的な政策が欠かせません。これらの施策を政治の責任で着実に進めることで、どのような労働者であっても週5日・8時間労働で暮らしていける社会を実現できるでしょう。


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