VT(Vanguard Total World Stock ETF)とeMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)は、ともに世界中の株式に分散投資する商品ですが、連動する株価指数が異なります。VTはFTSE社の**「FTSE Global All Cap Index」に連動し、eMAXIS SlimオールカントリーはMSCI社の「MSCI ACWI(オールカントリー・ワールド・インデックス)」**に連動しています。以下では、この2つの指数の違いを詳しく比較・解説します。
各指数の概要と特徴
- FTSE Global All Cap Index(FTSE グローバル・オールキャップ):FTSEラッセル社が算出する指数で、先進国から新興国まで世界48か国の株式市場をカバーしています。大型株・中型株に加えて小型株まで含む「オールキャップ」の指数であり、**世界全体の時価総額の約98%**をカバーする非常に幅広い指数です。構成銘柄数は約8,000~9,000社にも及び、文字通り世界中の株式市場をほぼ丸ごと取り込んでいる点が特徴です。
- MSCI ACWI(オールカントリー・ワールド指数):MSCI社が算出する指数で、先進国23か国と新興国24か国、合わせて世界47か国の株式市場をカバーします。ただし大型株と中型株のみを対象としており、小型株は含みません。そのため対象の時価総額は世界全体の約85%程度に留まります。構成銘柄数は約2,700~3,000社程度で、FTSEのオールキャップ指数よりは少ないですが、主要な大型・中型企業を網羅したグローバル指数です。
※両指数とも先進国株式と新興国株式の両方を含む点では共通しており、世界全体の株式市場動向を捉えることを目的としています。ただし、採用銘柄の範囲(特に小型株の扱い)に違いがあります。
指数構成の違い(カバー範囲、採用銘柄数など)
- カバーする国・市場:MSCI ACWIが47か国、FTSE Global All Capは48か国を含みます。国数に大きな差はありませんが、国の分類方法に若干の違いがあります。例えば**「韓国」や「ポーランド」**の扱いが異なり、FTSEではこれらを先進国に分類するのに対し、MSCIでは新興国に分類しています。もっとも、どちらの指数にも両国の企業は含まれており、含有国そのものは実質ほぼ同じです。
- 構成銘柄数:MSCI ACWIは大型株・中型株のみのため約3000社弱ですが、FTSE Global All Capは小型株まで含むため約8000~9000社と桁違いに多くの銘柄で構成されています。FTSE指数の方が約3倍もの銘柄数を持つのは、小型株も網羅しているためです。ただし後述するように、銘柄数が多いからといって必ずしも指数全体の動きに大きな差を生むわけではありません。
- 時価総額カバー率:MSCI ACWIが各国市場の上位85%程度の時価総額をカバーするのに対し、FTSE Global All Capは約98%というほぼ完全なカバー率を誇ります。つまりFTSE指数はほとんど全ての投資可能な株式を含んでいるのに対し、MSCI指数は各市場で規模の小さい15%程度の株式(主に小型株)を除外しています。この違いが、両指数の根本的な構成の差と言えます。
- 大型株・中型株・小型株の範囲:MSCI ACWIは各国の大型株・中型株に限定しており、FTSE Global All Capとの差分となる小型株部分は含まれません。一方、FTSE Global All Capは各国の小型株まで組み入れるため「オールキャップ」と名付けられています。ただし、FTSEの手法でも**極端に小さい銘柄(いわゆるマイクロ株)**は除外しており、全ての小型株が無制限に入るわけではありません。概ね「FTSEは各市場の下位約10%程度の極小企業を除いた90%以上を採用」「MSCIは下位15%を除いた85%を採用」というイメージで、小型株への包括度合いが異なります。
- 代表的な構成銘柄・上位ウェイト:両指数ともに上位の構成銘柄は共通する部分が多く、例えばアップル、マイクロソフト、アマゾンなど米国の巨大IT企業が最上位に来る点は同じです。ただ、MSCI ACWIは大型株中心のため上位銘柄への集中度がやや高く、上位10銘柄の合計ウェイトはおおよそ11~12%前後になります。FTSE Global All Capは小型株まで分散されている影響で上位銘柄の比率が少し薄まり、上位10銘柄の合計は約10%前後と、MSCI ACWIに比べて若干低めです。つまり、FTSEオールキャップの方が個別銘柄への依存度が低く分散が効いていると言えます。
投資対象の違い(地域配分・小型株有無など)
- 先進国株と新興国株の比率:どちらの指数も先進国株式が主体で、新興国株式は一部を占めます。比率は市場環境で変動しますが、新興国株のウェイトは概ね10%前後です。MSCI ACWIでは韓国を新興国に含む分、新興国比率がやや高め(例:約11~12%)になる一方、FTSEでは韓国を先進国側に計上するため新興国比率はやや低め(例:約10%程度)になります。ただし両者で新興国を含むか除外するかといった極端な差はなく、どちらも主要な新興国(中国、インド、ブラジル等)をきちんと含んでいます。先進国株式についても、MSCIでは47か国中23か国が先進国、FTSEでは48か国中およそ25か国が先進国として扱われますが、結果的に先進国全体のウェイトは約88~90%前後で大差ありません。
- 地域・国別の構成比:最大の比率を占める国はアメリカ(米国)株式で、これは両指数とも同様です。米国株のウェイトはおおよそ55~60%程度となっており、世界株式指数では米国が過半を占めます。次いで日本やイギリス、フランス、カナダなどの先進国市場がそれぞれ数%ずつ、中国、インド、台湾などの新興国市場も数%規模で続きます。FTSEとMSCIで国別構成に大きな差異はありませんが、わずかな違いとして日本株の比率はFTSE指数の方が若干高めになる傾向があります(FTSEは日本を先進国として重視し、韓国を含まない分、日本の先進国中での相対比率が上がるため)。しかしその差も1%程度の微差であり、基本的な地域分散の傾向(米国中心、次いで欧州・日本・新興国)は両指数で共通しています。
- 小型株の有無:繰り返しになりますが、両指数の最大の構成上の違いは「小型株を含むかどうか」です。FTSE Global All Cap Indexは世界中の小型株まで投資対象に含むため、例えば中小企業にも幅広く投資しているのが特徴です。一方でMSCI ACWIは小型株を含まないため、中小企業への投資比率はゼロで、大型企業への投資割合が相対的に高くなります。これにより、FTSE指数をベンチマークとするVTは小型株の成長や値動きも取り込めるのに対し、MSCI指数をベンチマークとするeMAXIS Slimオールカントリーは大型・優良企業中心のポートフォリオになります。
- 指数算出の微妙な差:上記以外にも、指数提供会社による浮動株比率の考慮や定期見直しのタイミングなど細かな違いは存在します。しかしそれらは投資家から見て直接の大きな違いを生むものではありません。基本的には、FTSEもMSCIも時価総額加重型で世界中の株式市場を幅広くカバーするという点では共通しており、投資コンセプトは似通っています。
違いが投資家に与える影響(リターンとリスク)
- リターン(パフォーマンス)への影響:両指数はカバー範囲に違いはあるものの、全世界の株式市場の動きを反映するという点では同じため、長期的なリターンは非常に近いものになります。実際、過去の実績を見ると両者の年間リターンはほぼ同じで、差は年率で0.数%程度に収まる年が多いです。わずかな差が生じる要因として、小型株の含有有無が挙げられます。小型株は一般にリスクが高い分、高成長によるリターン上振れの可能性があります。好景気で小型株が大型株より好調な局面では、FTSEオールキャップ指数(VT)の方がMSCI ACWI(オールカントリー)よりリターンがやや高くなる傾向があります。一方、市場局面によっては大型株(特に米国のハイテク大型株)が牽引する場合もあり、その場合は大型株に重点を置くMSCI ACWIの方が有利になることも考えられます。ただ長期的には両指数のリターン差はごくわずかと見込まれ、どちらかが安定的に優れているわけではありません。
- リスク(変動性)への影響:小型株を含むFTSE Global All Capの方が、若干リスク(価格変動の振れ幅)が大きくなる可能性があります。小型株は一般に株価変動が大きく景気変動の影響も受けやすいため、指数全体としてもボラティリティがやや上乗せされる傾向があります。ただし小型株の全体に占める比率自体はそれほど高くない(全世界の時価総額の一割程度)ため、その影響は限定的です。一方、MSCI ACWIは大型・中型株中心のため比較的安定した優良企業が多く、ボラティリティはやや低めになると考えられます。また前述のようにMSCI指数は一部の巨大企業への集中度が高いため、特定企業や特定セクターの動向に左右されるリスクはFTSE指数よりわずかに大きいと言えます(例:上位数社のハイテク企業の株価変動が指数全体に与える影響が大きい)。しかしこちらも差異は小さく、どちらの指数も分散が非常に効いた全球株式ポートフォリオである点に変わりはありません。
違いが投資家に与える影響(コストや為替リスクなど)
- 投資コストの違い:指数そのものの違いが直接コストを生むわけではありませんが、実際に投資商品として見た場合にはVTとeMAXIS Slimオールカントリーでコスト面の違いがあります。VT(海外ETF)は経費率が年率0.07%前後と非常に低廉ですが、米国市場で取引されるETFであるため、日本の投資家が購入する際は為替手数料や海外ETF取引手数料がかかる点に留意が必要です。一方、eMAXIS Slim全世界株式(オールカントリー)は日本の投資信託で、信託報酬が年率約0.1%程度とこちらも極めて低コストです。国内証券会社で円建てで購入でき、購入時手数料も基本無料(ノーロード)です。また、つみたてNISA等の税制優遇口座を利用して積立投資ができるなど、国内投資信託ならではの利便性もコスト面のメリットと言えます。総じて、日本在住の個人投資家にとっては手間や追加コストの少ないeMAXIS Slimシリーズの方が利用しやすい場合が多いですが、VTも運用コストそのものはわずかに低く抑えられているため、大口資金で為替手数料の影響が小さい場合などでは魅力的です。
- 為替リスクの違い:どちらの投資商品も為替ヘッジなしで海外株式に投資する点では共通しており、為替リスクの性質に大きな差はありません。eMAXIS Slimオールカントリーは円建ての基準価額で表示されますが、その裏側で海外の株式に投資しているため、円と各国通貨(ドル、ユーロ、元など)との為替変動が基準価額に影響します。VTもドル建てで取引されますが、組入れている各国株式の値動きと各通貨の変動を反映してETF価格が動きます。結果として、円高になると双方とも円換算の評価額が目減りし、円安になると評価額が上昇するという為替リスク/リターンは同じです。厳密に言えば、両者とも指数に日本株(円建て資産)が数%含まれるため、その分だけ円資産も持っていますが割合は小さく、全体としては主にドルをはじめとする外貨資産への投資になります。従って、「VTだから為替リスクが大きい/小さい」「投信だから有利」という違いはありません。ただし実務面では、VTを購入する際に円をドルに両替する必要があるため購入時点で為替レートの影響を受けるのに対し、eMAXIS Slimなら円でそのまま購入できるという違いはあります(どのみち基準価額に反映されるため経済的な差異はありませんが、心理的ハードルや手間の差として意識されます)。
まとめ:指数の比較表
最後に、FTSE Global All Cap IndexとMSCI ACWIの主な違いを表形式でまとめます。
比較項目 | FTSE Global All Cap Index (VT連動) | MSCI ACWI (オールカントリー連動) |
---|---|---|
指数の提供会社 | FTSEラッセル社 | MSCI社 |
カバー範囲 | 全世界株式(先進国+新興国) | 全世界株式(先進国+新興国) |
構成国数 | 約48か国(韓国・ポーランドを先進国分類) | 約47か国(韓国・ポーランドを新興国分類) |
構成銘柄数 | 約8,000~9,000銘柄(大型・中型・小型株) | 約2,700~3,000銘柄(大型・中型株) |
時価総額カバー率 | 約98%(投資可能なほぼ全ての株式) | 約85%(各市場の上位大型・中型のみ) |
小型株の含有 | 含む(世界の小型株まで網羅) | 含まない(小型株は除外) |
先進国/新興国比率※ | 先進国:約90%、新興国:約10% | 先進国:約88~89%、新興国:約11~12% |
主な上位構成国 | 米国(約55~60%)、日本、英国、中国など | 米国(約55~60%)、日本、英国、中国など |
上位銘柄集中度 | やや低い(トップ10で約10%) | やや高い(トップ10で約11~12%) |
想定リスク水準 | やや高め(小型株含むため若干ボラティリティ上乗せ) | やや低め(大型株中心で安定性高い) |
想定リターン傾向 | 小型株効果で若干上振れ余地あり?※長期的にはほぼ同等 | 大型株中心で堅実※長期的にはほぼ同等 |
※先進国/新興国比率は目安(市場環境や指数計算の分類によって変動)。韓国などの分類差によりMSCIの方が新興国比率がやや高くなる傾向があります。
以上の比較から、VTとeMAXIS Slim全世界株式(オールカントリー)の違いは**「連動指数が小型株を含むか否か」とそれに伴う**細かな構成比率の差に集約されます。どちらも世界中の株式に分散投資できる優れたインデックスファンド/ETFであり、リターンやリスクの大きな違いはほとんどありません。日本の投資家にとっては購入・運用のしやすさやコスト面からeMAXIS Slimシリーズを選ぶメリットが大きい一方、VTも低コストでグローバル株式に投資できる有力な選択肢です。それぞれの指数の特徴を理解した上で、自身の投資スタイルに合った商品を選択すると良いでしょう。
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