特定株式投資信託とは、投資信託のうち「信託財産が株式のみで構成され、信託期間の定めがなく、受益証券が証券取引所に上場されているもの」を指します。具体的には、株価指数に連動する上場投資信託(ETF)が典型例です。この制度は、株式投資信託のうち特に上場型であるものを株式と同等に扱うことで、個人投資家にとって税務上の取扱いを明確化し、ETFなどの普及を促進する目的で導入されました。上場株式等と同様の税率で分配金を課税し、所得区分も「配当所得」として扱うことで、二重課税の回避と投資の促進を図っています。
所得税法上の取り扱い(課税方法・非課税措置)
特定株式投資信託の収益の分配は所得税上「配当所得」に該当します。分配金(信託の分配収益)を受け取った時点で源泉徴収税率15.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%、住民税5%)が徴収され、原則としてこれにより納税が完結します(確定申告不要制度)。納税者は確定申告によって総合課税扱いにし、配当控除を受けることも可能です。総合課税を選択する場合、所得金額に応じて配当控除(配当金額に対する10%または5%)が適用されます。なお、一定額以下の分配金であれば所得税法上の「少額配当」に該当し、申告不要を選択できる点も他の株式所得と同じです。一方、源泉分離課税(いわゆる源泉完結型)は適用されず、分配金はすべて配当所得として扱われます。
また、NISA(少額投資非課税制度)の対象商品である特定株式投資信託であれば、分配金も非課税となります。さらに、投資家が特定口座(源泉徴収あり)で取引すれば、分配金受領時に税務処理が自動化され、納税手続きが簡略化されます。なお配当控除の適用には要件があり、国内株価指数に連動するETFなど国内株主体の商品であることが必要です。外国株価指数連動型ETFや外貨建資産が過半数の投資信託の分配金は配当控除の対象外となります。
他の株式投資信託との違い
- 上場・取引形態:特定株式投資信託は証券取引所に上場しており、投資家は株式と同様に売買できます。他方、公募株式投資信託(通常のミューチュアルファンド)は上場せず、投資家は証券会社で買付・換金請求を行います。
- 信託契約の内容:特定株式投資信託は信託契約期間を定めず、受益者からの任意償還請求が原則できない仕組み(クリエーション/リデンプション方式)が採用されます。一般の投信では信託期間が定められる場合があり、任意償還にも柔軟です。
- 投資対象:特定株式投資信託は「特定の株価指数に採用される多数の銘柄の株式」のみを信託財産とし、指数との連動を目的に運用されます。一般の株式投信は運用方針が多様で、アクティブ投資や特定セクター集中、債券組入れ型などがあり得ます。
- 税務上の取扱い:いずれも分配金は基本的に配当所得ですが、特定株式投資信託の場合は上場株式と同様に配当控除の対象となるのが特徴です(国内株主体のものである限り)。一般の株式投信でも一定要件で配当控除は受けられますが、特定のETFでは別枠で扱われ、制度上より明確に優遇されています。
- 譲渡課税:上場ETF(特定株式投資信託の受益証券)の売買益(譲渡益)は、他の上場株式等と同様に譲渡所得の申告分離課税(税率20.315%)の対象となります。これも一般公募投信の譲渡益と同じ扱いですが、取引所でリアルタイムに売買できる点が大きな違いです。
税務上のメリット・注意点
- メリット:国内株式連動型ETFなどの場合、分配金に配当控除を適用できるので、実質的な税負担率を低減できます。また、上場株式と同様に分配時に15.315%で源泉徴収されるため、投資家の納税負担が一定水準に抑えられる点も利点です。さらに、確定申告不要制度を選択すれば、少額配当であれば申告を省略でき手間が省けます。NISA口座で保有すれば、分配金・売却益が非課税になる点も大きなメリットです。
- 注意点:特定株式投資信託といえども、投資対象が外国株指数の場合や外貨建資産の割合が高い商品では配当控除が認められません。また、配当控除を受けるには総合課税での申告が必要なため、所得税の累進課税の影響が増す可能性があります。確定申告不要制度を選択した場合は配当控除が受けられないことにも留意が必要です。高額所得者(課税総所得1,000万円超)の場合、配当所得全体のうち一定額超過部分の控除率が低下する計算になる点も考慮します。最後に、ETFは証券会社での売買に伴う手数料や、信託報酬のコストがかかるため、税務以外のコスト面も考えて投資判断する必要があります。
関連法令・条文
- 所得税法第24条
- 所得税法施行規則第81条の5
- 租税特別措置法第3条の2
- 租税特別措置法施行令第2条
- 投資信託及び投資法人に関する法律第4条第1項
- 金融商品取引法第2条第16項
要約
以下に「所得税法における特定株式投資信託」の要点を簡潔にまとめます:
■ 要約:所得税法における特定株式投資信託
- 定義と特徴
特定株式投資信託は、上場株式で構成され、取引所に上場されている投資信託(ETFなど)。信託期間がなく、株式と同様に売買可能。 - 課税の仕組み
分配金は「配当所得」として扱われ、15.315%の源泉徴収あり(住民税含め20.315%)。原則として申告不要だが、総合課税を選べば配当控除の適用も可能。 - 税務上のメリット
・配当控除で実質税負担が軽減される(国内株式中心のETFの場合)
・特定口座・NISA口座での非課税メリット
・譲渡益も上場株式等と同様に20.315%の申告分離課税 - 注意点
・外貨建てや外国株主体のETFは配当控除対象外
・配当控除は総合課税が前提(高所得者は不利になることも)
・ETFの売買には信託報酬や手数料が発生 - 関連条文(抜粋)
所得税法第24条、租税特別措置法第3条の2 など
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