テーマの背景
近年の金融市場では突然の暴落や急落に直面することが少なくありません。株価が急落すると、多くの投資家は恐怖から売却を検討しがちです。本稿では、資産形成に成功した日本の投資家3人(伝説のファンドマネージャー清原達郎氏、個人投資家・井村俊哉氏、元消防士で高配当株投資家のかんち氏)が暴落時に採るべき戦略を提示しています。各人物の考え方を「主張(テーゼ)」と「反対命題(アンチテーゼ)」に捉え、相矛盾する部分を検討したうえで総合的な結論(ジンテーゼ)を導きます。
主張(テーゼ):清原達郎氏の逆張り哲学
- 売らない勇気
清原氏は「株価が下がったときに絶対に売らないことがいちばん大切」と強調します。相場が大きく下げたらむしろ買いに出るべきで、買った後にさらに株価が下がっても気にしない姿勢が求められます。積み立て投資を用いて買い下がることが基本です。 - 逆張り(コントラリアン)の発想
市場が総悲観に陥ったときには、人々が売るからこそ価格が割安になっていると考え、むしろ積極的に買い増します。一般的なコントラリアン投資では、相場が強気のときには売り、弱気のときには買うことで、市場の過剰反応を収益機会とします。 - 長期志向と分散投資
相場の一時的な下落理由を深刻に受け止めず、長期視点で価格変動を無視する姿勢を貫きます。売却益は再投資に回し、生活費は配当金でまかなうなど、分散投資でリスクを抑える点も重視されます。
暴落は安く買える“バーゲンセール”であり、どれだけ下がっても売らないことが合理的であるとする哲学です。株価の上下に一喜一憂せず、資金があれば追加で買っていくことが正解とされます。
反対命題(アンチテーゼ):井村俊哉氏の慎重姿勢
- ファンダメンタルズは死なず
井村氏は急落時でも「株価が死んでもファンダメンタルズは死なず」と述べ、株価と企業価値の乖離を冷静に見極めることを強調します。 - 資金管理の3原則
暴落時の鉄則として、①ファンダメンタルズ重視、②相場の金と凧の糸は出し切らない、③手のひらに汗をかかない取引を挙げています。一度に全額投じず、余力を残して段階的に資金を投入することがポイントです。 - 割安株への集中投資
「本源的な価値に対して極めて割安の株を徹底的に調べ、価値が顕在化するカタリストが見えたタイミングで集中投資する」という投資手法をとります。市場に無視されている割安銘柄を狙い、適切なきっかけが出現したら一気に投資する手法です。
井村氏は市場が暴落するときでも、株価と企業価値の乖離を分析し、資金を温存しながら段階的に買い増します。暴落を「ひたすら買うチャンス」とみなす清原氏と異なり、慎重に企業価値を測りつつ投資時期を選ぶ点が対照的です。
別の反対命題:かんち氏の高配当株重視戦略
- 高配当株中心のポートフォリオ
かんち氏は保有銘柄600以上の超分散投資を行い、ポートフォリオの比率は「高配当株5:優待株3:成長株2」であると述べています。年間約2400万円の配当金と優待品を得ています。 - 暴落時を買い場と認識
米中貿易摩擦の混乱で株価が乱高下した際、かんち氏は「この状況下では株価が安いほど買いやすい。長い目で見れば今は買い時だ」と述べ、暴落当日に3000万円分を買い増しました。株価が下がれば配当利回りが上がるため、インカムゲイン狙いの長期投資家にとっては魅力的だと考えます。 - 売らない姿勢
高配当株投資は「守りながら増やす」手法であり、株価が下がっても安い時期には売らずに持ち続けることで配当収入を積み重ねることを推奨しています。
かんち氏は清原氏と同じく暴落を買い場と捉えますが、主眼はキャピタルゲインではなく配当収入にあります。また、井村氏の集中投資とは逆に、600を超える銘柄への超分散投資によってリスクを抑えている点も特徴的です。
対立点の整理
| 投資家 | 暴落時の基本姿勢 | 資金管理 | 投資対象・視点 |
|---|---|---|---|
| 清原達郎氏 | 「下落はチャンス、ひたすら買う」「絶対に売らない」 | 下がるほど投資額を増やし、段階的に資金投入 | 割安株を逆張りで買う。短期変動は無視し長期保有。 |
| 井村俊哉氏 | 株価下落でもファンダメンタルズを重視 | 一度に資金を投入せず、段階的に買う | 本源的価値と株価の乖離を分析し、カタリスト出現時に集中投資 |
| かんち氏 | 暴落を恐れず、株価が下がるほど買い時と考える | 長期保有し、安いときは売らない | 高配当株を中心に超分散ポートフォリオを構築 |
清原氏の逆張り哲学は「ひたすら買う」「売らない」というシンプルな行動原理で、暴落の理由を深刻に捉えないのが特徴です。井村氏は企業価値と株価の乖離に着目し、割安な局面で集中投資するためファンダメンタルズ分析と資金管理を重視します。かんち氏は高配当株によるインカムゲインを重視し、超分散投資でリスクを抑えるというスタイルをとります。暴落時に配当利回り向上を狙って買い増す点が清原氏と共通しますが、収益源がキャピタルゲインではなく配当である点が異なります。
総合(ジンテーゼ):3者の戦略の統合から見える教訓
弁証法では、テーゼとアンチテーゼの対立からより高次の結論を導き出します。今回の事例から次のような教訓が導けます。
- 長期的な視野と恐怖に左右されない姿勢の重要性
清原氏とかんち氏のように暴落を一時的な値下がりと捉え、慌てて売却しない姿勢は、多くの成功投資家が共有しています。市場が強気か弱気かにかかわらず相場に振り回されない点は、投資の原則として普遍性があります。 - ファンダメンタルズと資金管理の必要性
「とにかく買い続ける」だけでは危険もあります。井村氏が示すように、企業価値と株価の乖離を分析し、カタリストが見えた時期に集中投資するなど、裏付けある投資判断が必要です。資金を一度に使い切らず、暴落が長期化した場合でも追加投資できる余裕を持つことが望まれます。 - インカムゲインと分散の活用
かんち氏のように高配当株によるインカムゲインを軸にすると、暴落時でも配当収入が支えとなり心理的余裕を持てます。また、600銘柄以上に分散投資することで個別企業のリスクを抑える工夫も参考になります。
これらを統合すると、暴落相場での最適解は「慌てて売らず、長期視点を持ちながら、企業価値をよく調べて段階的に買い増し、配当などのインカムゲインも考慮して分散投資を行う」ことだと言えます。逆張りの勇気とファンダメンタルズの分析力、そして安定収入を生むポートフォリオ構築を組み合わせることで、暴落を単なる危機ではなく、資産を増やす機会に変えられる可能性が高くなります。
要約
- 清原達郎氏は暴落を「バーゲンセール」と捉え、株価下落時には決して売らず積極的に買い増す姿勢を貫きます。
- 井村俊哉氏は、株価下落でもファンダメンタルズに注目し、割安株に対してカタリストが見えるタイミングで集中投資します。暴落時でも資金を温存し、手のひらに汗をかかない取引を心掛けます。
- かんち氏は高配当株を中心とした超分散ポートフォリオを構築し、暴落時でも「安いほうが買いやすい」と考えて追加投資を行い、安くなった株は売りません。株価が下がるほど配当利回りが上がるので、暴落を長期的な配当収入の好機とみなします。
- これらの戦略を総合すると、暴落相場では短期的な恐怖に惑わされず、企業の本質的価値と資金管理を重視した上で段階的な買い増しを行い、配当収入を取り込む分散ポートフォリオを持つことが合理的な対応策となります。

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