正(テーゼ):高バリュエーションは低リターンにつながる
- シラーPER(CAPE)の異常値
2025年10月時点でS&P500のシラーPER(P/E10)は39.2と歴史的な水準にあり、長期平均17.7を大きく超えています。この水準は過去の高値圏(1929年・2000年)の数値に匹敵し、現在の比率は長期平均の122%上方に位置している。
Forbesの記事も同様に、シラーPERが40に迫る水準であることを指摘し、このような高いPERは過去のバブル後に大きな下落が続いてきたと述べています。 - 歴史的なピーク後の長期停滞
1929年や2000年の高PER期の後には、株価が数年にわたり大きく下落し、その後長期間にわたる低リターンに直面した過去があります。 - 他地域とのバリュエーション格差
Research Affiliatesの分析では、2025年時点で米国大型株(CAPE 33.9)が96パーセンタイルにあるのに対し、先進国(米国除く)大型株はCAPE 18.7で40パーセンタイルと大幅に割安としています。同社は米国大型株の10年期待リターンを1.5%(実質)、先進国大型株を**6.1%**と見積もり、評価差が将来のリターン差として表れると指摘しています。 - 利率と株価の関係
Advisor Perspectivesは、現在のP/E10比率が最上位の五分位にあり、このゾーンから市場が平均的水準に回帰する際には大幅な下落が必要だと述べています。シラーPERは投資タイミングを示す指標ではないものの、スタート地点のバリュエーションが高ければ将来の実質リターンが低下する傾向は統計的に支持されています。
この立場では、米国株の超高バリュエーションが長期リターンの頭打ちを示唆し、グローバルな分散投資が必要だと主張します。
反(アンチテーゼ):高バリュエーションでも成長余地は残る
- イノベーションが支える高収益
Forbesの記事は弱気論への反論として、AI・量子コンピューティング・バイオテクノロジーなどの技術革命が企業収益を飛躍的に押し上げる可能性を挙げています。高PERは将来の高い利益成長を織り込みつつあり、今後実体経済がそれに追随すれば現在の評価は必ずしも過大とは言えません。 - 国際資本の流入と自社株買い
米国市場は依然として世界の資本の安全な避難先とされ、多大な海外資金が米国株を支えています。加えて、多くの大型企業が潤沢なキャッシュフローを背景に積極的な自社株買いを行っており、一株あたり利益の押し上げ効果が株価を下支えします。 - 市場構造の変化
現在のS&P500はソフトウェアやプラットフォーム企業が多くを占め、資本集約型で利益率が低かった過去の市場とは構造が異なります。インターネットやクラウドによるネットワーク効果、持続的なサブスクリプション収入が利益の安定性を高め、高PERを正当化するとの見方もあります。 - 金利政策への期待
フェデラル・リザーブが景気悪化時には緩和的な政策をとるとの「Fed put」信仰が広く存在し、市場に安心感を与えています。加えて、米国企業の生産性向上や労働市場の強さは景気後退のリスクを緩和する可能性があります。 - 具体的なリターン予測
資産運用会社の多くは米国株の10年リターンを**5~7%前後と予想しています。例えばチャールズ・シュワブは2024年10月時点での10年名目リターンを米国大型株6%・米国小型株6.2%・先進国株7.1%・新興国株7%**と見込んでいます。これらの予測は高バリュエーション下でも中程度の成長が見込めるという見方を示します。
この立場では、米国株は高評価ながらも革新的な企業構造と資金流入に支えられ、長期的には堅調な成長が続く可能性を主張します。
合(ジンテーゼ):高バリュエーションと成長期待を統合する視点
両極端の主張を踏まえると、以下のような統合的な視点が導かれます。
- 長期平均を下回る可能性
歴史的に見ると、シラーPERが極端に高い局面の後には10〜20年単位で低リターンが続く傾向がある。現在のP/E10が100年以上の歴史で上位1%に入る水準であることから、長期的には平均以下のリターンを覚悟すべきです。 - 成長企業への恩恵も存在
ただし現代の米国企業は高い収益性と成長性を持つため、過去の統計だけでは将来を完全に予測できません。AIなどの技術革新が実体経済を大きく押し上げれば、現水準のPERでも十分なリターンが得られる余地があります。 - 分散とリバランスが鍵
バリュエーションの高さを考慮すれば、米国一極集中のポートフォリオはリスクが高い。Research Affiliatesは、先進国(米国除く)や新興国の大型株の期待リターンが米国大型株を大幅に上回ると示しており、国際分散によるリスク低減が有効です。
また、バリュー株や小型株などスタイルの分散も検討するとよいでしょう。 - 期待リターンの現実的な設定
シュワブや他の運用会社による6%前後の予測は、過去の長期平均よりやや低いものの悲観的すぎない合理的な水準です。インフレや金利を考慮すると、実質リターンは**3〜4%**にとどまる可能性があり、投資家はこれを前提に資産計画を立てるべきです。 - リスク管理の重要性
高バリュエーション局面では相場の変動が大きくなるため、分散投資・リバランス・十分な流動性確保が欠かせません。相場急落時にも投資計画を守れるよう、リスク許容度に応じたポートフォリオ調整が必要です。
予想リターン比較(キーワード)
| 資産クラス | 予想年率リターン (Schwab,10年) | Research Affiliatesの見解 |
|---|---|---|
| 米国大型株 | 約6% | 実質約1.5% |
| 米国大型バリュー株 | – | (数値は提示されていないが割安感あり) |
| 米国小型株 | 約6.2% | – |
| 先進国大型株(米国除く) | 約7.1% | 実質約6.1% |
| 新興国株 | 約7% | – |
注: Research Affiliatesは実質リターン(インフレ調整後)の推計であり、Schwabは名目リターンの推計です。
要約
- 高いシラーPER:2025年のS&P500のP/E10比率は約39で、歴史的平均を大幅に上回り、トップ1%の高さにあります。
- 過去の教訓:歴史的に高バリュエーションの後には長期停滞が訪れたことが多く、Research Affiliatesは米国大型株の実質リターンを約1.5%と低めに見積もっています。
- 反論:AI革命や国際資本流入、自社株買いなどが今後の企業利益を押し上げ、現行水準の高PERを正当化するとの意見もある。資産運用会社の予測では米国大型株の10年名目リターンが約6%と、過去ほどではないが一定の成長が見込まれます。
- 統合的見解:米国株は高評価であるため将来のリターンは過去平均を下回る可能性が高いが、技術革新と市場構造の変化がリターン低下を和らげる可能性もある。リスク管理を重視し、欧州や新興国など割安な地域への分散投資やスタイル分散を取り入れることが重要です。

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