SOXSはNYSE半導体指数の1日変動率に対して–300%のリターンを狙うデイリー型の逆張りレバレッジETFです。運用会社はスワップ取引などのデリバティブを用いて目標とする倍率を毎日リバランスするため、指数が1%下落した日は理論上3%上昇し、逆に指数が1%上昇した日は3%下落します。また長期保有時は日次リセットによる複利効果とボラティリティによって指数の累積変動とは大きく乖離します。2025年9月に公表されたレバレッジETFの説明資料では、2×・3×ETFでは投資1ドル当たり2ドルや3ドル分のリスクを負うこと、1日目標のため期間を跨いだ値動きは複利によって増減幅が変わること、損失時には純資産が減ってエクスポージャーが自動的に縮小するので長期的には「減価」しやすいことが説明されています。
過去の類似事例
2020年のコロナショックと原油価格戦争で市場の変動が急激に拡大した際、デリバティブコストの上昇を受けてディレクション社は10本の3倍レバレッジETFを2倍へと変更しました。投資目的は「300%または-300%の1日リターン」から「200%または-200%の1日リターン」に引き下げられ、商品名も「Bull 3X」「Bear 3X」から「Bull 2X」「Bear 2X」へ変更されました。この変更はベンチマーク指数に対するエクスポージャーの倍率を修正するだけで、保有株数や市場価値は即座に変わりません。投資家のリスクが抑えられ、指数が逆方向に動いた際の損失幅が小さくなる一方、指数が想定通り動いた際の利益幅も小さくなります。
SOXSについては価格低下時に複数回のリバーススプリット(株式併合)が行われてきました。2024年4月には「1株→0.1株」の1対10リバーススプリットが実施され、発行株数を約90%減らし1株あたりの価格を10倍に引き上げました。例えばスプリット前に1株3.21ドルだった株価は分割後に約32ドルとなり、保有者の投資額は変わりません。2024年4月時点の月次データを見ると、リバーススプリット直前の実勢株価は3〜5ドル台で推移していたことがわかります。
3×ベアから2×ベアに変更された場合の株価
仮にSOXSが暴落し、運用会社が3倍の逆レバレッジを維持できないと判断して2倍へ変更すると、ETFは今後ベンチマーク指数の日々の変動率に対し–200%の成果を目指すようになります。この変更そのものは株式併合や株式分割とは異なり、基準価額や市場価格を機械的に半分にするものではありません。変更日以降のリスクが減るため、指数が一定割合下落したときの価格上昇率は従来の2/3程度にとどまり、逆に指数が上昇した日の下落率も2/3程度になります。例えば基準日当日にSOXSが20ドル、ベンチマーク指数がその後1日で5%下落した場合、従来の3×ベアなら6ドル上昇して26ドルになったと予想される場面で、2×ベアでは4ドル上昇して24ドル程度となります。その後指数が上下に振れるにつれて複利効果が加わり、3×と2×で価格軌跡の差が大きく開きます。
ただし、レバレッジ比率が縮小したとしてもSOXSの特徴である「日次複利リセット」が変わらないことから、中長期的には指数の値動きが横ばいまたは乱高下した場合に価値が目減りしやすい傾向は残ります。一方、ベア型ETFのレバレッジ減少によって急激な価格変動が緩和されるため、価格が著しく低下した際にはリバーススプリットの頻度が減り、上場維持基準を満たしやすくなります。
変更ボーダーの予測
実際に3倍から2倍への変更が行われる要因は主に二つあります。1つ目は基準指数の急激な変動とデリバティブ市場の流動性低下です。2020年3月の変更は原油や株式市場の極端な値動きによりスワップ契約のコストが跳ね上がり、3倍レバレッジを維持するのが難しくなったために実施されました。2つ目はETF価格の低迷による運用効率の悪化です。SOXSは過去10年で9回のリバーススプリットを行っており、通常は株価が数ドル台に落ち込むとスプリットが検討されます。レバレッジ比率の変更も、基準価額が繰り返し下がり市場価値が維持しづらくなった時点で検討される可能性があります。具体的には半導体指数が反転上昇し続け、SOXSの価格が数ドル台に沈んだ状態が長期化して新たなリバーススプリットを実施しても迅速に価格を回復できないと判断される場合がボーダーとなるでしょう。
弁証法的考察
弁証法ではある命題(テーゼ)に対し反対命題(アンチテーゼ)を提示し、それらを統合する形で総合(ジンテーゼ)に導きます。SOXSの3×レバレッジを維持するテーゼは「指数が下落すれば大きな利益が狙えるが、指数が上昇すると短期で価値が激減する」という高リスク高リターン戦略です。これに対するアンチテーゼは、2×へ引き下げることで「利益率は下がるが損失幅も抑えられ、極端な市場変動によるETFの崩壊リスクを軽減できる」という安全性重視の立場です。両者を統合するジンテーゼとして、基準指数のボラティリティが高まっている局面ではレバレッジを引き下げて耐久力を高め、ボラティリティが落ち着き方向感が明確になれば再び高レバレッジ商品を投入するなど、状況に応じた柔軟なレバレッジ設定が必要だと考えられます。また、個々の投資家にとっては、ETF自体のレバレッジ変更に振り回されず、取引期間を短期に限定しリスク管理を徹底することが重要です。
まとめ
- SOXSの仕組み:NYSE半導体指数の1日変動率に対して–300%のリターンを目指すデイリー型逆レバレッジETFで、日次リバランスによる複利効果が長期的な価値減少につながりやすい。
- レバレッジ変更の前例:2020年には市場の極端な変動を受け、ディレクション社が複数の3倍ETFを2倍に引き下げた。変更による株価の機械的な増減はなく、以後は–200%のリターンを目指す。
- リバーススプリット:SOXSでは株価が数ドル台に低迷すると1対10などの株式併合が繰り返し行われており、2024年4月にも実施された。これにより株価水準が引き上げられるが投資価値は変わらない。
- 価格への影響:3×から2×に変更されると、指数下落時の上昇幅は従来の約2/3になり、指数上昇時の下落幅も緩やかになる。変更日当日に株価が半分になるような調整は発生しない。
- 変更ボーダー:基準指数の急激な変動やデリバティブ市場の流動性低下、ETF価格の低迷が長期化してスプリットを繰り返しても効果が薄い場合がレバレッジ縮小の検討ラインとなる。
- 弁証法的見解:高レバレッジによる高リターン期待と、リスク制御の観点からのレバレッジ縮小の間でバランスを取ることが求められ、投資家は自らのリスク許容度と投資期間に応じてポジションを調整することが重要である。

コメント